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私の祖母は奇跡の100歳


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記事:田中 貴美子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の祖母・冨喜子は、奇跡の100歳である。
この歳までボケもせず、健康でいられることも奇跡なのだが、彼女の奇跡たる所以はそれだけではない。
 
祖母は、大正8年、福岡県の田主丸町に、料理屋の末娘として生まれた。
お手伝いさんがいて、当時では珍しかったアメ車が3台もある、割と裕福な家だったらしい。蝶よ花よと育てられ、苦労知らずのお嬢さまとして少女時代を過ごした彼女は、近所でも評判の美人で、“田主丸小町”と呼ばれたそうだ。
 
たいていの少女は、嫁入り後、姑にいびられたり、夫に苦労させられたり、子どものしつけで悩んだりと、それなりの紆余曲折を経て大人の女性になっていくものなのだが、彼女の場合は、違った。
 
18歳で嫁入りし、家事は最低限やったようだが、料理も掃除もまったく苦手。子どものしつけや世話は、夫や姑、長女である私の母任せ。舅姑の介護もやらずにすんだ。祖父は60代で早逝したので、夫の世話さえもほとんどせずにすんでいる。夫と死別後は、ご近所の奥さん方と旅行をしたり、歌舞伎を見たりと、けっこう自由気ままに未亡人生活を謳歌していた。現在は、娘である私の母と同居し、あれこれと身の回りの世話をしてもらっている。
 
よほど前世での行いがよかったのか、神様に愛されたのか……。
 
たいていのわがままは叶えられ、困ったときは必ず誰かが助けてくれる、そんな星のもとに彼女は生まれたのだろう。そして、生来の人懐こく明るい性格そのままに、苦労知らずのお嬢さまのまま、今月めでたく100歳を迎えたのだ。
 
また、“田主丸小町”と呼ばれたその美貌も、衰え知らずである。
 
Facebookに祖母の写真をアップすれば、必ず、
「きれいで上品なおばあちゃんですね」
「気品があって素敵ですね」
「凛としていて素晴らしいですね」
と、賞賛のコメントであふれかえる。
 
ご近所やデイケアの職員さんからは、
「田中さんのおばあちゃんみたいに、美しく長生きしたい」
と言われ、みんなから、「田中さん、田中さん」と慕われる人気者だ。
 
彼女は、毎朝、鏡の前に座り、きちんとおしろいを塗り、口紅を引き、眉毛を描く。その習慣は、外出しないときでも、入院中でさえも変わらない。
 
写真を撮られることが大好きで、お正月、自分の誕生日、母の日、敬老の日など、ことあるごとに、精一杯おしゃれをして撮ってもらっては、自分の映りを厳しくチェックしている。そして、気に入らない写真は削除を命じる。きっと、美しい自分が誇らしいのだろう。
 
自分の手と私の手を交互になでて、
「ずいぶんしわしわになった。しみができた。あんたの手は、すべすべでいいのぉ……」
と嘆く。100歳でしわしわなのは当たり前だし、50も年下の私と比べるのもおかしな話だと思うのだが、彼女は、大真面目。どうもしっかりライバル視されているようだ。
 
先日は、入院先のイケメン理学療法士さんに、恋する少女のように甘えてみたり、退院するときには、彼の手をぎゅっと握って、
「〇〇先生、お世話になりました。お手紙書きます……」
と涙を流してみたり、それはもう、私よりよっぽど現役バリバリの女なのだ。
 
「あたしゃ、女学校卒業やけん」
が、祖母のもうひとつの自慢だ。大正時代、女子は、尋常小学校までが普通で、女学校に進める女子は非常に少なかったそうだ。しかも、田主丸という田舎であれば、なおさらかもしれない。得意な教科は算数。英語もちょっと習ったらしい。いまだに暗算はお手の物で、家計の細かいところまでスラスラと計算してチェックし、母を辟易させている。
 
9か月前、自宅で転んで入院するまでは、毎日、庭に水をまき、家庭菜園を見回り、収穫をし、春には梅干しをつけ、秋には渋柿をちぎって干し柿まで作っていた祖母。骨折したと分かったときは、このまま寝たきりになってしまうのではと心配したが、驚異的な回復を見せ、現在はお風呂などの介助はいるものの、押し車を使えばきちんと歩けるし、一応の日常生活はこなせている。
 
本当に、奇跡としか言いようがない。
 
美しく、天真爛漫な、誰からも愛される祖母。
ここまできたら、“お嬢さま気質”はそのままに、もっともっと長生きしてもらいたい。
 
この間、
「100歳になって一番うれしかったことは何?」
と祖母に聞いたら、
「安倍晋三総理大臣からのお祝いの賞状と、副賞の現金〇万円」
という非常に現実的なお答えだったことは、ここだけの話です。
 
 
 
 
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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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