メディアグランプリ

悩み多き思春期の大海原を、泳ぎぬくためのレッスン


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中川文香(リーディング・ライティング講座)
 
 
その本との出会いのきっかけはカレンダーだった。
 
今から約5年前、私はとある日めくりカレンダーを手にした。
そのカレンダーの表紙にはこう書いてある。
 
「たとえ100万人が楽しそうにしていたとしても、そこに楽しめるものがない『この世にたった一人のあなた』は、無理に笑うことはありません」
 
仕事に人間関係に悩みまくっていた当時の私は、この言葉に吸い寄せられるように思わず注文ボタンをポチリと押していた。
それは、叶姉妹として活動していらっしゃる叶恭子さんの日めくりカレンダーだった。
 
カレンダーは恭子さんの生きる哲学に溢れていた。
誰にも媚びず、自由に心の赴くままに、他人に必要以上に干渉しない、という恭子さんのその言葉は、場合によっては人から非難を浴びせられるようなものなのかもしれない。
けれど、そこに並んでいる言葉たちは、決して私に迎合しようとはしないけれども、どこかほどよい距離を保ちながらそっと心の奥底に灯をともしてくれるような、安心して背中を預けられるような、そんな不思議な感覚を与えてくれるものだった。
 
「この方の考え方をもう少し覗いてみたい」
 
そう思って探した結果たどり着いたのがこの本だった。
 
『叶恭子の知のジュエリー12カ月』
 
一年のひと月ずつが、例えば1月は「知性について」、8月は「欲望について」などのテーマ別に分けられ、そのテーマに沿った恭子さんの言葉が各々の月のページに記されている。
毎月1テーマずつ、一年で12テーマ分の恭子さんのレッスンを受けられる、という塩梅だ。
「それだと先述の日めくりカレンダーに少し内容が追加されただけではないか」と思う方がいらっしゃるかもしれない。
けれど、この本には恭子さんの格言に加えて、当時10代の少女たちの悩みに恭子さんがお答えする、という箇所が設けられているのだ。
10代の少女の悩み事というのは、例えば、
「かわいくない自分、永遠にこのまま?」
「ときめきは、どこに行けばありますか?」
など「自分も少女だった頃こんな悩みを持っていたな」と思うようなものから、
「気になっているのが『女の子』なんです」
「不倫をしていた母」
といった少し考え込んでしまうようなものまで、恭子さんが恭子さんの考え方を織り交ぜながら回答している。
そのお答えの内容が、決して相手を非難せず、かといって必要以上に優しすぎず、日めくりカレンダーをめくった時に感じたのと同じ、程よい距離感で支えてくれるようなものなのだ。
 
なぜこんな感覚になるのだろう?
 
読み進めていくと、気になるページがあった。
そこに書かれていた悩みは、
「学校の休み時間にトイレに一緒に行く友だちがいなくて困っています」
というもの。
この “トイレ友達” 問題、おそらく思春期の女子は必ずと言っていいほど通ってきたのではないだろうか?
何故か友だち同士ぞろぞろと連れだってトイレに行く女子たちを、不思議な気持ちで眺めていた男子たちも多いのではないだろうか?
かくいう私は、かつて少女だった頃「一緒に個室に入って用を足すわけでもないのに、なんで一緒にトイレに行かないといけないんだ?」と思っていた。
思っていたけれども、みんなそうしていたので「そんなもんなのか」と自分を納得させていた。
 
「断ってしまうと、仲間外れにされるかもしれない」
「一緒に行かないと、私のいない場で悪口を言われるかもしれない」
 
そんな恐怖感からきっと思春期の女子たちは連れだってトイレに行くのだろうけれど、恭子さんのお答えは「トイレに一緒に行くための人は『友だち』ではない」と、実にシンプルだ。
“友だち” とはどんなものか、 “ひとりでいる” というのはどういうことなのか、そのことを一度立ち止まって考えてみて欲しい。
周りの人たちが当たり前ということを『本当にそうなのか?』と自分の頭でもう一度よく考えてみて欲しい。
そうすると、一緒にトイレに行く “友だち” がいなくても、その悩みは解消するのではないだろうか。
今、悩みだと感じていることをもう一段掘り下げて、その本質を考えてみて欲しい、というお答えだった。
この回答を読んで、「中学生の頃の自分がもしもこの本と出会っていたら、もしかするとあの時の悩みの大半は無くなっていたかもしれない」と思わずにはいられなかった。
もっとも、この本は私が成人してから出版されたものなのだけれど。
 
恭子さんは「10代の少女だから」という意識ではなく、「思春期で揺れ動いてはいるけれど、でもれっきとした一人の女性」として少女たちを見て、それぞれ一人一人に真摯にお答えしている。
相手を一人の人間としてリスペクトして向き合っているその姿勢が、行間からにじみ出ているのだ。
だから、はっきりとご自身の考えを書かれながらもどこか優しさが込められているような、「あなたは大丈夫」と背中をそっと支えられているような、こんな不思議な感覚になるのだ。
 
「もっと早くこの本に出会えていれば」と思わないでもないけれど、でも、一つの楽しみが出来た。
もしも、私に子供が出来たら。
もしも、私が子供を育てるというチャンスを得られたら。
思春期の悩み多き年頃に差し掛かったら、そっとこの本を手渡したい。
日々変わっていくからだと心の不安定さの中で生まれるたくさんの悩みを、それを一度自分の中で咀嚼して消化していくための力を、この本の中から学んで欲しい。
恭子さんのきっぱりとした、それでいてしなやかで美しい生き方を、この本から感じ取って欲しい。
そんな新しい希望が生まれた。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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