チーム天狼院

【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー 最終回】ただ、愛されたいだけなのに《川代ノート》


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私は承認欲求にずっと悩まされてきた。ずっと足りないピースを探していた。そのピースさえ埋まれば、私は幸せになれるんじゃないかと、そう思っていた。承認欲求さえなくなれば、きっと幸せになれる、と。今よりもずっと楽しく生きられる、と。だって、みんなそう言うから。みんな「ありのままの自分を受け入れよう」とか「人の目を気にせずに生きよう」とか言うから。だからきっと、その方が幸せなんじゃないかって……ありのままの自分を受け入れて、好きになることが、自分の幸せへの近道なんじゃないかって、ずっとそう思ってきた。
愛されてくて、仕方なかった。みんなに好きになってもらいたくて、自分という存在を、受け入れてもらいたくて、仕方なかった。居場所がほしかった。いつも。「サキはここにいていいんだよ」という証明を、いつも求めていた。だって、私には、「これだけは誰にも負けない」って、胸をはって言えるものなんて、一つもなかったから。

見た目もかわいくない。コンプレックスだらけ。でかいほくろもあるし、足は太いし、貧乳だし。それでもがんばってダイエットして、おしゃれも研究して、メイクも覚えて、それなりに「かわいい」って言ってもらえることも増えた。でも一番にはなれなかった。どうしても「本物の美人」にはなれなかった。
だったら優秀な人間になろうと思って、いい会社に入ろうと思った。でも就活はそんなに甘くなかった。第一自分のやりたいこともわからなかった。どれもしっくりこなかった。自分の居場所が見つからなかった。そもそも私はキャリアで勝てるほど、優秀でもなければ、仕事ができるわけでもなかった。どうしても「できる女」にはなれなかった。
でも人間性なら勝てると思った。感受性が強いし、人の気持ちがわかる。人格なら、経験なら、プライベートの充実度なら……。でもどうあがいても無理だ。私より素晴らしい人間なんていくらでもいる。それに、本当に私の人格がすばらしいなら、私が価値のある人間なら、もっとみんなに愛されているはずじゃないか?

そうだ、私はただ、愛されたいだけだったんだ。愛されたい、愛されたい、愛されたい。女として、魅力的だと思われたい。男にモテたい。結婚したいと思ってほしい。セックスしたいと思ってほしい。ありのままの自分を、受け入れてほしい。猛烈に愛してほしい。私はこの世界に必要なんだって、実感させてほしい。存在意義がほしい。頼むから、お願いだから、安心させて。

だから私はずっと、一番を求めていた。一番にこだわっていた。何でもよかったのかもしれない。「一番」が手に入るなら。とにかく自分の存在意義がほしかったのだ。何か「自分にはこれがある」というものがあれば、私は自信を持って生きていけると思ったから。

でもそうやって生きていくのは、苦しかった。承認欲求を抱え、常に「愛されたい」と思いながら生きるのは、苦しかった。承認欲求がない人たちが羨ましかった。こんな風に自分のことを追い詰めることなく、人の目を気にすることなく、自分の好きなことを全うできる人たちの方が、魅力的で、優秀で、この世に価値がある人たちのように思えた。だからこそ私は承認欲求をなくして、ありのままの自分を好きになりたかった。「ありのままでいいよ」と、自分で、自分自身に、言ってあげたかった。でももちろん言うことなんかできない。ありのままの自分なんか好きじゃないし、もっといい人間だったらよかったのにと思う。もっとかわいくて、もっと優秀で、もっと性格がよくて、もっとみんなに愛されて……。もっと、もっと、もっと、もっと。もっと上の人間に、なりたい。

自分のコンプレックスを直視したくなかった。嫌いなところを見たくなかった。私にはなくて、他の女の子が持っているものはたくさんあっても、私だけが持っているものは全然ないように思えた。なんだか不公平だと思った。どうして私は一番になれないの。どうして勝てないの。どうして私には居場所がないの。

私が一番だ、と言えるものなんて、承認欲求の強さくらいだった。

そうやって、恐怖に駆られた私は、無理やり、女のヒエラルキーを作り上げてきたんだ。

そう、「世にも恐ろしい女子ヒエラルキー」なんて、私が作り上げたものだったのだ。

サキコちゃんが私を見下している保証なんてどこにもなかった。
国際交流を頑張る女の子たちが私を蹴落とそうとしている保証なんてどこにもなかった。
フェイスブックで近況を語る友人が私をバカにしている保証なんてどこにもなかった。
私が愛されていない保証なんて、どこにもなかった。
私がこの世にいてはいけない保証なんて、どこにも、なかった。

誰が言ったんだろう。私はダメだと。私はかわいくないと。私は優秀じゃないと。私は性格が悪いと。誰が決めた? 誰が言った?

私だ。

私をヒエラルキーの中に放り込んだのも私だし、周りを敵だとみなしたのも私だし、階級社会を作ったのも私だ。全部私が作った世界だ。
「女って怖いよね」「こんな女にはなりたくないよね」と長々と書いてきた。でも結局のところ、「女って怖い」というのは幻影にすぎなかったのだ。
感覚というのは自分次第だ。私が怖いと思えば怖いし、面白いと思えば面白い。人間は自分の都合のいいように事実をとらえようとするし、一度思い込むと、それが紛れもない事実だと信じ続けてしまう。

「女って怖いよねえ」「マウンティング女子とかありえないよね」「そうならないようにしようね」と私が言いまくるのは、冷静に「怖い女」を観察できている自分は、そんな馬鹿な女どもの仲間じゃない。自分はそういう張り合う女よりも崇高な女なのだ、と確かめて、安心したいからだ。
きっと「女って怖い」と言うことによって安心しているのだろう。自分はちゃんとした、そいつらよりはマシなイイ女だと。もちろん本当にイイ女は、マウンティング女子たちのことすら眼中に入らないので、わざわざ「女って怖いよねえ」などと声高に言ったりしない。よかったあ、私は醜い側にいる女じゃなくて、なんて思わない。そんなことをしなくても、自分は「イイ女」であり続けられるという自信があるからだ。

女のバトルを批判しまくる女ほど、女のバトルの渦中にいる。
苦しんでいるのだろう。そのなかから抜け出したいのだろう。
でも抜け出せない。どうしても、他の女と張り合い、嫉妬する心をなくせない。
だから言う。「女は怖い」と。女が怖い生き物であってくれないと、都合が悪いのだ。本当は、女に怖い生き物でいてほしいのは、私なのだ。
「世にも恐ろしい女子ヒエラルキー」を、最も必要としていたのは、他でもない、私自身なのだ。

だって、自分という生き物が、こんなにも怖くて、たまらない。

嫉妬して、苦しんで、内心でどっちが上か下かと罵り合って。大事な友達なのに。絆があるはずなのに。どうしてこんな風に嫉妬しなきゃいけないの。あの子はあんなに私に優しくしてくれるのに、自分はどうしてこんなに嫉妬してるの。あの子を蹴落としたいの。ああもう、あんなに優しいあの子に対してそう思ってしまう私が、怖い。

怖い生き物だ、私は。

私はどうしたいんだろう。何がしたいんだろう。
ただ人に認められたい。すごいと言われたい。かわいいと言われたい。愛されたい。

ただ、それだけ。

本当の自分は、どこに行ってしまったんだろう?

そんな苦しみを抱えながら、私は毎日、「怖い生き物」と、戦い続けてきた。

ありもしない仮想世界の中で、曖昧な世界の中で、私はずっと苦しみ続けてきたんだ。

そしてその世界から抜け出したいと、もがいてもがいて、ようやく見つけた敵が、「承認欲求」という一つの感情だった。こいつがすべての元凶だと思った。
こいつを倒さないことには、私の足りないピースはいつまでも見つからないと思っていた。でも結局は、人の目を気にせず、ありのままに生きようとしたって、押し付けがましくなって、男に嫌われて、振られて、終わりだ。

承認欲求がなくなったからって、自然体になったからって、自分が幸せになれる保証なんて、どこにもない。なのにずっと、そのやっかいな感情にこだわって、消そうとしてもがいて、こうして文章を書きなぐって。

でも本当は、「承認欲求をなくしたい」なんて、自分が幸せになるための努力を怠るための言い訳にすぎなかった。承認欲求さえなければ。女のヒエラルキーに苦しめられることさえなければ。こんなやっかいな感情さえなければ、自分はもっと素直で幸せに生きられるのに。成功できるのに。そうやって、ずっと、努力しないための逃げ道を作ってきたんだ。

たった一つの感情を、まるで目の前に実在する敵みたいに作り上げて、バッシングしてきた。他の女に負けたくないとか、かわいいと言ってもらいたいとか、そうやって他人に張り合ってしまう感情を持っているのが辛いから、もうその感情を我慢したくないから、もう傷つきたくないから。「こんな自分嫌いだ」と、コンプレックスの数ばかり毎日数えて、文章にして。

「こんなにダメなところがある私、いいでしょ。みんなと一緒だよ。だから安心して。私はみんなの仲間だよ」と、コンプレックスを売りにして、人に認められようと、自分の居場所を作ろうと、もがいてきた。文章を書いてきた。承認欲求をみんなの共通の的に仕立て上げて、団結しようとした。仲間を作ろうとした。同じように、承認欲求で悩む人を道連れにしようとした。本当はたいして悩んでいない人も巻き込んで、みんなで「承認欲求を倒そう」という流れを作ろうとした。
これじゃあまるで、共通の敵を作って職場いじめして仲良くなろうとする、それこそ「ファースト・クラス」みたいな、ドロドロの昼ドラやメロドラマと同じじゃないか。沢尻エリカをみんなでいじめる代わりに、私は承認欲求を「みんなの敵」に見立てて、私たちが幸せになれないのはこの感情のせいだよね、みんなでこいつをなくす方法を考えましょうと、主張し続けてきたんだ。

左足の大きなほくろが嫌だった。
太い足が嫌だった。
つりあがった目が嫌だった。
貧乳が嫌だった。
プライドが高いのが嫌だった。
勉強ができないのが嫌だった。
デキる女になれないのが嫌だった。
フェイスブックで幸せなことを書いている人を「リア充アピールだ」とバカにしてしまうのが嫌だった。
旅行に行った話をしてくる友人に嫉妬してしまうのが嫌だった。
うまくいかないとすぐにスピリチュアルな世界に逃げる自分が嫌だった。
モテない自分が嫌だった。
スマートなイケメンが自分に一途になってくれないのが嫌だった。
自分が経験したとたんに処女を見下してしまうのが嫌だった。
失恋しただけで得意げになっている自分が嫌だった。
胸を張って自分にはこれがある、と言えない自分が、嫌だった。
愛して欲しいという気持ちが多すぎる自分が嫌だった。
承認欲求が、嫌だった。

みんなみんな、嫌だった。嫌なところだらけだった。
でもそうやって毎日一生懸命数えてきたコンプレックスの数は、結局、私が努力しなくてもいい理由の数にすぎなかったんだ。傷つかなくてもいい理由の数にすぎなかったんだ。
だからコンプレックスがもう思いつかなくなると、焦った。怖かった。もう居場所がない。コンプレックスを売りにできない。誰も受け入れてくれないかもしれない。味方がいなくなるかもしれない。
でもそれ以上に、本当に怖かったのは、私がいよいよ、幸せになるためにがむしゃらに努力しなければいけないところまで、追い詰められていたからだ。
怖い。
怖い。
怖くてたまらない。
書くネタが、もう思いつかない。
ようやく見つけた居場所を、失うかもしれない。
どうしようどうしようどうしよう。
どうしよう。

でも、いつまでそう言っていられるの?
いつまでそうやってギャーギャー騒いで言い訳していられるの?

それとも承認欲求を使い果たしたあとは、今度は別の感情をやり玉に上げて、また努力しない理由を数え始めるのか?

もう、いいじゃないか。

もういい加減、空想の敵を目の敵にして、言い訳をするのはやめよう。承認欲求のせいにするのはやめよう。
だってもうこれ以上、一つもコンプレックスが、思いつかないのだ。
私はもう一つも、言い訳ができないのだ。

大丈夫?
本当に生きていける?
私、ダメなところがなくても、ちゃんと生きていける? 居場所がもらえる?
わからない。これからどうなるのかはわからない。だって私はこれまで、ずっと自分の嫌いなところに支えられて、生きてきたからだ。「自分を好きになりたい」と何百回も言っておきながら、私は自分のコンプレックスを頼りにして、みんなの仲間に入ろうとして生きてきたのだ。
でも、もう、いい?
私、もう、自分のことを、好きになってもいい?
もう、コンプレックスの数ばかり数えるんじゃなくて、好きなところを、愛せるところを、いっぱいいっぱい、数えても、いいのかな?
私、自分が幸せになれる理由を数える人生をはじめても、みんなに愛してもらえる?

わからないよ、そんなの。
未来は不安定だし、道はまったく決まってないし、怖くて怖くて、足が震えてるよ。

でも。
でも、頑張ってみようじゃないか。
幸せになるための努力を、はじめよう。
いい加減、覚悟を決めよう。
だって私には、承認欲求がある。
これまで私を支え続けて、私がみんなの仲間に入るための理由を作ってくれた、私のために悪者にまでなってくれた、承認欲求がある。
この世の誰よりもひどく強い、もう一生離れてくれなさそうな、私の向こう脛にずっと居座り続けている一センチのほくろと同じくらいに厚かましい、承認欲求が、あるんだ。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。
ほら、自分に言い聞かせてみよう。

私、みんなに愛されたくて、たまらないの。
愛されたくて、愛されたくて、好きな人や家族だけじゃなくて、この世界の人みんなに愛されたくて、たまらない。

きっと、それが私の、「ありのまま」の姿なんだ。

ああ、ようやくぴったりと、ピースがはまる音が聞こえる。

【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー おわり】

前回男が言う「ありのままでいいよ」を女が真に受けてはいけない理由

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