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お気に入りのキッチンソープ


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記事:鈴木 道(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
お気に入りのキッチンソープがある。ビオレのジェル状のソープだ。香りのついているものもあるが、私が愛用しているものは無香料タイプで、ブルーの容器に入っている。
 
スーパーで買い替えのキッチンソープを探している時、「手に着いたヌルつき脂を一気に洗い落とす」という宣伝文句に惹かれて手に取った。「調理中に香りが気にならない無香料」というセールスポイントも気に入り、これに決めた。
 
それまでキッチンソープは特にこれと決めたものはなく、セールでコストパフォーマンスが良さそうなものや目に留まるものがなければコマーシャルで見かけるポピュラーなものを選んでいた。だが、ひき肉をこねた後は何度か石鹸をつけなおして洗わないと次の食材を扱う気になれなかったり、無香料のものを選んでも独特の香りが気になっていた。それでかの文言に惹かれ試してみたくなったのだ。
 
それ以来、キッチンソープがなくなると毎回同じものを買って使っている。一度使って気に入ったのだ。私の定番商品になった。確かに脂汚れがすっきり落ちたし、香りも気にならないものだった。
 
昔、友達とアーモンドチョコレートを食べながら
「チョコレートを食べたくなると、売り場であれこれ迷うけど、結局いつもアーモンドチョコレートを買っちゃうんだよね」
「私も、そうそう。アーモンドチョコレート選んじゃうよね」
と意気投合した。その時、私たちは新しいものに挑戦する意欲がたりないよね。失敗したくない安定志向だよね、と自己否定的な感覚で話していた。たくさん並んだ商品から、よく吟味して、新しくておいしい商品を選び出すことができないといけないと思っていた。
 
効率的な家事の仕方やアドバイスが本や雑誌で数多く紹介されている。カリスマ主婦や料理家やアドバイザーの実体験に基づく提案はどれも説得力があり、すぐに試してみたいものも多く、参考になる。そんな中に、毎日やる台所仕事をいちいち考えずにルール化して効率よく、という勧めがあった。目からうろこが落ちるようだった。そうか、いちいち考えるのが良いわけではなく、考えずにいつも通りを決めて余計な負担をなくすのが賢いいやり方なんだと妙に納得した。私は、お味噌を買うのでも、どのお味噌がおいしそうか。あまり人工的でなく自然で身体に優しい商品か。何よりどれがお得か、と毎回棚の前でたくさん並んだお味噌たちとにらめっこをしていた。大分時間をかけていた。ほかにもドラッグストアで、いちいち悩んで商品を選ぶものだから、店員さんが商品の整理や、棚の掃除をしに来た風に私のそばに作業をしに来る。これってなんか怪しまれているのかな、と思い「怪しい者ではありません」と、あわてて決めてレジに並ぶこともある。大分時間の無駄をしている。
 
お気に入りのキッチンソープと出会ったのもちょうどそんな頃だった。そうか毎回その時出ている最善を選ぼうと時間をかけていたが、日用品は基本それを使うと決めてしまえば悩む必要もなく、楽なんだ。毎朝、同じ時間に家をでて、同じ時間の電車にのれば遅刻せずに職場に着けるのと同じだ。いつものことに無駄なエネルギーをつかっていたなあ、と気が付いた。
 
そんなキッチンソープも、コロナ感染症の流行が拡大し、店舗から石鹸が品薄になった時期には全く見かけなくなってしまった。あの頃はお気に入りどころか、どんな石鹸でもあればラッキーというほど品薄だった。徐々に棚に石鹸類が戻ってきても、いつものスーパーにあのキッチンソープは戻ってこなかった。ちょっと立ち寄ったドラッグストアで見つけたときはうれしくて「やっとみつけた!」と再会を喜んだ。買占めは自重しなくてはいけないが、またいつ会えるかと三つもかごに入れたことを白状しなくてはいけない。
 
私には、なかなか決められなくて悩んでしまう行動パターンと同時に、アーモンドチョコレートの例もあるように気に入るとそればかり、というところもある。
靴はこのメーカーなら合う、と同じメーカーのものばかり履いている。洗濯用の石鹸もある時から同じものを使っているし、化粧品も時々ほかのものに目移りすることもあるが、最近はこれを使い続けたいと思うものができた。
 
いつも同じものを選んでしまうことはマイナスではなかったのだ。日頃使うもののお気に入りを見つけて、それを使い続けることは時間の節約にもなるし、買い物のストレスが軽減される。私がインスタントラーメンの前で見比べている時に、後からきてさっと商品を選んでいく人がいる。いつものラーメンが決まっているんだな。私も時には悩んでいる人の横で、さっと選べる時はちょっと気分が良い。
 
生活をシンプルにしていくこと。あれこれ考えすぎずに、ルールにのっとってスムーズに進めていけることを少しずつ増やしていきたいものだ。無駄を省いて浮いた時間やエネルギーを本を読んだり、散歩をしたり、楽しいことに使っていけるではないか。
 
 
 
 
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2021-03-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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