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旗振り当番を14年間楽しむための3つのコツ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「3か月に1回まわってくるのって、面倒くさいですよね」
 
学校の事務室脇に設置されている引き出しからどぎつい蛍光イエローの塊を出しながら、同級生のママが周りを見回しながら話しかけてきた。先生が通りかかりでもしたら、体裁が悪いと思ったからだろう、ずいぶんと声を潜めて。
 
今日は下校時の旗振り当番だ。
小学生達の通学路の危ないところに立ち、黄色い旗を振って交通整理をする。
 
「まあ、そう思ってしまえばそれまでだと思うけどさ、私、旗振り当番を無料でできる若返り法だと思ってるのよ」
 
話しかけてきたママは、え? という顔で少し不審げに私を見た。
 
「確かにそれが本当ならやる気出るけど……一体どういうこと?」
 
「帰りに会ったら、教えてあげる~!」
 
蛍光イエローの塊を広げて身にまとう。黄色い旗とあわせて持つといっぱしの交通整理ルックだ。初めのころはさらし者みたいで恥ずかしかったけど、今では、装着したら、いつもより1センチほど姿勢が伸びるのが不思議だ。
 
話しかけてきた彼女の言うことはわからなくもない。長男が1年生になったときには、3か月に1度ずつ回ってくる当番に辟易していた。しかも、我が家は、4歳差と年の差が空いている3人兄妹。とぎれることなく14年間、つまり50回以上もこのお役目を果たさなければいけない計算をするだけで気が遠くなる。
 
でも、どうせ同じ仕事をしなければいけないのならば、楽しくやれたほうがいい。そう思い直し、旗振り当番を楽しむための3つのコツを考えだした。
 
まず、1つ目は、誰にも負けない、元気なあいさつマシーンになること。
 
「さよなら~走らないように気を付けて~!」
 
「さようなら!」
 
蛍光イエローの制服効果なのか、いつもよりも、大きな声が出る。近所の人も、大きな声を出すのが騒ぐ声なら眉をひそめるだろうが、あいさつをして振っていたら苦情も言わない。
 
大きな声であいさつをしていると、心なしか頭がすっきりして、気分も晴れてくる。気のせいかと思ったら、調べてみると、身体にいいことがたくさんあるのだ。大きな声を出すことは、大脳の前頭前野に働きかけて、余計な雑念を払うことができるのだそう。スポーツなどで声を出せというのは集中力を上げるため、理にかなっているのだ。また、声を出すことで脳の機能が鍛えられ、若返りを期待できる。
 
2つ目に、マルチタスクを自分に課すこと。本来なら、道路を行き交う乗り物から子供達の安全を確保する仕事をすれば最低限の任務は完了だ。でも、そこに付け加えて、下校してくる子供達だけでなく、行き交う一般の方や他校の生徒も忘れずにあいさつをするというのがポイントだ。
 
下校中の小学生達には「さようなら」、一般の方には「こんにちは」と使い分ける。もちろん、車が来たら的確な判断で生徒たちを止めたり、車に待ってもらったりさばいていく。複数の作業をもぐらたたきの如く正確にこなすことで脳のシナプスが成長する……ハズだ。まあ、少なくとも漫然と立って、適当に旗を振っているよりはマシだろう。
 
と、ここまでは、案外真っ当なことだと思うので、彼女が帰りにもしも聞いてきたら教えてあげようとおもう。
 
けれど、実は、もうひとつ楽しみがあるのだ。
 
それは、子供達を観察すること。
 
旗振り当番も6年目となると、大きくなった子供達を見るのが新鮮だ。わが家の長男は毎日顔をあわせているから、細かい成長をすくい取ってあげるのは難しいのだが、3か月に一度ずつ見送る息子の同級生たちの変化にいつも驚かされるのだ。
 
1年生の時には、顔なじみの子供達は帰りに私を見かけると駆け寄ってきて、話しかけてくれたり、誰のお母さんなの? と気さくに聞いてきたりする子もいた。話しかけるのが苦手な子は、そっと名札をのぞき込んで「T君のママだ!」と言って走りさる子もいる。とにかく初々しくてかわいらしかった。
 
それが、6年生にもなると、ぐんぐんと背も伸びて、私よりも頭一つ大きい子までいる。恰幅がよくなって、運動部にスカウトされそうな子は、ランドセルが申し訳なさそうに背中に張り付いていてちょっと気の毒だが笑いを誘う。そして、顔見知りで話しかけてくれた子達も少しずつ思春期に入るのか、ちょっと照れくさそうに距離を置いて私のことをチラッと見る。
 
その流し目にちょっとキュンとしてしまうではないか! 何、その反則技っ!!
 
それだけじゃなく、みんなで通り過ぎて行ったあとで、一人ちらっと振り返り見えないように片手をさりげなくあげて何事もなかったように友達と去っていくのだ。
 
ちょ、ちょっと待て! その仕草、めっちゃカッコイイじゃん!! うわー、中学校に上がったら、目くるめく青春のヒトコマを過ごすんだろうなあ~。年甲斐もなく、ドキドキしてしまう自分がいる。いや待て、相手は息子の同級生だぞ!! そう思いながら、男子の予想外にはにかんだ動作に、胸の奥に置き忘れてだいぶしなびたオトメゴゴロがうずくのである。
 
少し禁断な予感がするし、さすがに同級生のママ友には口が裂けても言えないが、なんとなく女性ホルモンが活性化して若返るような気がしてならない。
 
そんなこんなで若干怪しい妄想も含めながら、今日も業務は終了だ。蛍光イエローのベストをきれいな塊にして、引き出しに戻す。私の魔法は解けて一般人に戻っていく。
 
3か月に一度のお楽しみ時間。あと8年も続けたら、旗振りロスになるかも、しれない。
 
冷たい風もだいぶやわらぎ、春にかわいい1年生が入ってくる季節が芽吹き始めている。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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