『ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛』リチャード・ブラント著《READING LIFE》
まず、断っておくが、まちがっても、本屋の話ではない。
これはスタートアップにおけるファイナンスの本だ。
そして、世界史上屈指のアントレプレナーについて書かれた本である。
本編の主人公、ジェフ・ベゾスは、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグの系譜に連なる、ビジョナリーであり、アントレプレナーである。この本を読めばそのことがよくわかるだろうと思う。
ベゾスは、何も、本屋をやりたかったわけではない。インターネットという途方もない可能性を前にして、何を売ればもっとも革新的なことができるかと考え、行き着いたのが、「本」だっただけである。
母方の血筋的にも、科学者に向いていて、自信もスーパーエリートとしてよどみなく人生を歩いていた。そこに登場したのが、インターネットだったということだ。
彼が恐ろしいのは、大局的な視点から物事を考え、実現できるということだ。
次の彼の言葉にもそれが表れている。
「利益は出ていません。出そうと思えば出せますけどね。利益を出すのは簡単です。同時に愚かなことでもあります。我々はいま、利益になったはずのものを事業の未来に再投資しているのです。アマゾン・ドット・コムでいま利益を出すというのは、文字どおり最悪の経営判断だと言えます」(本文p132より)
なぜ、そう考えたかというと、その理由も明白である。
状況はレースのようになっていた。シェアを最初につかんだ者が有利にポールポジションを獲得し、それを抜くのは難しい。だから、「早く大きくなる」が新たな最重要課題となった。
また、ベゾスはこうも言っている。
「業界2位の10倍になるには、実は10%だけ優れていればいいのです」
彼はアメリカのドットコム・バブルの中で、Amazonの時価総額を加速度的に増大させた。その間、彼が言っているように、「あえて」利益を出さない戦略を取った。バブルとして膨らんだ時価総額をテコにして、それで次々と設備投資をして、一気に市場を席巻したのだ。
ちなみに、これが前例となって、現在利益を出していなくとも将来性のあるベンチャーには投資すべきだ、という風潮がシリコンバレーに誕生した。この恩恵を受けた一人が、Facebookのマーク・ザッカーバーグだろうと思う。
彼らはその時の利益よりも、顧客のユーザビリティを重視した。たとえばFacebookはその指標として、おそらく、「加入人数」にクローズアップしたのだろうと思う。会員数の増加は、ユーザビリティが優れていることを示しているからだ。
いうまでもなく、バブルは永遠には続かない。
ドットコム・バブルが破裂すると、Amazonでも時価総額が急落することになる。レイオフ(解雇)をしなければならない状況になった。
すると、今度は一転してベゾスは「利益を出す」ということに拘ると宣言し、実際に初めて黒字を計上することになる。
まるで、バブルが弾けるのを当初から予想していたように、ベゾスは、赤字を散々に垂れ流しながら、まさに血塗れになりながら、バブル期に一気に勢力を拡大し、バブルが崩壊すると、一転してバランスシートを健全化させてしまうのだ。
とんでもない視座の高さである。ビジョナリーと呼ばれる所以である。
けれども、彼は失敗をしないわけではない。数々の事業で失敗しているが、まさに『小さく賭けろ!(リトル・ベッツ)』の論点よろしく、彼は大きく事業を前進させるためには、数多くの失敗を許容できなければならないということを体感的に知悉していたのだろうと思う。そして、それを実践してみせた。
ただし、キャッシュ・フローの問題をクリアして、莫大な資金を有するようになれば、失敗から挽回するのは難しいことではない。更に果敢に様々なことに挑戦できるようになる。そして、その間に、企業としての人材、財務など、あらゆる意味での力が増大しているので、成功率も高くなっていく。
そして、もはや、誰も止められなくなる。
それが、今のAmazonの状況なのだろうと思う。
「大企業がまっさらな状態からイノベーションを起こすとき、大きな問題になるのは、なにをすればいいかがわかっている状態からでもとにかく長期的な視野にたって考えなければならない点です。どうしても、会社のごく小さな部分にとどまる状態が長く続くわけですから。5年、7年、10年と待つつもりで進めなければなりません。でも、10年待てる会社はなかなかいないのです」(本文p232より)
まず、はじめにひとりのアントレプレナーありき、である。
そして、そこからビジョンが生まれ、ビジョンが実体を持って、キャッシュフロー的自由を手に入れると、大きな意味での「テイク・オフ」が実現するということだ。
そう、我々は、今、ほしいままに大空を羽ばたき続けているジェフ・ベゾスとAmazonの影の中にいるのだ。
ベンチャーにおけるファイナンスを見る上でも、また、ひとりの強大なアントレプレナーの秘密を知る上でも、この本を読まない理由が見当たらないのである。
あ、そうだ、あと、ビアポンをきわめなきゃ笑。
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