『人生は「引き算」で輝く』野口嘉則著《READING LIFE》
奥付に「2012年2月18日初版印刷」、とあるから、この本が発売されたのは、今から半年ほど前だったということになる。
あらためてこの本を手に取り、読んでみて、発売がちょっと早かったのかな、と思った。
それというのも、この本、今のトレンドの中で読むのがちょうどいいからだ。もっとも、野口さんの代表作のひとつで、ミリオンセラーとなった『鏡の法則』と同様、本質的な内容なので、トレンドに左右されることなく決して古びることはない。
古びることはないが、トレンドの後押しを受ける場合がある。
天狼院書店においても再三に渡って書いてきていることだが、今は春から続く、「働き方」論点の大きなトレンドの中にある。「不況」と認識する人が多いかぎり、どうもこのトレンドはそう簡単に消えないように思える。
その中でも重要なのが、「Less is more」や「足るを知る」といった論点だ。
まさに、「引き算」もそれに当たる。
この本は、p69にとてつもない仕掛けが施されている。何気なく、「なるほど、たしかに」と読んでいた読者も、p69のある一文から、一気にこの本に翻弄されるに違いない。
嗚咽すら覚悟しなければならない、大きな感動に引き込まれると言ってもいい。
バブルのような経済最盛期をビジネスマンとして生きた主人公。
地位も名誉も経済的余裕も、そして美人の彼女もできて、順風満帆であった。
ところが、あるひとつのミスをきっかけとして、それが瓦解する。
懸命にまとってきた「鎧」が剥がれはじめるのである。
人生の過酷なる「引き算」によって、「鎧」を失った主人公は、涙の中で、素っ裸の自分と久しぶりに出会う。
そして、何がもっとも重要なのか、気づくのである。
「引き算」の末にたどり着いた結論が、たとえば、テレビ朝日の『人生の楽園』的な隠遁生活であるならば、僕はおそらく興ざめしたことだろうと思うし、ここには書いていないだろう。この主人公は、「引き算」の末に、ベンチャー企業を立ち上げることになる。そう、つまり、「引き算」とは、決して逃げることではない。
むしろ、素っ裸の自分を見つめるということは、結構な精神的な体力を要するので、実にポジティブなことなのだ。
逃げではなく、ポジティブに「引き算」をする。
それは、人生にとって本当に必要なことと不必要なことを真剣に「仕分ける」ということでもある。
これは誰にでも必要なことなのではないだろうか。
「片づけ」の本が、ブームになったのは、単に物理的な「片づけ」を必要としていたからばかりではない。物を片付けることを通して、心を「片づけ」る必要があることを、多くの人が感じていたからだろうと思う。
心を「片づけ」、人生でいらないものを「引き算」してみる。
そのすっきりとした前に、本当に進むべき道や幸せが見えてくるのかもしれない。
そういった意味において、この本を買わない理由が見当たらないのである。
*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。