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あきらめた時、人生が開ける


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:谷津智里(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「あきらめなければきっと叶う」
そんな言葉は聞き飽きた。
人生そんなに甘くはない。
どんなに願ってもできないことがある。
 
そう思ったことのある人はきっと多い。
子どもの頃に夢見た未来なんてどこにもなく、目の前には些細だけれど逃れようの無い現実が延々と積み重なっているだけ。
日常の中に埋もれながらささやかな楽しみを追いかけ、問題から目を背ける。
だって世の中は、私が願うようになんて、なっちゃいない。
 
私は受験勉強が大嫌いだった。
大切な10代の時間を、なぜそんなことに注ぎ込まなければいけないのかわからなかった。
友達がせっせと塾に通い、参考書を真っ赤にしている頃、私は相変わらず好きなお芝居を見漁って、本を読みふけっていた。
12月に戻ってきた模試の結果で、志望校はD判定だった。
絶望的である。
 
私がその時願っていたことは「受験勉強をしたくない」ということだった。
したくないのに、「高校3年生だから勉強をするもの」と定義されるのが嫌で、そんな社会を蔑んでいたし、言う通りになんてなるもんかと思っていた。
そんな日々が過ぎていたある日、ふと思った。
このまま受験に落ちて浪人生になったら、どんな生活が待ち受けているだろう。
もう演劇部も無い、文化祭も無い。
高校生という身分を失った私に何ができるだろう。
今よりももっと、やりたくないことばかりの日々になってしまうのではないか。
 
それが現実感をおびた時、私はあきらめた。
受験勉強をしないことをあきらめた。
そこからの集中力は凄まじかった。
後にも先にも、人生であんなに勉強をしたことは無い。
朝から晩まで、ひたすら勉強していた。
その結果、演劇サークルと、希望の学科がある大学に合格した。大逆転だった。
先生には「もっとちゃんとやればもっといいところに行けたのに」と言われたが、私はそれで満足だった。
芽生えた目的意識が、必要充分な努力と結果を連れてきた。
 
それから3年、今度は就職活動が嫌だった。
良くわからないのにみんなと似たようなスーツを着て、外向けの笑顔を作った大人の話をひたすら聞き、何を判別しているのかわからないテストを受ける。
そんなことに費やす時間があるものかと、演劇サークルでお芝居を作ることに没頭していた。
そして周囲が就職活動を終える頃になってやっと、あきらめた。
私は働かなくてはならない。
ぶつかり続けた両親のスネをかじらずに自立して、胸を張ってやりたいことに時間とお金を使うためには仕事をしなくてはならなかった。
時間を切り売りするアルバイトではなく、自分の可能性を開く仕事を。
 
あきらめると、肝が座る。
大学受験の経験があったからか、なんとかなる気がしていた。
自分を支えるためにそう思い込もうとしていただけかもしれないが、私はさも自信ありげに面接を受けた。
何社かの不合格通知の後、ただ一社、内定をもらった。
その会社は、説明会の案内ハガキを受け取った瞬間から「私を入れてくれるのはここではないか」という気がしていた。
ただの思い込みであるが、「ここに入れなかったらもうどこにも入れない」とあきらめて、覚悟を持って面接に望んだ。
そうしたら、合格の電話がかかってきた。
 
数年後、結婚して、夫の故郷に移り住んだ。
これまた私は「なんとかなる」と思っていた。
東京から新幹線で2時間くらいだし、たいしたことはない。
周りの人とも、うまくやれるだろう。
新しい自分の仕事だって、きっと見つかる。
 
けれどもこれは厳しかった。
受験も、就職活動も、後から思えばそれなりに用意されたフィールドの中での闘いだった。
ところが今度はまるっきりの荒野だ。
手がかりが何も無い。
その上、小さな子どもを2人も抱えて、私の手足は封じられていた。
東京で身につけたと思ったはずのものが何の役にも立たなかった。
 
覚悟を持って就職活動を始めたつもりが、まるで引っかからない。
「現実を見ているのか」なんてことを言われたり、公務員試験を勉強でパスしても「あなたの思っているのとは違うと思う」と最終面接で落とされた。
今度ばかりは、お先真っ暗な気がした。
楽天的でもなんとかなってきたのは、お膳立てされた環境の中で最低限の努力をしたからに過ぎなかったのだ。
 
だがこの時も、あきらめた時に人生は先に進んだ。
東日本大震災が起こったのだ。
私はいわゆる被災地の「内陸のほう」にいた。
身の回りにさしたる被害はないが、20kmも行けば津波の被災地が広がっていた。
もう自分の仕事が無いなんて言っている場合ではない。
家族が無事で、とりあえず身の安全が保証されているだけで充分だ。
自分にできることをしようと、被災地に絵本を届けるボランティアに参加した。
1ヶ月ほど経った頃、被災地支援事業のスタッフが足りないからやらないかと声をかけられた。
思いがけないことだったが、この状況下で私にもやれることがあるならと、引き受けた。
 
それから10年、いろいろな仕事をしたが、いつも目の前のことに集中していた。
将来の大きな夢や展望や、安定性や計画性は無い。
うまくいくこともいかないこともあったが、今自分にできることはこれしか無いのだと、あきらめ続けた。
すると不思議なことに、一つやった仕事が、次の仕事を連れてきた。
 
いつのことだか忘れたが、「あきらめる」は本当は「明きらめる」と書くのだと聞いた。
それでわかった。
私はずっと「明きらめて」きたのだ。
その時自分にできること、できないこと。
やりたいこと、やりたくないこと。
執着をやめて「明きらめる」ことが、次にやるべきことを連れてくる。
つまりはどんどん、真剣に「明きらめて」いけばいい。
私はこれからも、明きらめて生きていこう。
 
最後に問いを一つ。
あなたが今、明きらめるべきことは何ですか?
 
 
 
 
***
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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