READING LIFE

10/15トークイベントレポート『リブセンス 生きる意味』上阪徹著(日経BP社)《READING LIFE》


まずは言い訳をさせてもらいたいと思います。

なにせ、僕はまだ、『リブセンス』上阪徹著(日経BP社)を読んでいないのであります。

読んでいないながらも、感想を書こうという、なんでもありの天狼院にしても、いささか強い変化球になろうかと思います苦笑。

それには、理由がございます。

このイベントに参加するために、代官山TSUTAYAさんにこの本を取り置きしてもらっていたからです。

『リブセンス<生きる意味>』発売記念トークショー 最年少25歳東証一部社長 村上太一 × 上阪徹

 

村上太一さんとは、最近、テレビや新聞、雑誌に引っ張りだこの社長さんです。史上最年少でリブセンスを東証一部上場させた、こんなに若いのに、こんなに笑顔が優しいのに、とてつもなくすごい人なのでございます。

簡単に言えば、リブセンスとは、アルバイト求人サイト「ジョブセンス」の運営会社です。バイトが決まると祝い金が支払われるたり、バイトが決まらなければ会社に請求を立てなかったりと、業界からすれば、常識破りの戦略で、会社を大きくしました。

大学1年生のときに起業したというから、今月26歳だと言っていたので、もう7年くらいは社長をしていることになります。これは立派なことで、「10,000時間の法則」が正しいのであれば、村上さんは若いけれどもすでに経営者のプロフェッショナルだと言えるでしょう。

本人を目の前にした印象を一言でいえば、「老成」している、ということでしょうか。

もちろん、悪い意味ではありません。たしか、宮部みゆきさんのベストセラー小説『模倣犯』でも、ある温厚な若い人物を指して、「彼には老成しているという言葉がぴったりだ」的な表現で使われていたと思います。

言い換えれば、落ち着いている。受け答えの際に、即座に返答するが、その間合いが「小賢しさ」をまるで感じさせずにゆったりしている。ゆったりと即答していたんです、本当に。たとえば、勝手な想像ですが、この「小賢しい」の典型例が石田三成だったのではないでしょうか、もちろん、会ったことはありませんけどね。石田三成は、たしかに、賢かったんでしょうけれども、おそらく、「小賢し」かったから、みんなに嫌われたのかも、と想像します。

村上さんは、逆なのです。ゆったりとしているのだけれども、極めて知性が高いことがこちらに伝わってくる。

それだからでしょうか、結構、大きなことを平気で言っているんですけれども、どこか憎めない。もう、人徳と言ってもいいかもしれません。あるいは、これを戦略でやっているとしたら、途方もなく、恐ろしい。

村上さんはイベントの最中、こんなことを言っていました。

「人が作ったものは、人で塗り替えられる」

だから、たとえば、自分たちが考えたビジネスモデルを模倣する会社が100社くらい現れて、次々にサービスを更新しようとしたとしても、こちらが懸命に仕事に打ち込めば、また塗り替えることができるという自信があったといいます。

また、こんなことも仰っていました。

ほとんどのビジネスモデルは問題解決をすることを目的に生まれる。

つまり、ソリューション型のビジネスモデル提唱者なんですね、村上さんは。

それなので、「ユーザーにとってのメリットを優先し、利益構造を考えることはその次の問題とした」ということです。

あと、興味深かったのは、大学時代の創業時のメンバーが、ナンバー2、ナンバー3として今も村上さんを支えているということです。ほとんどの会社は創業時のメンバーと早い段階で決別します。Facebookのザッカーバーグも、最初の出資者と決別し、相手に恨まれて訴えらたりもしていますし、Appleのスティーブ・ジョブズも、ウォズと別れています。

会社の成長速度に、創業時のメンバーがついていけなくなるか、あるいは、会社が大きくなるにつれて外部のプロが入ってくるようになり、そこと馬が合わないために離れることになるのか、キャピタルゲインによって、南の島にアーリーリタイアするか。

こんな発言も面白かった。

今日の司会であり、ライターの上阪さんは、バブル時代を知っている世代の人で、その当時なら、東証一部上場となれば、その創業社長は夥しいキャピタルゲインによって、ドンペリでパーティーをして、六本木の高級マンションに越してきて、フェラーリなんかに乗るのが常識だったのに、なぜそうしないのか、と質問した際に、村上さんはこう答えました。

「なんで六本木ヒルズに引っ越さなければならないんですか?」

そう、全く、そういうことに興味がないのです。創業メンバーの一人は未だに8畳未満のマンションに住んでいるというのだから、面白い。

僕は、これを「新人類」だの「世代間ギャップ」だのという言葉で、簡単に片付けて理解した振りをしたくはないのです。

やはり、これは本田直之さんが『LESS IS MORE』(ダイヤモンド社)で言っておられるように、「進化」だと考えたいと思います。これは、決して後退ではなく、これからの時代の環境に合わせようとした本能的な作用だと考えたい。

別に、それが偶然、今月26歳になる村上さんの言葉だったというだけで、60歳のアントレプレナーの口から、この言葉が出てもいいのだと思います。

これから、寿命は確実に長くなって行くでしょうから、若いから進化して、年をとったから進化できないというのは、一種の甘えなのではないかと僕は思うのです。

ま、余談が過ぎましたが、村上さんの話に戻ると、一番最初に採用したのが、43歳の方だったということひとつとってみても、とてもバランス感覚に優れた人だと想像がつきます。

また、社会人経験がなかった分をマンガの『島耕作』を読み込んで補ったという話も、実にリアルで正直で好感がもてました。

そう、このトークイベント中、僕は必死でメモをとって聞いていたんですけれども、村上さんの話を聞いていると、とても、好感がもてるんですね。そして、最後の方になると、不思議と芯に火が灯された状態になってしまう。

帰りの東横線、山手線は、もう、堰を切ったようにアイデアが浮かんできて、メモを取る手が止まらなくなるくらいでした。

もしかして、と今振り返って思います。

村上さんにはそういう不思議な力があって、周りの人も、これに感化されて、会社が加速するのではないか、と。

それだから、創業時のメンバーが残って彼を支えているのではないでしょうか。支えている、というよりも、まだまだずっと一緒に働きたいと思っているのかも知れませんね。

トークイベントの最中に、影響を受けた本として、村上さんは次のような作品を薦めていました。

『小倉昌男 経営学』

『ビジョナリー・カンパニー4』

『リーン・スタートアップ』

僕はこの選書を聞いて、もしかして、これを意図して選んでいるとしたら、底知れない男だな、と内心思っていました。

勘がいい方ならお気づきかも知れませんが、この作品、すべて、『リブセンス』と同じ日経BPさんから出ているものなのです。もっと勘がいい方なら、さらにおわかりかも知れませんが、こういうイベントには、版元さんから結構な幹部の方々がいらっしゃるんですね。

実際に、日経BPさんの錚々たる方々がいらしておりました。僕は皆さんに挨拶させてもらったんでそれを知っていたんですけれども。

もし意図してこの選書にしたとしたら、やはり、バランス感覚に優れた人だと思います。立てるべきひとを、他にはあまり気付かれないように立てている。だって、これらの作品がすべて同じ出版社から出ているなんて、聴衆のほとんどは知らなかったでしょうから。

穿った見方でしょうか笑。

穿った見方でしょうね、純粋に日経BPさんは、スタートアップ系でとてつもなくいい本出してますからね。

 

いずれにせよ、これから先、村上さんはもっと途方もなく面白いことをやってくれるような気がします!

 

と、いうことで、僕もまだ読んでいない『リブセンス 生きる意味』を、読まない理由が見当たらないのでございます。

 

いやー、それにしても、面白いイベントでした。

上阪さん、司会おつかれさまでした。ありがとうございました。

 

*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。


2012-10-15 | Posted in READING LIFE

関連記事