メディアグランプリ

褒めるということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:長島綾子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「褒めるって媚びているような気がしてうまくできないんです」
新入社員研修を担当したとき、女性社員が困り顔でおっしゃった。訪問されたお客様に、ちょっと素敵だなと思ったポイントを言葉にしてお伝えしてみましょうと言った時のことだ。それを「褒める」と彼女は表現したのだが、「褒める」ことについて考えるきっかけとなった。
 
「パッと見た瞬間、お客さまの特徴を一言で表現できるように」とは、CAになりたての頃に教官から教わったことである。客室乗務員の業務にお客様の人数を機内でカウントするというものがあり、その時に重要だと言われた。
お客様が飛行機に乗る際、搭乗券を機械にかざしていただくことで搭乗人数を把握する。最終的な人数を機長に報告するのであるが、稀にその数字が合わないことがある。そんなとき、機内でお客様の人数をカウンティングマシンを使って数えるのだ。まるで、紅白歌合戦で活躍される日本野鳥の会の会員の方のように。
 
何百人というお客様をカウントしていると、途中でこの方を数えたのかどうかわからなくなってしまうのだ。そうならぬよう、数えるときに相手の特徴をパッと一言で表現するとよいと学んだ。
赤帽子、黒メガネ、白ジャケという具合に口から出て来やすい単語で。すると、単語と視覚でお客様を覚えるのでミスが少ない。言うまでもないが、その単語は口から発してはならない。心の中で唱える。
 
お客様をカウントする業務は結局一回しか経験しなかったが、訓練は私の血肉となった。パッと見てすぐに相手の特徴を言葉で表現するとは観察眼や表現力が養われ、なにより人に興味を持つ練習になる。「スカーフと靴のお色味があっていますね」「スマホケース、お洒落ですね」こんな風に伝えるうちに、相手のことをもっと知りたいという思いが湧いてくる。この人はどんなお仕事をされていて、今日はどんな用事があったのだろう、これからどこに行くのだろう。このスマホケースはどこで購入されたのだろう、などなど。不思議と、言葉を発することでこの思いがモクモクと湧き上がるのだ。
 
お客様だからといってそこまで首を突っ込む必要があるかと思われるだろうか。いや、お客様である前に、まず一人の人間として仲良くなりたいという思いが始まりなのである。そのためには相手に興味を持つことが第一歩である。相手に興味を持ち、どんな人なのかなと想像しながら話しかけてみる。それは「褒める」つまり「敢えていいことを言おうとする」ことではなく、興味を持っています、仲良くなりたいです、の合図である。小学生が初めて会った子とお友達になりたいと思った時、相手に声をかけるやり方となんら変わらない。今目の前にいる相手のことを、自分が感じた言葉で好意を表現するということだ。決して相手を持ち上げる行為ではない。
 
そんなことを冒頭の女性に伝えてみた。「友達になりたいと思う人に話しかけるのと一緒ですね」と彼女は笑顔で応えてくれた。
 
話は変わるが、CA時代、機内販売の商品を見ていていつも不思議なことがあった。男性向けのハイブランドのネクタイである。なぜ、犬や猫がプリントされているのか。第一線で活躍している男性が、なぜシルクの高級なネクタイに、よく見るとヘビやくまちゃんがプリントされているものを敢えて購入するのだろう。先輩が教えてくれた。これは男性のサービス精神なのである。世界共通、男性の武装服であるダークスーツの中で唯一、ホッと心和むアイテムがネクタイだ。よーく見ると可愛い動物がプリントされているのを見つけたら、つい声をかけてしまうだろう。すると戦場に、ポッと一輪の花が咲く。
 
以来、男性のネクタイには注目している。意外にも可愛いネクタイを身につけていらっしゃる男性は多い。ネクタイ可愛いですね、と声をかけると相手も嬉しそうに話してくれる。CAはそんなホッとアイテムを見つけるのが好きでこっそりお客様を観察しているのだ。私が一番キュンとしたのは、隙のないスーツにがっしりと身を包んだ紳士の、重そうな皮カバンから赤いガーナチョコレートの箱を見つけたとき。男性のはにかんだ表情が忘れられない。
 
人との出会いとは宝探しである。相手の素敵なところをいくつ見つけられるか。そして、宝は見つけて温めておくだけではもち腐れになってしまう。それを相手の心に届く言葉に乗せて伝えることによって、初めて輝き始めるのだ。言葉にするのが気恥ずかしいかもしれない。でも一度言葉に乗せてみよう。そして相手の反応を観察してみよう。驚きかもしれない、ハニカミかもしれない、想像もつかない表情が返ってくるかもしれない。時には自分の思うように届かないこともあるだろう。そんな時は違う言葉に乗せて伝えてみる。ゲーム感覚で楽しむうちに、相手との心の交流が深まる。その表情を見た自分の心にさらに相手への思いが生まれる。こうして心の化学反応が起きる。
 
いいですね、素敵ですね、と相手が喜びそうなことを言う必要はない。「褒める」とは「言葉遊び」なのだ。難しいことは何もない、ゲームのようにはじめてみよう。
 
 
 
 
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2019-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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