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メディアグランプリ

違う世界へ連れて行ってくれた「彼女たち」へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井上紗由美(ライティング・ゼミ特講)
 
 
小学校の時、憧れの存在の女の子がいた。
何にでも自分の意見を持ち、凛として自分の世界を崩さない。
 
それに引き換え、私は嫌なことにNOと言えない性格だった。
それもあって、少し気の強い女の子にターゲットにされ、その子の言いなりになっていたことがあった。
 
「私のランドセル持ってきて」
 
自分で持ってくればいいのに、なんで私が取りに行かなくちゃいけないんだろう。
その子の語調の強さに圧倒され、口ごたえが出来ないでいた私は、しぶしぶ彼女の言うとおりにする。NOと言わない私に、彼女はいろんなことを私に要求するようになっていった。
 
そんなある日、憧れの存在の女の子と一緒に帰る機会があった。
私は彼女に、気の強い女の子との話を思い切って相談したのだ。
すると彼女からこんな提案があった。
 
「さゆみちゃん、授業のチャイムが鳴ったら私と一緒にダッシュで教室を出よう!」
 
気の強い女の子とは帰り道も同じ方面で、いつも一緒に帰っていた。
それがいつも憂鬱でたまらなかった。
でも同じ方面で同じ時間に帰るのだから、断りようがない。
 
その私が、初めて彼女を欺くのだ。
一緒に帰る前に、自分から姿を消してしまう作戦。
とってもドキドキした。
でも同時に、心の底からすごくワクワクしたのだ。
 
キーン コーン カーン コーン
 
5時間目が終わり、終了のチャイムが鳴った。
私はランドセルを背負って、誰より早く席を立ち、彼女と一緒に教室の外に走って飛び出した。
 
周りのことは見ていなかった。
とにかく全速力でダッシュして駆け出していた。
はやる気持ちを抑えながら、下駄箱で靴を履いて、道路へ出る。
私たちはしばらく必死で走っていた。
 
気の強い女の子は何が起こったのかよくわかっていないだろう。
ぽかんとその場で立ち尽くしている彼女の姿が想像できた。
 
全速力で走り抜けて、ふたりとも息が切れていた。
もうさすがにここまでは追ってこないだろうと、ぜいぜいする息を整えながら、立ち止まると、私たちは顔を見合わせて大笑いしていた。
 
「やった! やったね!」
 
何とも言えない爽快感が、心を駆け抜けていた。
新しい世界へ、扉を開けて飛び込んだ気がした。
もうここは、前までいた世界ではない。
彼女は私を新しい世界に連れていってくれた。
 
翌日学校に行くと、案の定気の強い女の子が私のところまできて問い詰めた。
「昨日、なんでいなくなったの?」
私は彼女の眼を見てはっきりといった。
「これからは、○○ちゃんと帰るから。もう△△ちゃんとは帰れない」
そうきっぱり、言えたのだ。
 
「ランドセルを持ってきて」
いつもの時間に、いつものように告げる彼女に私は言った。
「嫌だ」
 
初めてかもしれない。
彼女にそんなにはっきりと自分の意思を伝えたのは。
この時のことは今でもはっきりと覚えている。
 
気の強い女の子は、ぽかんとした顔で私を見た。
そしてあきらめたように自分でランドセルを取りに行ったのだ。
その日から、もう彼女が私に命令することはなくなった。
 
憧れの彼女と私は、親友になった。
私はうれしくて、交換日記を彼女とすることにした。
私と彼女だけの秘密。
彼女にしか話さないことをきっと私はそこに書いたし、彼女もきっと私にしか話さないようなことをそこに書いてくれたと思う。
 
書いていた内容はさっぱり忘れてしまったけれど、
ワクワクしながら鍵付きのちょっと素敵な日記帳を渡したことだけは、鮮明に覚えている。
 
勇気を出して今までの世界から飛び出したあの日から、
私の住む世界はまるで変わった。
 
それまでの世界は色に例えるならグレー。
明日世界が終わればいい。そんな風に本気で思っていたこともあった。
そこに彼女が新しい風を吹き入れてくれた。
世界がキラキラ輝いて、私に光を投げ返してくれているのを感じたのだ。
こんな世界が、あったなんて。
 
私を新しい世界に連れて行ってくれた彼女に、いつかまた再会することがあったら伝えたい。私があの日を境に、キラキラした世界に行けたことを。その世界の扉を、一緒に開けて駆け抜けてくれてどうもありがとう、と。彼女がいなかったら、きっと新しい世界を見ることはできなかったと思う。
 
そしてもうひとり、今だからこそ伝えたい相手がいる。
「私に命令していた、気の強い女の子」
 
彼女がいなかったら、このストーリーはそもそも成り立たなかった。
私は彼女と一緒にグレーな世界にいた。
ただ、それだけのことなのかもしれない。
 
もしかして、ここで一番つらい思いをしたのは彼女なのかもしれないな。
そう思ったら、なんだかその彼女のことも愛おしく思えてくる。
彼女はグレーな世界から、抜け出せただろうか?
 
「あなたがいてくれたおかげで、
私は自分の意思を伝える勇気を持てました」
自分の記憶の中にいる気の強い女の子に伝える。
 
「悪役買ってくれて、ありがとうね
あなたもきっと、どこかで辛かったよね」
 
そう心の中で伝えてみた。
心の奥にいたあの日の彼女が、かすかに笑ったように見えた。
せめて私の記憶の中の彼女だけは、新しい世界に出してあげたい。
 
記憶の中の「彼女たち」が微笑む姿を見届けて、私はまた人生の旅に出る。
ストーリーをまたひとつ、自分の好きな色に塗り替えていくために。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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