メディアグランプリ

幸せなスナフキン

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:椎名真嗣(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
僕が小学校3年の時、作文の課題に「将来の夢」というものがありました。友達は野球選手と書いていました。長島や王のようになりたいと。しかし僕は運動音痴。野球選手なんてとても書けません。僕の夢って何だろう? と原稿用紙を見つめながら考えます。するとあるアニメの脇役の名前が思い出されました。
『スナフキン』
 
スナフキンはアニメ「ムーミン」に登場する主人公ムーミンの友達です。普段彼はハーモニカを吹いたり、釣りをしたりして一日過ごしています。家はなく、テントで住んでいる自由な旅人。普段彼はとても温厚で決して声を荒げて怒ることはありません。しかし「〜するべからず」と禁止されたり、束縛されたりするのが大嫌い。僕も親の言いつけはいつも反抗していたので、そんな彼に強い共感を覚えていました。そして、彼のような自由な旅人になりたいと思いました。原稿用紙に「僕はスナフキンのように自由な旅人になりたい」と書きました。
 
担任の先生からは大してこの夢は評価されませんでした。しかし僕はこの夢が本当に気に入りました。スナフキンのように誰にも束縛されずに自由に旅をしながら生きていく。そんな将来を想像すると僕はワクワクしました。しかし実際どうすれば自由な旅人になれるのでしょうか。新聞の求人広告を見ても「旅人求む」なんてどこにも書いていません。そして月日は流れます。
 
自由な旅人志望の小学校3年生の僕は、気が付くと大学を卒業していました。とりあえず周りの人たちと同じく会社に就職しました。しかし入社した会社を長く務めることができません。僕は会社を転々とします。そりゃそうですよね。僕は自由な旅人なのですから。そして自由な旅人の僕が最後に辿りついたのが今勤めている会社の営業マンという仕事でした。
 
その当時、うちの会社の営業マンはとても自由でした。訪問先も特に決められていません。朝9時に会社に必ず行く必要もありません。なんて自由なのでしょう。僕にとって理想の仕事でした。
勿論、よい部分だけではありません。釣りで魚が取れないと飢え死にするように、営業マンは営業目標を達成しないとクビになります。こんな自由な仕事にやっと巡り合えたのだから当然クビにはなりたくありません。僕は営業目標達成のために懸命に努力しようと心に誓いました。
 
当時の僕の年間の営業目標は1500万円の利益を上げる事。けれども働き始めた当初、毎日朝から晩まで働いても1か月での利益は10万円そこそこでした。これじゃあ目標達成に150ヶ月かかります。目の前は真っ暗。僕の隣の営業マンはお客様にうまい事を言って、利益の高い商品を売っていきます。口下手な僕にはとても真似できそうにありません。悩んだ挙句、僕が他の営業マンとの違いを出すには、誠実な対応しかないという結論に達しました。お客様にとにかく正直な商品説明を心掛けました。だってその方が良いでしょう。たとえ僕が営業マンをクビになっても「あいつから使えない高い商品を売りつけられた」と恨まれるよりは。そう腹をくくって営業活動をしたのです。すると不思議な事がおきました。私は『誠実な営業マン』と評判になり、最終的に営業目標を達成できたのでした。やはり誠実な対応に勝る営業活動はないとその時痛感したのでした。
 
入社して2,3年が経ち、30歳手前に差し掛かってきた僕。どこからともなく「いつまでもムーミン谷のスナフキンじゃダメ。ちゃんと地に足の着いた人生設計が必要だ」なんていう世間からの声が聞こえてきます。その声に応じて考えてみました。まあ35歳くらいでは課長になりたいな。そして42歳くらいで部長になっているのはどうだろうかと。42歳で部長ならまあ世間体はよさそうです。給料もそれなりにはもらえそう。もしかすると年1回くらいは家族で海外旅行も夢ではないかな。家族も喜んでくれそう。うーん バラ色の人生に見えてきました。よし、じゃあこの新たな目標に向かって邁進するぞ! と心に決めましたのです。その日から僕は懸命に頑張り、予定通り42歳で部長になりました。
 
「お前、何考えているの? こんなお客さん、いくら追っ掛けてもお前の営業目標達成できなよ。もっと頭使えよ!」
朝から営業部長の僕は部下を叱責します。
正直こんな事言いたくないのです。僕自信、誠実を売りに顧客の信頼を勝ち得てきたのに。けれど、時代は変わりました。会社もお客様の信頼が一番って言いますけど、それは表向き。本音は短期的な利益が第一なのです。家族ですか? 部長になって喜んでくれたのは昇進した1年目くらいかな。家族で海外旅行なんて無理ですよ。旅費くらいは何とかなりますよ。だけど上司から、「数字上がってないのに海外なんて行って大丈夫? 」 って嫌味を言われるのが関の山。嫌味を言われるくらいなら高い費用を払って海外旅行に行く意味あります?
 
そんなある日、僕は冷静に今の自分を振り返りました。今の自分は確かに目標である部長になれたけれど、全然幸せじゃない。あー嫌だ。だって僕はスナフキン。自由な旅人なのです。束縛・禁止は大の苦手。会社の方針に従っていても幸せになれません。そして僕は幸せを取り戻すためにやり方を変えました。僕は会社の方針に従わず、誠実を旨に目の前の営業目標を無視したのです。しかし昔のようにはうまくいきませんでした。結局営業目標は達成できず、当然ですが営業部長から外されました。
 
僕は傍から見ると負け犬です。でも今はとてもすがすがしい。だって、本来の自分に戻れたのですから。多分これが僕にとっての幸せなのでしょう。目標を達成する事は素晴らしい事だと思いますよ。しかし
『目標を達成する事と幸せになる事は必ずしもイコールではない』
と知ったのです。そしてそれを教えてくれたのは僕の中のスナフキンでした。
 
 
 
 
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2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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