メディアグランプリ

病気がくれた笑顔の時間


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記事:旅野おかゆ(冬休み集中ライティング講座)
 
 
大嫌いで、大好きな人ランキング1位はずーっと母だった。でも、そんな母を心の底から好きになり、改めて尊敬するようになったのは母に癌が見つかり、闘病生活が始まったときから。見送った今は、「かわいい母しか思い出せない」という素敵な魔法にかかっている。しんどくて、理不尽なこともあったけど、それ以上に母が懸命に人生を生き抜く姿を見せてくれたから。
 
病気になる前から、とても活動的だった母。病気が発覚してからも、その行動力は変わらなかった。むしろ、「人生に限りがある」と知ってからの方が、本当にやりたいことをしてきた気がする。
 
ずっと習いたいと言っていた太鼓をはじめ、サイクリング、1人旅などなど、家族が心配なるほどだった。病状が悪化し、体調の良いときは出かけた。お気に入りの神社を参り、大好きな動物園へ。姉と私が交代で車いすを押しながら、ゆっくり3人で過ごした。
 
しかし、病状は進み、車いすでの外出も難しくなった。それ以外にも、トイレ以外は、24時間ベッド生活。半身麻痺もあり、どんどんできないことが増えて、母はイライラしていた。それと比例するように、家の空気はどんよりしていった。
 
休んでいる母の邪魔にならないように、目隠しのカーテンを引き、隣へ移動した。そして、小さな声で他愛のない話をしていた。「見えないところで、コソコソと!」と、母が急に怒りはじめた。びっくりして、慌てて2人でベッドに向かい話を聞いた。「動けない私がここから見える世界はたったこれっぽっち!誰もわかってくれない!」と、泣きながら、母が感じている孤独や寂しさについて話してくれた。良かれと思ったことが、母を苦しめてしまっている。なので、落ち込んだ。でも、私たち親子にはそんな余裕はなかった。なので、これを機に今まで以上に、気持ちを伝えるようになった。
 
そのお陰で、変な気を使うこともなく、ざっくばらんに話せるようになっていた。イガイガしはじめていた親子の間に笑いが帰って来た。そして、その笑いは、私の中で張りつめていた緊張もほぐしてくれた。
 
「安住紳一郎の日曜天国」で大笑いする母。子どものように、口いっぱいにご飯を頬張る母。寝ていたのにも関わらず、好きな曲が流れると、ぴくぴく動き出す母の足。書き出すときりがないほど、大変な逃亡生活の中に「笑い」と「ほんわか」にあふれていた。それからは、本当に母が癌だということを忘れるぐらい、みんなでよく笑った。そのときに、一時期勧められて入ったホスピス時代を思い出した。素晴らしい医師と看護師に囲まれて、十分な処置をしてもらい、良く効く薬も出してもらった。でも、家のように楽しく笑うことは難しかった。なぜなら、他の方もたくさんいたし、病院で笑うことは不謹慎とも考えられていたから。だから、医療的な部分で、難しいことはあったと思うが、家に帰れて本当に良かった。
 
診察きた医師に「覚悟した方がいいです」と、毎回言われるぐらい深刻な状態だった母。医師が言う通り、時々意識が飛び、会話にならない時間にだんだん増えてきていた。それでも、意識が明白なときは「生きたい」という気持ちを前面にだし、「元気になったら、歩行器使って駅まで歩く!」と、これから、やりたいことを話してくれた。そして、ときには、「応援よろしくお願いします!」と、見えない誰かに応援を募っていた。
 
回復することは、難しい。母もわかっているはず。モルヒネで痛みを緩和させていたが、相当の激痛があったはず。それても、本気で奇跡を望み、生きようとしている母の姿は世界中の誰よりも素敵だった。
 
昔は、気分屋で、手もすぐ上げる怖い母。キレると、台所で皿を割り、家出もしていたパンチのある母。分かり合えなくて、ぶつかったことも山ほどあった。だから、母の介護をするまで、「一生母とは分かり合えないにちがいない」と、本気で思っていた。
 
でも、病気のおかげで、真正面から向き合うことができた。お互い弱さをさらけ出したおかげで、想像とは異なる、幸せなで愛しい親子の時間を過ごすことができたのは、母が病気になったからだと思う。変かもしれないけど、私は病気に感謝している。病気がくれたのは、最高の親子の時間だから。
 
 
 
 
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2021-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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