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山でマウントしてしまう人たち


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田村 彩水(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あなたの趣味は何ですか」の問いに対して、「登山です」と答えると、稀に「私も登山が趣味なんです!」と返してくださる方がいる。
嬉しい瞬間である。
同じ山を愛する仲間ということで、その瞬間に相手に対してグッと親近感が湧くものだ。
今まで行った山・これから行きたい山、おすすめのコース、愛用の登山用品、忘れられない景色、美味しかった山ご飯等、話題は尽きない。
 
ところがそんな楽しい趣味の会話のさなか、ほんの少し、もやもやした気分になることが、たまにある。
例えば、こんな言葉に出会ったときである。
 
「私は登山を始めて△年(短い期間)で、百名山に◇座(も)行きましたよ」
 
あるいは、
 
「□山なら、〇時間(早いタイム)で下山できたよ!」
 
または、
 
「◎(険しい山の名前)に登ったことあるんだ!」
 
いうなれば、自身の登山への取り組みを、「数の多さ」や「速さ」「登った山の険しさ」等により、競い合う様な言葉に出会ったときである。
誤解を避けるために言っておくと、数値で表現すること自体を悪いと言っているのではない。趣味への没頭具合や習熟度のようなものは、なかなか客観的に測れるものではないし、むしろ共有しがたい“山の経験値”をわかりやすく伝えてくれる便利な表現だと思う。事実私も自身の登山レベルをわかりやすく他人に伝えるために、山に行く頻度や山の高さを用いて表現することは多々ある。
また、登山の醍醐味の一つは間違いなく達成感だ。高い山、険しい山に登るのには、それなりの準備とスキルが必要だし、達成できたら嬉しくて当然だ。それを他者に誇ること自体も全く悪いことではない。むしろそんなすごい経験を経た先人の体験は是非ともシェアしてほしい。
私がもやもやしてしまうのは、これらの言葉の裏に、ある種の比較の目線、すなわち競争心が感じとれた瞬間である。
 
趣味というのは、時に本当にややこしい。
同じ登山が好きな者同士でも、「アイツは俺より登った山の数が少ないから、自分よりは山レベル劣るな」とか「自分がいつも登っているのが近場の低山だから、あの人みたいにわざわざ遠方の高い山登る気が知れない」とか、登山好きという大きな枠組みの中で、小さくやりあっているというか、口には出さないけれども、なんとなくお互いの真剣さやレベル感を推し量って値踏みしている様なところがある。
実際に登山に一緒に行くとなると、やはり経験値やスタンス、大事にするポイント(景色重視とか、達成感重視とか)等が合わないと、誰かが体力的に無理をしてしまうことになってしまったり、同じ目線で山行を楽しめなくなってしまうので、それらの推量はある程度現実的に必要なものではある。だが厄介なのは、他人の登山へのスタンスを認めず、ひどい時には蔑み、「自分の登山が一番正しい」「アイツの登山は認められない」と他者を貶めて自らの正当性を主張するような方向に向かってしまうことだ。
 
勿論、「危ない岩場もスニーカーで登れたわ!」等、身の程知らずの危険自慢や準備不足自慢は論外である。
それらはおいといて、色んな登山の楽しみ方があるし、どれが間違っているとか、どれが一番とかいうものではないはずだということだ。
 
例えば、長い間登山の目的というものは私の中で「景色を楽しむ」「達成感を味わう」「自然に触れて感覚を浄化する」この3つの理由に尽きたが、昨年、鳥をこよなく愛する初老の紳士と知り合う機会があり、「鳥の声と姿を楽しむ」という新たな楽しみ方の引き出しが増えた。
鳥の姿を追うとなると、立ち止まり、気配を殺し、じっとあたりに気を配るひとときが必要となる。
スピードを重視する登り方を是とする人にとっては、魅力的な登り方ではないだろう。
けれども私にとっては、今まで使っていなかった細胞を働かせるような、新鮮な感覚に体中の皮膚が覆われる様な、貴重な時間なのである。
さすがに複数人でぎりぎりのタイムスケジュールの中で、今晩の野営地に急いで向かっているときに鳥を追いかけて自分の楽しみを優先するのは、ただの空気読めない人だが、公共の安全や和を乱さない限りでは、必ずしも頂上を目指さないような、こんな登山の楽しみ方があってもいいと思うのだ。
 
趣味は、宗教のようなものだと感じることがある。
 
どちらも、自分が何を好むか、表すものであり、自分が生きていることに精神的な喜びを見出す瞬間を与えるものである。それ故に自分がどういう人間か、という問いに密接につながるものでもある。例えそれがなくとも、物理的に生命を維持することはできるが、人生の充実感を左右するという意味では、その人の在り方に関わる大変重要なものである。
だからこそ、趣味の世界ではついつい他人と比べて優位性を見出そうとしたり、相いれない価値観のものは排斥し、自らの正当性を守ろうとする方向に向かってしまいやすいのかもしれない。腹の足しにならぬからと言って、「たかが趣味」と言い捨てることは、決してできない。
 
けれでもせっかく出会えた同じものを愛する者同士、無理に仲良くする必要はないが、お互いに蔑むでもなく、貶めるでもなく、あっさりとただ共存していけたらいいのになあと思う。
山はマウントを取るものではないし、勿論他のどんな趣味もそうだ。
同じものを愛しながらも、ドロドロの三角関係に陥るのではなく、自身の愛の在り方、他者の愛の在り方を尊重できる、フラットな関係を目指していけたらよいなと思う。山だけど。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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