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愛は、時として、人を愚かにさせる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:益田和則(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「父親の娘を想う気持ちは、海よりも深く、炎のごとく熱い」
それゆえ、時に若者に悲劇をもたらす。
かわいそうに、娘のボーイフレンドは、『あの日』以来、スペイン料理と聞くと、鳥肌が立ち、背中に虫唾(むしず)が走るそうである。
この話は、かわいさ余って愁嘆場を演じてしまった、愚かな父親のモノローグである……。
 
妻が亡くなってから、娘と二人暮らしをしている。娘との仲は良好で、夕食の時など、付き合っているボーイフレンドについても、フランクに話をしてくれる。
 
数年前のことである。娘は同じ大学の男性とつきあっており、二人とも卒業を間近に控えていた。東京で就職することが決まっていた娘。一方、彼は、故郷の九州で就職するとのことであった。
 
娘の親としては、卒業後、二人がどうなるのか、じつに心配なところである。遠距離恋愛になるのか、それとも、彼氏についていくのか、はたまた卒業とともに別れてしまうのか……。
 
三月も半ばを過ぎたころ、私は娘に、思い切って尋ねた。
「彼に会いたいなあ~ どこかで一緒に晩御飯でも食べないか? ご馳走するよ」
数日後、彼氏も、快く了解してくれたとのことで、池袋のスペイン料理店で夕食を共にすることとなった。
 
スキンヘッドに、口髭&あご髭の私。実は、見かけ倒しで、内気で無口な私……。
一人では心もとないので、社交的で誰とでも話せる次男(娘の兄)を誘うことにした。
 
当日、私は次男と一緒に、くだんのスペイン料理店を訪れた。
しばらくすると、娘が彼氏を連れてやってきた。背が高く、面長で精悍な顔つき。さすが体育会のスポーツ選手。娘が惚れるのも無理はないと、納得。誠実そうでワイルドなところが、私の好みでもあった。
 
娘は私の対面に座り、その横に彼氏が座った。私とは対角線上である。友好関係を築こうとしている時に斜めは、あまりよくないな、と頭をかすめた。本来ならば、私の正面に座ってもらうべきであったろう。しかし、娘が正面にすわってくれるうれしさの方が勝り、成り行きに任せた……。
 
次男は、実に見事に彼の負っている使命を果たした。
笑顔を浮かべ、ごく自然に、みんなに話を振っていた。わたしは、終始、笑顔で食事を楽しんでいた。少なくとも、自分ではそう思っていた。特段、彼氏の言動に気に障ることもなかったので……。
 
締めくくりの料理、パエリアを食べ終えた頃、私は、赤ワインを数杯飲んで、心地よく酔っていた。
 
その時、ふと、気付いたのだ。
彼氏は、終始、下を向いていて、私の方を見ていないのだ。
どうした?
私に目を合わせられない、後ろめたいことでもあるのか?
卒業するまでの間、娘をもてあそんで、田舎に帰ろうって魂胆か??
などという考えが、むくむくと湧いてきた。
 
私は、今まで、娘が遅く帰って来ても、小言を言ったことは、一度たりともない。彼女の人生だ。親が口出しすることではない、という方針を貫いてきた。一回の例外もなしに……。
 
しかし、娘の彼氏を目の当たりした時、別の人格が、私の心の中に入り込んできていたのかもしれない。私に目を合わそうとしない彼氏を見ていると、(まったく余計なことであるが)正義感らしきものがふつふつと、心の底から湧いてきたのだ。
 
私は、言わなければならないと思った。そう思った時には、すでに言葉を発していた。
ちゃんと落ち着いて、努めて静かに、できるだけ優しくと言い聞かせながら……。
 
「なんで下ばっかり向いているんだい?」
 
場が、凍りついた。
 
もう止まらなかった。
「これから先、どうするか、決めていないかもしれない。先のことなんか、わからないと思うからいいんだ。娘と結婚するとか、しないとか言ってほしいわけではない。しかし、今、娘と付き合っているのは遊びじゃない。今、この瞬間、娘のことが好きだ、という事を、なぜ、俺にぶつけてこない! 俺の目を見て、その目で訴えろよ!」
 
彼氏は、じっと下を見つめていた。
次男は、『やっちまいやがった……』という顔で、私の方を恨めしそうに見ていた。
私は、娘の反応を待った……。
彼女が、言葉を発するまでとても、とても長い時間に思えた。
「…………」
娘は、彼氏の顔を覗き込み、やさしくささやいた。
「ほら、見てごらんよ、おとうさんの優しそうな目……」
彼氏は、顔を上げて私を見た。
私は、娘の言葉を聞くや否や、観音様のように慈悲深い目になるように努め、穏やかに言った。
「おれは、ただただ、娘に素敵な恋をしてもらいたいだけなんだよ……」
彼氏は、私の方をじっと見ていたが、その瞳の奥で何を考えていたか、私には読み取ることができなかった。
 
そのまま食事会はお開きとなり、娘と彼氏は、どこかに消えた。
わたしは、傍らを歩く次男に尋ねた。
「おれ、なんか間違ったこと言ったか?」
「かわいそうだよ……」
「えっ?」
「お父さん、顔が怖いんだよ……。かれ、まだ若いんだし、怖くて、お父さんのこと見れなかったんだよ。しょうがないなあ、もう~」
「何言ってるんだよ、ずっと、笑顔でお話してたじゃん」
「目が笑ってないんだよ。ほとんど、しゃべってないし……」
「…………」
 
次男の言葉を聞きながら、私は、妻と結婚した当時のことを思い浮かべていた。
人のことは、非難できない愚か者であった……。
彼女の両親にしっかりと向き合っていなかった。
『結婚するのは彼女とであって、親とするのではない』という不遜な思いが、心の片隅にあったのかもしれない。彼女しか見えていなかった。
幸い、彼女のご両親は、「目を見てしゃべれ」などとは言わなかった。
もし、私が言われてたとしたら、「ほっといてくれ、彼女は、俺が幸せにする!」というぐらいの啖呵を切る気概はあったと思うが……。
いずれにせよ、世間知らずの若造だったことに違いはない。
 
それはさておき、
幸い、この件で娘と彼氏の仲が壊れることはなかったようだ。もっとも、彼氏の方は、
「なんで、おれが、怒られなきゃなんないんだよ~。なんだよ、あいつ……」
と、私のことをブツブツ娘に言っていたようであるが、娘は、
「おとうさんのこと、悪く言ったら、私が許さないから……」
と、啖呵を切ってくれたそうである。
 
私は、思った……。
私のとった行動は、間違っていないと思う。
娘は私の気持ちを理解してくれた。
彼氏も、いずれ父親の気持ちを理解する時が来るだろう……。
しかし、私のとった行動は、必要のないものだ。
娘は、私より大人だ。
次男も、私より大人だ。
 
そして誓った。
子供たちの人生に口出しすることは、金輪際、やめよう!
 
私は、娘という、『無償の愛』の対象を持ったことを感謝している。
愛は、時として、人を愚かにさせる。
無償の愛が、盲目の愛へと堕ちてしまわぬよう自分を戒めたいと思うのである。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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