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なぜなぜ禁止法


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青山二郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「青山君、この収益予想の根拠はなに? エビデンスはあるの?」
(はぁ、エビデンス……?)
 
私は心の中で大きなため息を吐きながら、表情には出さずに、
「昨年末に企画課が新規で始めた自治体向けの有料情報コンテンツが思ったよりも好調で対前年比で、ここの部分は真水で〇千万円上乗せできますから……」などと、一応、根拠らしく聞こえる説明をしてみる。
 
そして一人になったときに、
「会社としてもまったく未経験の新規事業なんだから、そもそもエビデンス(=根拠)なんかないよ」と、ぼそりと独り言を言う。
 
このエビデンスという言葉、とくに根拠もない治療法で患者さんをあぶない目に合わせるわけにはいかない医療業界で重用され始めて、ビジネス業界でも頻繁に使われるようになったらしい。
 
昨年も、コロナ禍で政府が打ち出した施策に、野党議員が「その対応策にエビデンスはあるんですか?」と質問して物議をかもした。
もちろん、人の命がかかわる問題への対応策に「科学的根拠(エビデンス)がない」のにコストをかけて実施することもリスク。一方、「エビデンスが不十分な対応策は実施できない」として、死者数が増えているのに手をこまねく事態もリスク。つまり両方ともリスクなのだ。
結果、当時は、「手をこまねくくらいなら、多少エビデンスが希薄でも手を打つべきだ』に議論の趨勢は傾いた。
 
そこまでのシビアさは求められなくても、私たちも普段の生活のなかで「エビデンス」という言葉を求められる機会が増えた。冒頭の上司と私の会話に代表されるように会社ではエビデンスはもとより、「理由=なぜ?」が求められる。
 
代表的な例としては、世界のトップカーメーカーであるトヨタでは、トラブルが起きたときに、社員が「なぜ?」を5回繰り返すということが通説になっている。
トヨタ社内で常識の「なぜなぜ分析」と言う言葉がWikipedia化までしているくらいだ。要は、トラブルの原因を、最初の1次的な原因(なぜ起きた?)だけに求めず、その1次的な原因の原因(=2次的ななぜ?)、そのさらに原因(=3次的ななぜ?)と、「なぜ?」を5回繰り返すことで、真因にまで到達すれば、同じトラブルが二度と起こらなくなるような対策を打てる、という考えらしい。
 
エビデンスにしろ、理由にしろ、その明確さが求められる背景には、「間違いを犯したくない」「失敗したくない」という思いがある。
 
もちろん、それは大事なことだ。
メーカーとして、お客様に提供する商品に間違いがあってはならないし、治療法に間違いがあれば患者は治らない。
 
ただ、正直に言うと、私は、会社でエビデンスと理由を求められることに、たまにうんざりする。
 
そして、その反動なのだろう。
私は、子どもたちがまだ皆小学生だったころに、家族に対して「我が家では今後『なんで?』という質問は禁止にします!」と宣言した。
 
「パパに『なんで?』と質問する前に、辞書を引きましょう。パパは辞書ではありませんから、すべての質問に答えられません。でも、辞書にはなんでも書いています」と補足した。
 
さっそく妻が私に「なんで?」と聞いた。私は「なんでも」と答えた。
 
私は、3人の子どもたちよりも、妻がもっとも「なんで魔」であることを知っていた。だから、子どもたちだけを対象にせず、「我が家のルール」とした。
 
たとえば、私の両親が田舎から上京して、私の妹(旦那と家族あり&同じく東京在住)の家に2泊ほど滞在するという話を、たまたま妹から聞いた妻が私に「お義父さんたちに会いにいかなくていいの?」と聞く。私は、「いや、いいでしょ。こっちも忙しいし」というと、妻は大体「なんで?」と聞く。
 
たとえば、会社の有休がたまっている、などという話を私がすると、「じゃあ、たまには実家に帰ったら?」と妻が言う。こちらとしては、時間ができたからといって貴重な有休を使って田舎に帰る気はしないので「いや、今回、実家はいいでしょ」と答える。妻はすかさず「なんで?」と聞く。
 
そして、妻の「なんで?」に、私はたいてい「なんでも」と答える。
 
私も年に何度か、両親はどうしているかなあ? 両親に久しぶりに会っておこうかな? と思うことはある。でも、そのように思うタイミングと、妻から「会えば?」と提案されるタイミングが一致することは少ない。だから、さしたる理由もなく、私は妻の提案を断る。でも、妻は理由を聞きたがる。
 
「なんで? っていわれても、特に理由はないよ。今は別に会いたいと思わないし、疲れてるから、両親と会うより家でぼーっとしていたい」
 
「え? なんで、田舎から両親がはるばる東京に来ているのに会わないの? もったいないじゃん」と妻。
「もったいないから会うっていうのも、あまり理由にならないよね。会いたいとき、会いたくないときってあるんじゃないの?」と私。
 
そして、私が「大体、親父たちは、妹一家に会いに来ているんだし、時間も2日と限られているしさ。短い時間で、俺の家族にも妹の家族にも会って、彼らも疲れるんじゃない? たかしさん(仮名、妹の夫)も気を使って……」と説明をし始めると、妻は私の話をさえぎって、
「A太郎! さっきからスマホばっかり、もう2時間だよ!」などと、全く別の話をし始める。
 
私も、所詮そんなものだろう、とわきまえている。
妻も、一応「なんで?」とはいうものの、私が両親に今は別に会いたいと思わない理由になど、それほど興味はないのだ。結婚以来、こういうやり取りが数千回は繰り返されている。
 
それでいいのだ、と思うし、妻には感謝している。
 
会社で、取引先で、プレゼン先で、「エビデンスは?」「根拠は?」「理由は?」と聞かれ続ける毎日のなかで、人には、理由もエビデンスも考えなくてよい世界が必要なのだと思う。
 
なにも考えずに、「なんでも」や「いや、まあ、なんとなく」だけで通ってしまうゆるい世界があるからこそ、それらを明確に求められる逆の世界でも生きていけるのでないか。どんな人にもオンとオフは必要だ。だから、もし、「最近、なんか仕事がしんどいなあ」と思うようなことがあったら、「エビデンスと理由ばかり求められていないか?」と思い返してほしい。
そして、そんなものが求められない、心地よい世界を自ら見出して(つくりだして)みてほしい。ストレスのたまりがちなコロナ禍の生活も少しはましになるかもしれない。
 
 
 
 
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2021-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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