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「姉は救いの神」

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:加藤凡順(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「毛虫を掴めないなんて、男のくせに!」
 
姉が僕に言い放ったのは、幼稚園児の頃だった。家は庭が広く、毛虫だらけの季節があった。
姉は、その毛虫を素手で、バンバン捕まえて、色々な方法でやっつけていた。
 
姉は2歳年上で、当時は同じ幼稚園に通っていた。その幼稚園で、
「今日アタシと遊ぶのよ!」
という僕の争奪戦があった。女の子何人かが、僕の手を引っ張り取り合うのだ。
漫画のようなワンシーンだ。
 
一番強かった女の子が僕を持ち帰り、
 
僕は、家でおやつをご馳走になった。
綺麗なお母さんが、とても上品なケーキを出してくれたのを覚えている。
 
ケーキを食べ終わった後、その女の子と、僕は向き合い、黙って座っていた。
 
しばらくした後で彼女は、
 
「つねちゃんて、つまんない」
と、僕をののしった。
 
何も返せずに、
とぼとぼと帰ったのは言うまでもない。
 
僕が人気だった理由は、「あのお姉さんの弟だから」に尽きる。
 
姉はとても人気者だった。
 
自分のことをボクと呼んでいた。
 
大人たちには「ぽっくん」というあだ名をつけられていた。
 
姉は男の子になりたいと常々語っていた。
「だって女って自分のことを、あたしと言ったり、キャアって言ったりするんだよ気持ち悪いよね」
 
と毎日のように言っていた。
 
姉は何しろサバサバしていた。 我が道を行く、人の言うことは聞かない。男らしいと言えばその通りだ。 それが人気の秘密だったかどうかはわからない。僕が認識したときにはすでに男のようであり人気者であった。
 
遊びの時には、完全にリーダーとして、周りを仕切り、何で遊ぶかをを決めたのは姉だった。そして、新しいアイデアをどんどんと打ち出し、盛り上げ、皆を満足させて遊びは終わる。
 
頑固な事は本当にすごくて、自分が悪いと思わなければ、絶対に謝らなかった。
 
謝った方が、楽になるのにと、側で見てても思うのだが、
姉は、相手がどんなに怖くても、怯まなかった。
貝のように口を閉ざして、無言を貫いた。
泣きもしない。
 
泣き虫で弱々しかった僕は、姉の頑固さに驚愕していた。
 
姉が変節したのは、中学校に通い始めた頃だ。僕はまだ小学校5年生だった。姉の制服はセーラー服になり、毎日スカートを履いて学校に行くことに違和感しかなかった。
 
ある日、家にゴキブリが出て、姉は「きゃあ」と言って、僕に駆け寄ってきた。僕は姉が怖くてよけた。
 
その「きゃあ」は、下手な役者の作った声色そのものだった。ほんの直前まで、自分で叩き潰していたゴキブリをいきなり、怖いと言い始めた。
その変貌ぶりは、本当に怖かった。
 
それから徐々に、姉は女のようになっていった。
 
残念だと思っていたのは、最初の1年くらいで、その変化に僕も慣れていった。
 
家で全く勉強しない姉は、授業を聞いているだけで、そこそこのいい成績を取り、学区では一番いい都立高校へ入った。
 
高校に入ってから、さらに、姉は変化していった。ダイエットを始終したり、料理をしたり、長風呂になった。
 
長風呂の間、姉は、大きな声で独り言を言っていた。
 
「嫌いだ!」
「うるさい!」
など、シンプルな単語を連呼することが多かった。
 
本当に人と話しているかのように、語る時もあった。
 
最初に聞いた時には、本当にびっくりした。
 
家は、シングルマザーの母と6歳上の兄と4人暮らしだったが、
 
姉が風呂に入るその時間は、兄は遊びに行き、母は仕事に行っていた。
 
実質、夜の家には2人でいることが多く。
姉の独り言を聞くのは、僕だけだった。
 
姉の独り言にも段々と慣れていき、
だいぶ、ストレス溜まっているんだなと思うくらいになった。
 
兄と母からの抑圧が、姉のストレスの全部だったと思う。
 
僕には、兄からの抑圧だけで、母からのは無かった。
 
兄に、説教という名の精神的虐待を受ける時、
 
僕は、いつも諦めて、泣きながら謝り、さらにいじめられた。
 
姉は、絶対に謝らずに、相手が呆れて、疲れて諦めるまで頑張った。
 
ある日、そんな姉を見ながら、僕も見習わないと生き残れないなと心の底から思ったことがある。
 
相手が何を言っても、自分を通す。
相当ハードルの高いことだった。
 
姉は、アメリカ人と結婚して、アメリカ人になった。子供も2人育てあげた。
 
今聞いても、姉の英語は、下手だと思う。しかし、アメリカで仕事をして生きている。
 
アメリカ人の夫とは、何年も前に別れているが、その後も仲良く付き合い、二人で子育てをしていた。
 
驚くことに、夫と別れた後の姉はモテモテで、次から次へと彼氏ができた。彼氏のいない時は無いくらいだ。
 
全く美人ではない姉を、家族3人で心配していた。一生結婚できないのではないかと、
 
まぁ、僕と同じ顔なのだから仕方ない。
 
死ぬまで姉を可愛いと言っていたのは、別に暮らしていた父親だけだった。
 
そんな家族の心配とは関係なく、姉は、ホームパーティーでアメリカ人の英語教師に一目惚れされて、結婚し、アメリカに渡った。
 
姉は、生き延びることに成功したのだと、僕は思った。
 
僕は、20歳の時に家を出ることに成功して、なんとか生き延びることが出来て、今に至る。
 
あの、無力な子供の時に、もし、姉が謝っていたら、僕の心は、生き延びることはできなかっただろうと思う。
 
姉は、僕の人生を救ってくれた恩人になる。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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