メディアグランプリ

待つという覚悟


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:つちやなおこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もう塾行かない」
 
中1の娘が夏休みを前に宣言した。
特に1学期の成績がよかった訳ではない。
塾がいやだといった風もなく、淡々と通っていたはずだ。なぜ!?
 
学外の友達と話ができる、学校のテストが楽勝になるなど、メリットしかない塾が大好きだった私には青天の霹靂、娘の発言の意味がわからなかった。反抗期がきたなと思った。
 
「みんな行ってるよ」
「まだ始めたばかりじゃない、もう少しやってから決めたら?」
「悪いことは言わない、とにかく通うだけでもいいから行きなさい」
 
もう懇願から次第に脅迫するような毎日だったが、頑として拒否する娘。
塾通い経験のない夫は、「まあそれもいいんじゃない?」と、火に油を注ぐ。
 
うすうすはわかっている。とにかく普通でいてほしい、不安を取り除きたい。
これは私のエゴだ。娘のためといいつつ、私のために塾に行ってほしいのだ。
 
夏休み。
私は仕事があるので、午前中は部活で学校に通うが、娘が午後、何をしているのかわからない。「今日何したの?」と聞いても、「いろいろ」だったり、無視! だったり。まあ、うざいだろう。でも止められない。それはそれは険悪な夏だった。
 
「じゃあ、夏休み明けの確認テストがだめだったら、塾再開ね!」としつこい。
ところが、まあまあの及第点を取ってきた。
 
もんもんとしながらも、だんだん諦めモードになってきている中、たまたま、NHKのEテレ番組「ウワサの保護者会」で、公立で個性的な取り組みをしている世田谷区立桜丘中学校が紹介されているのを見た。
校則がなく、格好も自由、チャイムもなければ、授業をうけるかどうかも自由。生徒の自主性を一番重視している学校で、校長の西郷孝彦氏が10年かけてこの形にしたという。中学時代というエネルギーを持て余す時期に、「ルールで子供をしばるのではなく、解き放つことで考える力を伸ばそう」としているらしい。
 
番組の中で、すべて自由にして不安にならないかと聞かれ、西郷校長はこう答えていた。
「待つことができるかどうかだ。」
待てないから不安なのだと。
 
あっと思った。私は待てていない。
娘は、今、ただ反抗しているんじゃない、考えているのだ。何かを探しているのだ。その時間を与えず、とにかく周りと一緒で普通でいてほしいという私に頑としてNoを突きつけているのだ。
ちょっと震えてしまった。
 
番組の中で生徒たちが口々に言っていたのは、
「ここの学校は自分のペースでできるからいい」
「みんなが自分を認めてくれる」
 
そんな環境の中で、自由に自分の興味のあることに取り組む生徒たち。自分の人生を生きている満足感をもった彼らの輝きがまぶしかった。
 
終身雇用の時代はもう終わった。学歴だけじゃない。若者は、自分の居場所を探して仕事を選ぶ時代だ。「そうだよね、知ってる、知ってる」と思う。でも自分の子には、あわよくば資格でも取って、効率よく一つの道を行ってほしいと思っていた。
娘がどんなことが好きで、どんなものを選んでいくのか、見守り待つことができていなかった。
 
娘はきっと今、ゆっくり考える時間がほしいのだ。
 
親は大人になるまでの時間に沢山の事例を見る。こうしたからよかった、こうすればよかった。いろんな思いをもって子育てに突入する。子どもがかわいすぎて、ころばないように、ころばないようにと、先回りしがちだ。でも、まさに今を生きている子どもは、成長の過程で気付いてしまう。親の考えの古さだったり、いびつさだったり。そして、私は違う! と自立へ向かうきっかけが反抗期だ。
 
送迎しなくては。ついてやらなくては。じゃあ仕事を減らさなくっちゃと子ども中心で過ごした時間、今思えば、私は心から楽しい訳じゃなかった。中学受験だからと仕事をセーブし、自分の時間を削っても、結果を受け取るのはもちろん子ども。うれしい未来が広がるはずが、なぜか私は行き詰まり苦しかった。
 
ああ、私も気付いてしまった!
所詮、自分と子どもの人生は並走することはあっても重ならないのだと。
 
これはチャンスだ。
 
私は覚悟を決めなければならない。とにかく待つんだと。
 
生まれた瞬間から、自分なしでは生きていけない存在ができて、一瞬、同一化する親子関係は、成長とともに確実に離れていくのだ。親ができるのは、その離れていく曲線を上へ上へと向かうよう見守り待つだけなのかもしれない。
 
一生懸命励んだ子育てで、どんどん行き詰っていったこの数年。
長いトンネルを抜けて、ようやく青空が見えてきた。
 
 
 
 
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2019-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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