メディアグランプリ

妊婦と宇宙飛行士は似ている


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記事:岸なおみ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「こんなに大変なことだったら、もっとちゃんと教えておいてよ!」と思ったのは、分娩台の上。まさにもうすぐ長女がこの世に出てくるというときでした。
子どもを3人産んだ母も、つい最近子どもを産んだ友だちも、
「いやー、陣痛も出産も痛かったよ」
と、あっさりアドバイスをくれたので、
「そっか、やっぱり痛いものだよね」
と、私もあっさり受け取っていました。
 
本格的な陣痛が始まった前日の夜は痛みで一睡もできず、初めての出産だから夜中に病院に連絡していい状態なのかも判断できずにウンウンうなるだけ。朝、病院の受付時間になってから出かける準備をしていると、何か違和感を覚えました。
「破水だ」
と直感的にわかり、夫に伝えてすぐに病院へ向かいます。
破水すると間もなく出産ということは知っていたので、もうすぐ出産なんだと覚悟を決めました。
ここまでで、けっこう痛い。いや、かなり痛い。
当時の私は、この痛みが続いた先に出産があるのだと思っていました。これからさらに痛みが強くなってくることなんて、知らなかったのです。
 
病院に着くと、
「あ、まだ歩けますね」
とか
「話はできますか?」
と、看護師さんたちに話しかけられました。
「え? もちろん歩けるし、話せるけど」
と心の中で思っていた私に教えてあげたい。出産間近は、歩くことも話すこともろくにできないということを。
正確にいうと、とんでもない状態になるということは、出産を体験した人のブログなどで見たことがありました。でも、出産も十人十色で同じ出産はないということを看護師さんから聞いていたので、私はそこまでならないんじゃないかと楽観的に考えていたのです。
 
次第に陣痛の痛みが強くなり、まさに歩きも話せもできないようになったのは、陣痛室に入ってから5時間くらい経った頃。ようやく分娩室に移動しました。
痛みやしんどさのためか当時の記憶が薄れているので、どうやって移動したかは覚えていませんが、分娩室の天井ははっきりと覚えています。そこには、きれいな水彩画のようなタッチの宇宙の絵が広がっていました。美しい絵で妊婦さんの心を穏やかにさせてあげたい、という病院の計らいでしょう。
宇宙を見ながら、私は冒頭の言葉を心の中で叫んでいたのです。
 
出産を終えて数日後、過去にテレビで宇宙飛行士のインタビューを見たときのことを、ふと思い出しました。
宇宙飛行士というのは、いつ宇宙に行けるかわからない。でも、行ける日がきたときのために、毎日過酷な訓練を続けているのだそうです。
ああ、妊婦もそうじゃないか。だって、いつ陣痛がくるかわからない。予定日に出産する人の方が少ないんじゃないかしら。
しかも、命がけの作業ということも同じ。あんなに頭のいい人たちが集まって作ったロケットも、打ち上げが100%成功するという保証はない。
そして、体験してみた感想も一緒。やってみなければ、わからない。宇宙飛行士の話を聞いても、どこか他人事にしか思えないのは、体験してみたことがないから。それは、母や友だちの出産体験談を聞いていたのと同じ感覚だ。
 
ということは、私は宇宙飛行士になってしまいました。やってみたことがある人にしかわからない体験をして、「聞かせて」と言っておきながら「自分はそんなことにはならないだろう」と冷ややかに感じる人に、自分の体験談を語る立場になりました。
今は、なんとか打ち上げは無事に成功した段階です。これから宇宙空間でさまざまな実験を行い、今までとは違う生活環境で暮らし、初めてのことも手探りでこなしていかなくてはなりません。
「ああ、困ったから引き返そう」なんて思っても、とても引き返せるようなところには、もはやいないのです。
 
赤ちゃんとの生活も、それはそれは予想していたものとは違いました。泣き続ける娘に、進まない家事。体力も気力も削られていく毎日。
「なんて大変なんだ」と嘆きたくなる頃に見せる、娘の笑顔。愛しい寝顔に、愛くるしい小さな手足。こんなに感情を揺さぶられる経験をするなんて!
 
小さな赤ちゃんを抱いた宇宙飛行士は、8年経った今も宇宙旅行の真っ最中です。妊婦は宇宙飛行士に似ていて、子育ては宇宙旅行に似ている。いつ終わるかもわからないけれど、未知との遭遇ばかりです。次の星では何が待っているのか、どんな経験ができるのか。そして、いつかこの宇宙旅行は終わるのか。まったく予想ができません。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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