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メディアグランプリ

「女子寮脱出事件」が意味するもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:葉田さつき(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ダメ、だめです。決まりです」
 
「どうしても行きたいところがあるので、朝5時に鍵を開けていただけませんか?」
 
「ダメです。なんであろうと絶対だめです」
 
寮母さんは頑固として、私たちのいうことを聞こうともしなかった。
洋子と私は顔を見合わせた。
 
「しょうがない。決行しよう!」
 
4月に大学に入り、大学付属の女子寮に入った。後からわかったのだが、住み込みの寮母さんがとても厳しくて、すぐに有名な寮だった。朝は7時にならないと寮の扉は開かず外に出られない。門限は22時で、遅れたら親と大学に通知がいった。寮は、とても女子寮とは見えない外観で飾りやでっぱりがない6階建てのコンクリートの建物だった。地方都市のはずれの一本道に沿って立ち、周りは何もなかった。二人部屋で、作り付けの机とベッドと衣類等をかけるロッカーのみしかないシンプルな部屋だった。
 
7月に、大好きなアニメーションが映画になった。私はサブヒーローのファンで、部屋に大きなポスターを額に入れて飾っていた。映画の初日、先着50名に「サイン入り色紙とセル画」がもらえるというイベントがついていた。私と同じくファンだった洋子はこの「サイン入り色紙とセル画」が欲しくて欲しくてたまらなかった。
 
どうすれば「サイン入り色紙とセル画」を得られるかを、何度も何度も考えた。
 
「地方都市中心部の映画館までいかないといけない」
「始発は5時半過ぎ、始発まで待ってられない」
「4時にでて、駅でタクシー予約しておこう」
「4時なんて扉を開けてくれるわけがない」
「5時でお願してみようか」
 
予想通り5時でも寮母さんは「うん」と言わなかった。
 
外泊には親の同意書が必要なため難しく、私たちは無い知恵を絞って考えた脱出作戦を決行することにした。
 
『女子寮脱出作戦』
私の部屋201号室の窓からシーツを結んでロープのように垂らして脱出すること。
 
同室の明美と、よく部屋に遊びに来ていた咲江が協力してくれることになった。
 
前日、4人でシーツを6枚集め、結んでロープにした。
作ったロープをベッドの足に結び付けてから眠った。
 
朝3時半、洋子と咲江が部屋に来た。
 
「決行だ!」
 
窓の脇に椅子を置き、窓を開け、ロープを外に投げた。ロープはあっという間に地面につき、余ったロープは街灯の光を浴びて土の上に白く浮かび、ヘビがとぐろを巻いているように見えた。
 
最初に洋子が窓の桟に足をかけ、ロープを持ち、降りた。
 
あっという間にいなくなった。
 
「降りた」と言うよりも「落ちた」という感じだった。
 
次は私。
 
椅子に乗り、桟に足をかけ、しっかりとロープを持ち、一呼吸して窓の外に降りた。
 
私も、あっという間に地面についてしまった。
 
ロープを持ったけど、腕の力より、体重をひっぱる引力の方が強くて、落ちてしまったという感じだった。
 
シーツで作ったロープは最初にぎっただけで全く役に立たなかった。
 
無事? に地面についた洋子と私は、落ちるときにコンクリートの壁で擦ったため、腕が一面擦り傷だらけだった。
 
時間はなかった。予約してあったタクシーに乗り、映画館に向かった。
 
着いたら66番目と67番目だった。
お目当ての「サイン入り色紙とセル画」はもらえず、セル画しかもらえなかった。
が、私たちは、映画に満足して帰った。
 
明美と咲江にケーキを買って帰り、
 
「無事でよかったね」
「ありがとう」
「2階から飛び降りる時は、シーツには50cmごとにノットのような結び目を作っておく必要があるんだね」
 
明美と咲江が手繰りあげてくれたシーツを見ながら、4人で笑いながら話をしていた。
 
この4人、今は東京、大阪、戸山、岡山と全く違う都市に住んでいる。今でも交流があるが、この話がでたことはなかった。
 
何十年も思い出していなかった話だったが、今年の1月開催された今年の目標を決める小さな勉強会で、講師が、
 
「子供のころから、今までにあった出来事で重要なことを書き出してみましょう」
と言われ、なぜか、思い出してしまった。
 
今までこの勉強会には何度も出ていて、こういう質問も何度か受けているのに、今回初めて、この『女子寮脱出事件』が出てきた。
 
今、考えると、「危ない」とか「事故」等はあまり考えず行い、
「無事でよかったけど、無謀なこと、すごいことができたのだなあ」
と思う。
 
なぜ、いまこれを思い出したのか? 1月からずっと疑問で、考えていた。
 
この前、天狼院のセミナーに出て、講師が
 
「一つの組織の価値観でずっと考えない、それに縛られないように」
 
とおっしゃっていて、はっとした。
 
「そうか、私はずっと同じ組織で同じ仕事をしている、周りの人間もほとんど変わらない」
「十分なすぎるぐらい、沢山の仕事、良い仕事をしてきた」
「この状態を脱出するときなのかな」
 
と思った、というより、気づいたのかもしれない。
 
たぶん今の組織は、普通の組織よりも固くがちがちだと思う。
 
そろそろ脱出時かな。
自分の状況、ポジション、年齢、キャリアから見てもそう思う。
 
ただ、脱出するには、周りの状況の把握と準備をしっかりしないといけない。
成功しないと意味がない。
協力者も必須だ。
シーツを使ってロープを作るときには、シーツに50cmごとに結び目が必要なように、状況に合わせた細かな配慮も必要だ。
考えることはいっぱい。行うこともたくさんある。
 
そう、今から、私は、周到に脱出作戦を練って、実行していこう。

 
 
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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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