週刊READING LIFE vol.168

自分と他人を比べてしまう時には唱える言葉がある《週刊READING LIFE Vol.168 座右の銘》


2022/05/09/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「え……。今日は土曜日? 休みの日だ」
朝、今日は仕事が休みだと気づいた。
そっか。今日はランニングの練習会の日だった。
体が重くてなかなか起き上がれない。
ほんわりとあたたかいふとんが、わたしを包み込んでいる。
「まだ起きなくていいよー。もっとゆっくりしなさいよ。あなたは疲れている」
ふかふかとした羽毛布団が、優しく話しかけてくる。
自分の体温の暖かさで、布団の中にある空間は暖かい。
誰かに優しく包み込まれているような、幸せな気分になった。
 
「いや、起きなきゃ。今日は走る日だ」
 
窓から外を見ると、雨が降っている様子が見えた。
今日は、走るのはやめておこう。
そう思った時、休日の予定がなにもないと気づいた。
 
最近仕事が忙しい。
月曜日に朝会社にいったと思ったら、気づいたら金曜になっている。
時間の過ぎるスピードが速すぎる。
朝、仕事が始まるとあっという間に終業時間になる。
終業時間になっても、仕事が終わる様子はない。
残業していると、目がだんだ疲れてきて、集中力がもたなくなる。
「もう疲れたから、帰りたい!」
一緒に残業している同僚と、帰ろうという流れになる。
 
昼間、一瞬記憶喪失になっているのかと思うほど、一日の流れが速い。
平日は家に帰って、晩ご飯を食べたら寝るだけだ。
疲れていて、なんにもする気がおこらない。
友達からラインがきても、返事ができない。
後で落ち着いたら返事しようと思い、すっかり忘れてしまうのだ。
 
休みの日は、だいたい予定を入れている。
趣味がランニングなので、ランニングの練習会に行く。
ランニング仲間と山に登りに行く日もある。
走る趣味を通じて仲良くなった仲間が企画を立ててくれるからだ。
体を動かすと、日ごろのストレスが解消される。
落ち込むような出来事があっても、運動すると疲れて余計なことを考えなくてすむ。
おこってもない出来事に不安になる心配性のわたしは、運動するのが一番のストレス解消になった。
楽しみの山へ行くお誘いにも、いつもなら返す返事ができずにいた。
 
 
予定がない休日、家でごろごろしながら、スマホでSNSを見た。
ちょうど、トレイルランニングの大会が開催されている日だった。
晴れ舞台でがんばっている友達の姿を見ると、きっと努力して準備したのだろうと想像できた。
他の人からも休日を楽しんでいる様子がSNSにあがってくる。
充実しているSNSがまぶしくて、羨ましくなり、スマホの画面をそっと閉じた。
 
「わたしを置いていかないで!」
 
心の中で叫んだ。
まわりの人たちが、キラキラと輝いている場所に、行ってしまうような気がした。
わたしは、キラキラとした場所に行こうとしても、追いつけない。
 
その日は、一日どこにも出かけなかった。
昼ごろから、6時間ほどスマホで漫画をひたすら読んだ。
いままで読みたかったけど、時間がなくて読めなかった漫画。
4作品、最初から最新まで一気に読んだのは初めてだった。
少年漫画から、大人向けの漫画まで、時には面白くてぷっと笑い、感動してポロポロと涙を流して、感情は忙しく変化していった。
漫画に集中しすぎて、あっという間に夜になっていた。
一日、ごろごろして漫画を読み、何をしてたんだろう……。
SNSで他人の充実した様子を見ては、自分と比べてむなしくなった。
 
「わたしってなんなんだろう。このままでいいのだろうか」
 
答えの出ない漠然とした不安におそわれた。
人生に対してこのままでいいのだろうかという不安だ。
まわりが輝いて見えて、一日をダラダラすごしている自分がなさけない。
人生このままでいいのだろうかという抽象的すぎる不安に対して、答えはすぐ出ない。
平日は仕事が忙しくて、あっという間に時間が過ぎる。
休みの日は予定も入れないで、家でダラダラと過ごす。
いつもなら、休みの日は体を動かして、気分がスッキリしているはずなのに。
気分はもんもんとしている。
 
夜、いつも読んでいるブログを読んだ。
ニューヨークで好きな漫画を描いて恋人と暮らしている女性のブログだ。
漫画だけでは生活できないため、他の仕事をしている。
忙しいが、充実している日々だ。
ニューヨークで仲良くなった友人たちとの交流や、仕事のこと、異文化への驚きが漫画に描かれていて面白い。
わたしは、海外で漫画を描きながら、生活する彼女を応援している。
誰にもまねができない人生が、かっこいいと感じていた。
 
その日、読んだブログは、いつもと違っていた。
体調が悪い。
自分の人生について考えると、教養もない、若くもない、子供もいないし、正社員で働いてもいない。
なぜか漫画も描きたくなくなった。
「このまま一生漫画を描きたくない気分だったらどうしよう」
自分自身が心底嫌になって、自分でも引くくらいに泣いたと率直な気持ちがつづられていた。
 
わたしと同じだ。
ゴロゴロと漫画を読んで、もんもんとした気分の自分が、なさけなくて仕方がなかった。
不安な気分になっているのは、わたしだけなのかと思っていた。
だがそうではなかった。
海外で夢を追いかけている彼女も、不安で号泣する時がある。
だれだって、下向きな気持ちになる時がある。
いつもなら元気で不安な気分を跳ね返せる自分でも、泣きたくなる時があるのだ。
 
どんな時に不安になり、なさけなくなるのかを考えてみた。
他人がまぶしく見えて、うらやましい。
そんな時は、自分の人生に自信がなく余裕がない時だ。
自分を肯定できないのだ。
今の自分でいいと思えないから、不安になる。
余裕がないので、誰かに優しくはできない。
こんな時、思い出している言葉がある。
 
「体があって息している。もうこれで100点!」
 
わたしが好きな人気ブロガー、かんころさんの言葉だ。
かんころさんは、ヨガインストラクター、チアリーディングコーチ、ブログ活動を10年間続けた経験から独自のメソッドを持ち、セミナーを開催し、本を出版する多才な女性だ。
つらい時や、自信がない時は、この言葉をつぶやく。
初めて体があって息しているだけで100点という言葉を見た時は驚いた。
基本的すぎるし、だれにでもできる内容だ。
こんなことで、100点もらっていいの?
 
はじめは半信半疑だった言葉が、わたしの支えとなった。
自分が100点ならば、他人と比べる必要はない。
自分を認められないわたしを、他の人が好きになってくれるだろうか。
他人の庭をみては羨ましくなる。
羨ましくなる前に、自分が持っているものに気づく。
 
仕事があるし、お給料をもらえている。
好きな本を読める時間もある。
おいしいご飯を食べられる。
決して速くはないが、ランニングという趣味。
趣味を通じて仲良くなった友達がいる。
体は健康だ。
あるものに目を向けないで、自分にないものを探して、不安になるのはやめよう。
基本に戻ってみよう。
休日に、ゆっくりする日もあっていい。
運動していなければ、充実していないなんて、自分のマイルールだ。
 
 
その後、固定観念をくつがえされた出来事があった。
家にある、いつもは白いトイレットペーパーが、ベージュだった。
買ってきてくれた母と話した。
「ベージュのトイレットペーパーってあるんやね。花柄とかは知っているけど、ベージュがあるなんて知らなかったわ」
「最近は、こんなのも売っているのよー」
トイレットペーパーは白というのは、固定観念だ。
百貨店、会社、飲食店、だいたいは白いトイレットペーパーがある。
だが、ベージュでもいいじゃないか。
電車に乗っている人のマスクを見た時、白だけではないと気づいた。
黒、ピンク、ベージュ、さまざまなマスクをしている。
マスクは白というのも、固定観念だ。
 
こうでなければいけないという固定観念は、時には自分を苦しめる。
白だけでなく、ベージュでも、黒でもピンクでもいい。
何色だっていいのではないか。
世の中には、いろいろなカラーをもった人間がいる。
正解は一つではない。
幸せだと思えることは、人によって違うはずだ。
もともと持っている幸せに目を向けよう。
がんばっている自分を認めて、自信を持って生きる。
自分がいいと思えば、他人がどう思っても、100点なのだから。
 
 
参考文献:かんころ(2021)『悩みを幸せに変えるmyletterノート』KADOKAWA
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中

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2022-05-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.168

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