「核融合なんて目じゃないスゲー力」の使い方
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記事:田中 翠子(ライティング・ゼミGW特講)
本当は、このマンガのことについて書くのは避けたかった。
自分の中で1位、2位を争うほど好きなマンガなのに、うまく語る自信がないからだ。
自分の中でぼんやりと感じとっている魅力があるのだけれど、それを言葉で形にしようとするとうまく捉えられない。
十分に伝えられなかったら、興味ないとすぐに切り捨てられてしまう、と思って書くのを躊躇してしまっていた。
でも、このマンガはもっと知ってほしい。
だから、逃げずに紹介してみようと思う。
作者の名前は幸村誠、マンガの名前は『プラネテス』。
このマンガは、いわゆるジャケ買いだった。
タイトルも作者も知らなくて、たしか書店で見たときに1巻の表紙の絵がとてもきれいだったから買ったのだったと思う。
きれいと言っても、華やかなきれいさではない。
内容が近未来のSFなので、地球をバックにした宇宙飛行士の絵だった。
線で描くのではなく、色の使い分けで描いている絵だった。いい意味でマンガらしくなく絵画に近い印象で、吸い込まれるような青がきれいだと思った。
絵のうまい漫画家さんが描いているのだな、と思った。
1巻を読んで、はやく続きが読みたくなり、すぐに書店へ行って全4巻を買いそろえたのだったと思う。
『プラネテス』はいつも私の本棚の一番手にとりやすい位置にある。
実家を出て一人暮らしを始めるとき、部屋が狭いので持っていけるマンガや本の量はかなり限られていた。それでも、厳選して持っていった本の中に、このマンガがあった。
何か読みたいけれどこれといって読みたい本がないときや、夜寝る前に考え事が堂々巡りして頭が冴えてしまったときなどに、ふと手にとって読むことが多い。
だから、何度もくり返し読んでいて、そのたびに気持ちが落ち着くような気がする。
ある意味、私の精神安定剤のようなものなのかもしれない。
『プラネテス』の内容を伝えるのはとても難しい。
主人公のハチが自分の宇宙船を手に入れるために、前人未到の木星行きプロジェクトに挑戦するというSFなので、成長物語と言ってもいいかもしれないが、少し違う。
ハチは、最後の最後でこんなことを言う。
「人間はみんな、核融合なんて目じゃないスゲー力を持っている」
それは、フィクションの中だけにある特殊能力の話ではなくて、現実の世界にもある力だ。
これを読んでいる人の中にもある、ごく一般的なものだ。
それはなにかというと、「愛」だ。
「愛」。むずがゆい言葉だ。
言葉に出すのはためらわれるほど恥ずかしいが、『プラネテス』の根底には「愛」がテーマとして流れている。
それも、燃えるような暑苦しい「愛」ではなくて、もっと静かで、でも強い感じの「愛」だ。
そんな「愛」について、しっかり考えたことがあるだろうか。
このマンガを読むまで、私は考えたことがなかった。
でも、考え始めたとき、目の前の具体的な問題にばかり目がいってしまい、狭くなっていた視界が、ふっとひろがったような気がした。
主人公のハチは「この力の使い方をうまくなりたい」とも言っている。
「愛」、または「愛情」は、諸刃の剣だ。
自分がよかれと思って差し出すことで、逆に相手を傷つけてしまうこともある。
だれにでも、少なからず心当たりがあるのではないだろうか。
とても強い力だが、怖い力でもある。
だから、その「使い方をうまくなりたい」という言葉に深く頷いてしまった。
私もうまくなりたい、と思ってしまった。
ただ、『プラネテス』の中では、「愛」の「うまい使い方」ははっきりと描かれていない。
もしかしたら作者自身もわかっていないのかもしれない。
しかし、世の中は、答えが明確に出ないものであふれている。
読んだときは、よくわからない……ともやもやした気持ちになるかもしれないが、ずっとずっと時間がたって、あるときふっと答えがわかる瞬間がある。かもしれない。
私もまだ、「愛」の使い方をうまくなれていない。まだ模索中だ。
作者はあとがきで、「自分は考えたってしょーがないだろと思うようなことをずっと考えているが、そんな自分の癖は治らない、せめて仲間がほしい」といったことを書いている。
私は、まんまとこの作者の仲間になってしまったらしい。
ちなみに、作者は「愛」なんてテーマを扱っているので、哲学者のようなむずかしい顔をしているのだろう、と私は思っていた。
しかし、この作者のツイッターのアカウントを見つけて、おどろいた。
まったく違う。
失礼を承知で言えば、最初はなりすましかと思った。
どう違うのかは、ぜひ、ご自身で検索して直接見てほしい。
「愛」とか青臭いこと、考えてもしょうがないよ。
そういう声が聞こえてきそうだが、このマンガの中で、主人公のハチと一緒に一度立ち止まって考えてみてほしい。
誰もが持っている「核融合も目じゃないスゲー力」を、使いこなしてみようじゃないか。
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