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『愛の不時着』の食い力 【ネタバレ注意】

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
*一部ネタバレにご注意ください
 
これぞ、私が求めていたシーンだ……!
 
思わず、身を乗り出して、巻き戻しボタンを押した。
 
我が家にNetflixの波がやってきた。これで、いつでも、人気のドラマや映画が見られるのだ。廃人化計画一直線になりそうな不安を抑えつつ、Netflixに入ったらまず見ようとあたためていた『愛の不時着』を、いざ、視聴開始!
 
南の財閥令嬢の主人公が北側に不時着して、北の軍人と恋に落ちる。許されない恋とスリルとサスペンスに満ちた展開。続きが気になるのであらゆる隙間時間に見てしまう。やはりNetflixは、危険な子!
 
ご多分に漏れず、『愛の不時着』にドはまりしてしまった私だが、思わずガン見して、巻き戻した場面がある。
 
しかしそれは、主人公たちが絡むキュンとなるようなシーンでもなければ、鬼気迫るアクションシーンでもない。
 
海で白菜を洗う風景、だ。
 
北側に不時着した主人公が暮らす村の婦人たちが、キムチを仕込んでいく光景にくぎ付けになってしまった。本来、キムチや漬物などは、素材に塩を刷り込んで野菜から水気を出す。でも、それを塩ではなく、海水で白菜を洗って、漬け込んでいくのだ。作業をする村の女性に、有力者の奥さんが「もっとちゃんと塩漬けをして!」とアドバイスをするという何の変哲もない描写に、日本ではほとんど見られなくなった食文化の伝承を垣間見たのだ。
 
塩という調味料は非常に便利だ。日本でも味噌や醤油を仕込むために欠かせない食材である。しかし、かつては庶民が手軽に使えるものではなかった。戦国時代の有力な武将、武田信玄が塩で困り、ライバルであった上杉謙信から塩を送ってもらうというエピソードから「敵に塩を送る」ということわざが生まれたという話があるくらい貴重だった。
 
では、塩が手に入らなかった時代に保存食を作るためにどうしていたのか。原材料の海水なら簡単に手に入るからそれを使っていたのではないか、と、私の発酵の師匠が話していたのを興味深く聞いたことがあった。でも、残念ながら、今では、塩はスーパーで簡単に手に入るため、当時どうしていたのかという昔の知恵は途絶えてしまっているから検証のしようがないなあと思っていたのだ。
 
その予測を裏付けるような場面が、『愛の不時着』にあって、本当に驚いた。
 
また、その北側の村には、庭に「キムチ蔵」があって、1年分のキムチやその他の食料などを貯蔵したり、肉の保存性を高めるために、塩の壺にしまっておいたり、冷蔵庫がない時代に人々はどのように保存をしていたのかという知恵をのぞくことができる。その地域の文化的な住宅には、冷蔵庫がある家もあるのだが、停電が多いため安心して保存をしておけないので、洋服置き場として使っているというようなユーモラスな描写もあるくらい冷蔵庫が安心して使えない状況のようだ。
 
そのかわり、人は常温で食料を保存するという知恵をしっかり使って生きているのである。
 
北側での食生活の再現は、素朴ながらも、人情にあふれたあたたかな「だんらん」を表現している。みんなでキムチを仕込んだり、お祝い事には、食事を一緒に作ったり、食事を差し入れたり。地元のつながりが薄れた私達世代には、現実にあったら若干うっとうしいなと思うような土地のつながりだが、暖かく魅力的に描かれている。
 
一方、主人公の住む南側での生活は、彼女が人との交流がうまくいっていないせいか、食生活も冷ややかなのである。付き合いででてくる豪華な食事か、フライドチキンやサンドなどのファーストフードが中心で、後半は、人と楽しく食事をする場面が増えることであたたかな雰囲気が作られていくが、食事のクオリティとしてはどうしても物足りなさを感じてしまう。経済的な尺度で計れば、南側での生活が断然華やかに感じられるのに、本当の豊かさってなんなのだろう、と考えさせられたドラマだった。
 
私達の住む日本でも、ファーストフード店が増え、そこに行けば、日本中どこでも変わらない食事がとれるようになった。南側と状況が似ているかもしれない。それは、安定的ではあるものの、画一的過ぎてその地域らしさというものを感じられなくなり、少し寂しいなという思いはぬぐえない。
 
一方で、その土地に由来する食べ物や、手作りの味噌などの調味料、ぬか床などが家庭から消え、『その家の伝統』の食生活は風前の灯。保存食もほとんどなくなり、私達は、冷蔵庫がないと食材が保存できないような、家電依存の生活に慣れきってしまっている。
 
『愛の不時着』は、一貫して、食事の場面で、登場人物が心身ともに元気になる様子や温かい交流を描いてきた。北側の描き方が経済的に劣っているというような雰囲気にならなかったのは、大勢で囲む食卓からあふれる「食い力(くいりき)」がとても魅力的に感じられたからだと思う。
 
私が家族に、特に子供達に残してあげられるのは、そんな「食い力」なのではないか、と思うのだ。日本は食生活が便利で、自分が手を加えなくても簡単に外食したり、テイクアウトしたりして色々と食べられるようになっている。ついそういうものに頼ってしまいがちだが、たまには腕によりをかけて、手料理をふるまったり、家の保存食を作ったりして、家族で楽しく食卓を囲む……そんな生活を大切にしたいと思うのだ。
 
『愛の不時着』を楽しむ皆さん、ぜひ、食のシーンにも注目して楽しんでみてほしい。
 
 
 
 
***

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2021-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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