オイ! やめろよ!! やめてくれよ!!!《週刊READING LIFE Vol.143 もしも世界から「文章」がなくなったとしたら》
2021/09/13/公開
記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
「もう、勘弁してくれよ」
スマホを片手に私は、ため息を吐いた。
画面には、Facebook通知が表示されていた。天狼院スタッフの川代さんが、何か投稿したらしい。
「多分、『川代ノート』だろう」
私の予感は、弱気に走った。
『川代ノート』は、天狼院スタッフにしてエースライターの川代紗生さんが、天狼院のWebサイトに掲載する記事特集だ。エースの記事として実績が在ることから、当然、それなりのビュー数を毎回叩き出している。
それ以前に川代さんは、以前から数え切れない程の記事がバズっている。一介のライティング受講生である私等が、足元にも及ばないことはいう迄もない。
天狼院では、『メディアグランプリ』という競い合いが、2か月を1期として行われている。何を競うかというと、天狼院のWebページ上に掲載された記事のビュー数を、週間で集計し競い合うのだ。
そこでは、天狼院一の人気講座『ライティング・ゼミ』のゼミの受講生だけでなく、天狼院スタッフや挙句の果ては、店主の三浦さん迄が参加している。こうなると、天狼院でライティングを学ぶものにとっては結構な大イベントと為っている。
しかも、『天狼院・メディアグランプリ』の特徴として挙げられるのは、全く階級分けが無いことだ。
ライティング・ゼミの受講生は、初めて記事を書く新規の受講生から私の様に長い間学んでいる者も横一線なのだ。そればかりではない、三浦店主が認めたスタッフも、川代さんの様な手練れたスタッフから、参加したばかりの新しいスタッフ迄誰でも参加出来るものだ。
言い換えれば、『天狼院・メディアグランプリ』は、無差別級のみのガチンコ勝負でもあるのだ。
私は長い間、天狼院でライティングを学んでいる。当然、『天狼院・メディアグランプリ』に参加した回数は、誰よりも多くなっている。しかし、持ち前の低筆力から、その成績はいささかも芳しくはなかった。
だいたい、私の様なオッサンが書いた記事など、興味を示してもらおうと考える方が、身勝手という他ない。
その反面、川代さんの様に元々筆力を持ち合わせ、書かれた記事は読み易く楽しければ、黙っていても『天狼院・メディアグランプリ』で上位に来るのが当たり前でもある。しかも、川代さんは、若い女性だ。オッサンが、太刀打ち出来る相手ではない。
長い間、『天狼院・メディアグランプリ』でパッとした成績を残せないでいた私だったが、昨年の秋頃から突如としてビュー数が伸びてきた。私自身には、筆力が向上した自覚が全く無かった。また、書く文体を変えた覚えも無かった。
何しろ、こんなオッサンが何処を変えようとも、大した変化には為らないと思われたからだ。
ただ、私より後から天狼院でライティングを学び始めた仲間が、私の記事が掲載されるたびにシェアをして下さり、大いに拡散効果が出て来たのも事実だった。
気が付くと昨年の最終期(11月—12月)、信じられないことに私が『天狼院・メディアグランプリ』でチャンピオンになってしまったのだ。これは大変なことだった。特に個人的には、少々気恥しいことだった。
何故なら、私の筆力が上がったとは全く自覚が無かったからだ。
勿論、『天狼院・メディアグランプリ』は掲載記事の閲覧数を競うものなので、純粋に筆力を競うものではない。単に、指数の一つでしかない。
しかし、Web上で大々的に発表されるものなので、目立ってしまうのも事実だ。そうなると、上位、それもチャンピオンに為った者は、然るべき筆力を有しているのが、想定される共通認識だ。
ところが私には、肝心の筆力が伴っていない。ややもすれば、全く事情を知らぬ第三者が、『天狼院の記事ならば』と私の記事を読んでしまい、
「何だ、この程度か」
と、落胆してしまったとすれば、ライティングを教えて下さった三浦店主を始め、私の記事に関わって(講評や掲載作業で)下さったスタッフの皆さん、そして共に学ぶ仲間達に申し訳が立たないことに為ってしまう。
しかし困ったことに、私がしていることといえば、これまでと変わらず、ただ書き続けているだけなのだ。
そして恐れていたことに私は、三期連続して『天狼院・メディアグランプリ』のチャンピオンに為ってしまったのだ。三期といえば半年間だ。
こうなると、全く言い訳出来ない状況と相成った。
ただこの間に関しては、大きな二つの要因があった。
一つ目は、外出自粛や緊急事態宣言の連発で、天狼院の業務も混乱していることから、川代さんを始めスタッフの皆さんが、記事を書く時間的余裕が無かったことが有る。
そしてもう一つ、『天狼院・メディアグランプリ』の採点方法が変更されたことも有った。
『天狼院・メディアグランプリ』では、F1グランプリと同じ様に1位から8位迄、順に得点出来る形式を取っている。
以前は、同一人物が週間に何本記事が掲載されたとしても、得点は最上位の一本のみが有効とされていた。それが、昨年末から上位で掲載された場合、全部の得点が有効と変更されたのだ。
これは私にとって、大変有効に働いていた。何しろ、筆力に欠ける私は“質より量”と言わんばかりに記事を提出しているからだ。勿論これは、弱者故の戦術でもあった。
そこがフィトして、私がチャンピオンに為ったに過ぎないことは、私が一番よく理解していた。その証拠に、私が単週間で1位に為ることは、大変珍しかったからだ。
その反面、まぐれで私の記事が週間1位に為った時等、1位から3位迄、私の記事が独占してしまったことも有ったりした。オリンピックで例えるなら、私の記事が表彰台を独占した形だ。
私が『天狼院・メディアグランプリ』で三連覇した時、担当のスタッフさんにグランプリの辞退を申し出た。何事も同じ人間が、同じ場所に居続けることはいい結果を生むことが無いのは、歴史を見れば明白だからだ。
私の場合、筆力の無い者が首位に立つのはいささか気恥ずかしいことであるし、ややもすれば『不正行為でもあったのか?』と、痛くもない腹を探られることに為りかねない。実際、そんな噂が立ってしまえば、何を言おうと後の祭りにしかならないのも事実だと感じたからだ。
それでも、メディアグランプリを担当するスタッフから、
「次回から、毎週一本のみの得点とする、以前の方式に変更しますから」
「山田さんが書き続けていることで、励みになっている(背中を押されている)受講生も居ますから」
と、私のメディアグランプリ辞退の撤回を求めるメッセージが届いた。
私は、
「では、後一回様子を見ましょう」
と、申し出に従った。
『天狼院・メディアグランプリ』に参加し続けることにしたのだ。
そうしたら驚くべきことに、週一本の得点に変更されたにもかかわらず、次の期も私は、『天狼院・メディアグランプリ』のチャンピオンを獲得してしまったのだ。これで、四連覇と為ったのだ。
勿論この間も、これ迄と同じペースで書き続けては居た。もし、チャンピオンで居続けることが負担ならば、私が書くのを止めれば済むことだ。
しかし、私にとってもはや、書くことはストレス解消に為っている。連覇が重荷に為り書くことを止めることは、本末転倒でしかないのだ。
私は、腹を括った。
こうなったら、連覇記録を“六”迄伸ばしてみようと考えたのだ。六連覇すれは、真の年間チャンピオン(二か月が一期なので)として、胸を張れるのではないかと思ったからだ。
そこで、この2021年8月迄が、私にとって五連覇がかかる期と為った。
本期は、実力が出てしまったのか、『天狼院・メディアグランプリ』での私の得点が一向に伸びてこなかった。
原因は、解かっていた。
元々夏を得意としていない私は、この時期冴えないことが多かったからだ。
それに今年は、一年延期された東京オリンピックが開催され、オリンピック馬鹿の私は、観戦に多くの時間が割かれてしまっていたのだ。
それに、ライティング仲間の数名が、一気にその筆力を高めて、ヒット記事を連発していたからだ。
私は、それでも何とかチャンピオン争いに喰らい付いていた。ギリギリのところで。
先週までの段階で、ラスト一週で私が首位を取れば、逆転トップと為る位置だった。そこで私は先週、渾身の記事を数本用意し提出した。どの記事も掲載と為った。私は、
「もしかしたら、もしかするぞ」
と、気構えだけは持っていた。実際に、私に記事はシェアされ拡散して頂いた。
私は改めて、私に記事を待って下さっている方々、特に仲間が居ることに感謝した。
ところがだ、今週初めに天狼院のエースである川代さんが、久し振りに『川代ノート』を更新した。
私は、思わず落胆した。何しろ、毎回の様に記事をバズらせるのが、川代さんの常だからだ。
しかしその一方、私は、
「もしかしたら、今回は初めて川代さんを負かす機会かもしれない」
と、恐れ多くも考えていた。それ程、私は今回の記事に自信を持っていたのだった。
しかし、その翌々日、川代さんはまたしても『川代ノート』を更新した。
私は、川代さんの記事が2本も出てしまったら、チャンピオンを諦めるしかないと落胆した。
それと同時に、
「もう、勘弁してくれよ」
と、呟いてしまった。本音では、
「やめろよ! やめてくれよ!! マッタク、もう」
と、毒吐きたい気分だった。
これで完全に、私の『天狼院・メディアグランプリ』連覇記録は、“四”で止まってしまった。正確には、多分そうなると思われる。
いずれにしても、私の年間チャンピオンは御預けと為った訳だ。
折角の目標に到達出来ず、私は思わず、
「こんなことに為るなら、記事なんて書かなきゃよかった」
とか、
「いっそのこと、文章なんて無くなってしまえ!」
と、捨て鉢な気分に為った。大人気無いことに。
そして、私の心の傷に塩を塗り込む様に、川代さんは本日、今週3回目の『川代ノート』を更新した。まるで、
「山田の得意戦法を私がやればこんなもんよ」
と、言わんばかりに。
私はここに、川代さんに対し『降伏宣言』することにした。目標にしていた年間チャンピオンも、一旦取り下げた。
しかし、考え直すことにもした。
それは、直ぐに始まる次の期を始めとして、再び『天狼院・メディアグランプリ』の年間チャンピオンを目標にしようと思い直したからだ。
私は、『降伏』はしても『無条件降伏』をしてはいないのだから。
前言を撤回したい。
やはり、文章が在ることは有難い。
何故なら、私より上位の筆力者と、“ノークラス(無差別)”“ノーガード(ガチンコ)”の競い合いが出来るのも、文章が在ればこそと改めて気が付いたからだ。
改めて、競い合う仲間が居ること、そして、こういった場を提供して頂いていることに改めて感謝したい。
これだって、文章が在ってのことだとも、私は気付いたのだ。
□ライターズプロフィール
山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
天狼院ライターズ倶楽部湘南編集部所属 READING LIFE公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41st Season 四連覇達成
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