週刊READING LIFE vol.92

嫉妬はチャンス! 継姉よ、シンデレラを超えて行け《週刊 READING LIFE Vol,92 もっと、遠くへ》


記事:緒方愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「週間ランキング5位に福岡のAさんがランクインいたしました、おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
 
約一年前の福岡天狼院書店。文章の書き方を学ぶ「ライティング・ゼミ」の授業の為、受講生が集まっていた。
平日夜、集った男女。様々な事情があってみんなこのゼミを受けている。ゼミ開始の5分ほど、ランキング発表することが恒例となっていた。
毎週末、ゼミの受講生は、フリーテーマでライティング、エッセイなどの作文を天狼院書店の編集担当さんに提出している。
内容がおもしろく、読者に共感を得られると、天狼院書店のスタッフさんの審査に通った作品は、天狼院書店のWEBに掲載される権利を得られる。
その審査がなかなかに手厳しい。
その当時、私の原稿は4回の課題提出の内、1回しか通っていなかった。
それはもう、笑っちゃうくらいボトボト落選していたのだ。
つまり、おもしろい記事ではなかったということ。
原稿の審査結果、改善点などが毎回丁寧にフィードバックされていた。私は、落胆とジリジリあぶられるような焦燥感で、その返答を画面越しに食い入るように見つめる。
 
なぜだ、なぜ認めてもらえない。どうしたら、おもしろい原稿が書ける。
 
私は、毎週頭を掻きむしるような、どうしようもないくらいのやるせなさを抱えて、原稿を書いていた。
同期生の中には、すんなり初回から審査をパスされ継続的に掲載されている方がいる。その方の原稿を読めば、なるほど、おもしろいのだ。
だが、それは極一部のハイパーな方。
福岡天狼書店でゼミの度に顔を合わせる同期生はみんな苦しんでいた。
同じように悩んで、挑んで、でも落とされて。それでも、あきらめず、こうして仕事終わりに集っていた。
「どうしたらいいのでしょう?」
「そうですね、私の場合は」
みんなで、肩を寄せ合って、励ましあって、毎週課題投稿に挑んでいた。ゼミを受ける動機は違っていても、同じ所を目指して突き進んでいた。私たちは過酷な戦を駆け抜ける戦友だった。
そんな時、ゼミ同期のAさんの原稿が審査を通り、また、一週間のWEB閲覧数5位に食い込んだのだ。
私たちは、驚きを隠せないAさんの顔を見つめ、笑顔で拍手を贈る。まるで、自分のことのようにうれしかった。
 
だが、私は自覚していた。笑顔の裏で、どす黒い感情が私の中で渦巻いていることを。
 
どうして、私の原稿じゃないのだろう。
なぜ、私の原稿は落とされるのだろう。
どうしたらAさんのようになれる。
どうしたら、いいのだろう。
どうしたら、なぜ、どうして、なぜ、なぜ、なぜ―
 
胸が苦しくて、みんなに気が付かれないよう、静かに服の上から胸元をしわがつくほど握りこんだ。
 
何て汚い感情なのだろう、自己嫌悪で吐きそうになる。
 
これは、いけない。自分を追い込み過ぎだ、そう思い自宅にあった漫画を気晴らしに読む。何気なくページをめくり、ドキッとした。
そこには、嫉妬について書かれていた。
人が他人に嫉妬する現象は、相手のことを下に見ている時に起こるのだそうだ。
自分より劣っていると思い込んでいる相手が、自分より幸福なのが気に入らないのだ。
芸能人の結婚報道を例にして考えよう。
顔もスタイルも良く、演技力も高く、性格もスマート、そんなある男性俳優が電撃結婚をしたとする。
その結婚相手が、今を時めく女優だったとしたら。俳優と同じく非の打ちどころがなく、性格もスタイルも良く、才色兼備。誰が見てもお似合いのカップルだ。そんな二人を見て、非難するものなどいないだろう。誰もがお祝いの言葉を二人に贈る。
だが、もし、相手がお笑い芸人だったとしたら。
「美男と野獣」なんて、ワイドショーで騒がれるほど、見た目にも差があったとしたら。それだけで世間の人々はおもしろおかしく騒ぐだろう。
「なぜ、あの女なんだ」
「もっと、ふさわしい人がいるだろう」
「私の方が絶対かわいい! 私の方が幸せにできる」
そう、相手を見下し、自分の方に何かしらの勝機がある、と過大な自己評価をした時、嫉妬が沸き上がるのだ。
美人女優のように完璧な人間を前にしたら、大人しく黙る。自分には勝ち目がないと一目散に尻尾をまくのだ。
 
漫画の中でキャラクターが、他の女性に向けて、醜く嫉妬する女性たちに向けてこう言う。
「絶世の美女のクレオパトラに嫉妬する人はいる? いないでしょう?」と。
 
知りたくなかったな、そんなこと。
私は、自分の意地汚い部分を再発見し、白目を剥いて気絶したくなった。
 
まるで、シンデレラと継姉のようじゃないか。
かわいいシンデレラが気にくわなくて、狭い部屋に閉じ込めて、使用人の様に雑用をさせて。舞踏会の日には自分たちだけ着飾って舞踏会へ参じる。きらびやかなドレスを着飾った内側で「私の方がかわいい、私の方が王子様にふさわしい!」と言わんばかりだ。
だが、結局、シンデレラは親切な魔女に手助けされて、王子に出会い、幸せを手に入れるのだ。
嫉妬で狂った醜い継姉は、幸せにはなれない。
世間では、突然の幸運で幸せを手に入れた方を見て「シンデレラストーリー」なんて言うけれど。本当にそうだろうか、と私は思う。
シンデレラはただそこにいただけで、周りが羨む幸せを手に入れられたのか。
シンデレラは、愛する父親を亡くし、継母たちの元に引き取られ、こきつかわれていた。服も、家事をこなす手もボロボロになりながら。そんな、苦境に立たされながら彼女は美しかったのだ。悲しくて辛くて泣いたことはあったかもしれない。だが、性根がねじ曲がって卑屈になることはなかった。日々謙虚にひたむきに、生き抜いていたのだ。
きっと、そんな内からにじみ出る彼女の内面の美しさが、王子の心を射止めたのだ。
 
心が美しい人は、魅力的。その光を慕って人々と、幸福が舞い込むのだ。
 
それが、彼女にあって、継姉になかった最大の違いだろう。
 
そう、思い当たり、私は唇を噛んでうつむいた。
そうだ、Aさんは努力して、試行錯誤の結果、今回の成果を出せたのだ。彼の中の積み重ねてきた経験値という重さがあったからだ。
 
私はどうだろう。
くだらないプライドにしがみついてはいないか。
私の方がうまいという、過大評価をしていないか。
自分のことばかり考えていないか。
必死になるあまり、心の目が濁っていないか。
 
文章は、誰のために書いているのか。「私、おもしろい!」なんて叫びたいなら、日記でもいいのだ。WEBに載せるのならば、読んだ方が笑顔になって、そうなのかという気づきを得ることができるものを。今目の前にいない誰かの心に救いの光を射す、そんな文章がいい。
きっと、書いている私もうれしくなるだろう。
 
嫉妬はチャンスだ。
「私の方が!」
かすかにでも、そう思うことができたら。自身を過信する余裕があるなら、私はまだやれるはずだ。
その伸びしろを、自分の底力を信じて這い上がることができるはず。
 
「シンデレラの癖に!」
悔しそうにハンカチを噛み、怒り狂う継姉でいるのか。
 
「シンデレラに負けていられない、私だって!」
悔し涙を腕で拭って前を見つめる、負けん気の強い継姉でいるのか。
 
嫉妬を醜く腐らせるか、美しく昇華させるか、それは私次第だ。
 
まず、自分の落選してしまった原稿と、スタッフさんからいただいたフィードバックの内容を照らし合わせてみる。
非常に精神に来る作業だが、口を引き結んで耐える。
なるほど、我の強さばかりが前に出ていて、自分のことしか見ていないような文章だった。
「上手に描けたでしょ!」
そういいながら喜色満面で手描きの絵を、幼稚園の先生に見せる子どものようだった。
 
次に、ゼミ同期のハイパーな方、プロの方が書いた文を読んでみる。
するすると目が文字の流れを追う。
ほう、それで、オチはどうなる?
結末が気になって仕方がない。読書欲が刺激されて、あっという間に読み進めてしまう。
クスリと思わず笑みがこぼれてしまうもの、胸が締め付けられて涙してしまうもの、なるほどそういうことかとうなずいてしまうもの。
まさに、十人十色の文だった。
共通するのは、読了後の爽やかさ。読んで良かったという満足感だ。
これが、人の心を魅了する文の神髄だ。
 
私にはこれが決定的に足りないのだと、気が付く。
それを踏まえ、私にしか書けないものを書かなければ。マネではなく、私の内から滲み出た私の色を出さなければ意味がないのだ。
 
その思考に行き着いてからだろうか、私の文章が変わった。課題提出した原稿が、次々と掲載選考をパスするようになった。
長いこと暗い森の中を闇雲に進んでいた私の目の前が、パッと開けた。
 
そして、一度だけ、「編集部セレクト」に選出いただいた。それは、課題投稿され、パスされた原稿の中でもさらに「これはおもしろい!」とスタッフさんが太鼓判を押した作品のこと。100人を超える同期ゼミ生の中でも、数人しか選ばれない狭き門だった。
その原稿は、お世話になった大好きな人へ贈ったエールだった。
自己肯定感の低い大切な人、そして私へ。
同じようにうつむいている多くの人へ。
苦しむみんなへ贈ったエールだった。
その記事は、ランキングに食い込むことはできなかったが、読んだみなさんからうれしい言葉をたくさんいただいた。
 
選出の連絡をいただいた時、私は飛び上がってよろこんだ。
だが、何よりうれしかったのは、読んだ方の心に届いたこと。私も、人の心に光を射す文章が書けたのだ。
うれしくて、切なくて、ぐしゃぐしゃの泣き笑い顔で、近所を駆け回りたいくらいの感動だった。
やっと私も、自分の色を滲みだすシンデレラになれた。
あの瞬間を、私は生涯忘れることはないだろう。
 
嫉妬って、本当の所、自覚したくないことだと思うのだ。
うらやましい、妬ましい、汚い気持ちを抱く自分に嫌悪する人。
そんな自分に目をそらして、なんでかわからないまま苦しんでいる人。
衝動のままに、相手を傷つける攻撃行動に出る人。
さまざまな人がいるだろう。
 
知りたくない自分の暗い感情、心の深い所に覆い隠してしまいたくなる気持ちもわかる。
でも、その感情、開き直って認めてしまってはどうだろう。
「私の方が!」
そのグラグラと煮えたぎる強いエネルギー、自分の為に肯定的に使う時が来たのだ。
 
かわいい人に嫉妬したなら、その人よりかわいく。
料理上手の人に嫉妬したなら、その人より料理上手に。
アクセサリー作りが上手な人に嫉妬したなら、その人より個性的に。
 
世の中ライバルだらけだ。
嫉妬した分だけ可能性があふれている。
あなたのライバルと同じになる必要はない。
あなたは、あなたにしかない色があるはず。
自分を信じて突き進んで行く内に、新たな可能性を見つけることができるだろう。
嫉妬したっていいのだ。
うらやましいって叫んでいいのだ。
それをひっくるめてあなた自身だから。
自分を認めてあげて、前を向いて行けたら、嫉妬の向こう側に、本当に欲しかった景色が見えてくる。
 
嫉妬は、チャンスだ!
自分の伸びしろ、晴れやかに過大評価して行きましょう。目指すのは、誰よりも鮮やかで魅力的な心を持つ、シンデレラだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
緒方 愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県出身。アルバイト時代を含め様々な職業を経てフォトライターに至る。カメラ、ドイツ語、茶道、占い、銀細工インストラクターなどの多彩な特技・資格を修得。貪欲な好奇心で、「おもしろいこと」アンテナでキャッチしたものに飛びつかずにはいられない、全力乗っかりスト。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2020-08-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.92

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