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もう二度としないと決めたこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:浅倉史歩(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「これから多くの人たちに出会って仲良しのお友達もできると思うけれど、どんなに親しくなってもお金の貸し借りだけは絶対にしてはいけないよ」
 
進学で親元を離れるとき、両親から何度も言われた言葉である。
 
学生時代の友人Aから「お金を貸してほしい」と依頼があったのは20代後半のこと。
大学を卒業し社会人になって数年がたっていた。
 
結論を言うと、私はAにお金を貸した。
50万円。
初めの3ヶ月は返金があった。
しかしその後は返金も連絡も途絶え、時は流れて令和3年春4月。
今、Aはどこに住んでいるのだろう。何をしているのだろう。
 
と、つまりまぁ、そういうことである(笑)
 
もっともいい歳になった今、Aを恨んでもいないし根に持ってもいない。
失ったものも大きかったけれど、葛藤もあったけれど、しっかり学習もした。
私の判断がまずかった部分認めているし、もうとっくに吹っ切れている。
 
だからこれは、私の回想録として読んでいただけたらありがたい。
 
Aに50万円を貸したのは理由があった。
いつかAには恩返しする、という私なりの大義である。
というのは大学時代、Aだけではなくそのご家族にも散々お世話になっていたからだ。
 
大学に入学したものの、私には友達ができなかった。
孤独な大学生活の中で、辞めて実家に帰りたいと思うようになっていた。
 
そんなとき、音楽サークルでAと知り合い、大好きな音楽の話で盛り上がって仲良くなった。
学内を共に過ごすだけでなく、彼女の実家に何度も泊りに行くほどに。
 
Aのご両親が「困った時は頼ってね」と、発熱して寝込んだ私を寮から引き取って療養させてくださったことは今でも忘れていない。
 
ここに書ききれないほどのAとご両親の支えで、私はひきこもることもなく、中退することなく大学に通い、卒業式を迎えた。
感謝してもしきれない恩に対し、いつかはと心に誓った。
 
卒業後もAとの交流は続いていたが、20代半ば、Aは心を病んで仕事を辞めた。
しばらく病気療養というかたちで職には就かずにいたが、お金を貸してほしいと言われたのはそのころだ。
 
ふと、両親の言葉が頭をよぎった。
「どんなに親しくなっても、お金の貸し借りはしてはいけない」
 
だから一瞬悩んだ。
しかも「50万円」は私にとって大金である。
 
それでも、Aの力になりたかった。
ふさぎ込んでいる姿は、あのころの自分と重なった。
 
数日後、銀行の封筒に入れた現金50万円を渡した。Aを信じて。
「毎月少しずつ返す」というAに「うん」とだけ返事をし、返済条件は一切私からは触れなかった。借用書だなんて考えつきもしなかった。
 
それからのことは先に書いたとおりである。
 
ただ一度だけ手紙が来たことがある。
「口座番号が変わってますか」と書かれていた。
 
返す意志があったことが嬉しくてすぐに返信した。
「統廃合があって支店名が変わってた。連絡してなくてごめんね」とまで添えて。
しかし何日待っても、何ヶ月経っても、振り込まれなかった。
Aを信じられなくなっていった。
 
しばらくして友人Bから連絡があった。
「Aから結婚しましたはがきが届いたね」と。
 
えっ?
その瞬間、Aへの憎しみといら立ちが湧いた。
最初からそういうつもりだったの?
でも自分から督促するのも嫌だった。恥ずかしいことだと思った。意地もあった。
(今思うとその考えが間違いである)
同時にまだ「信じたい」という思いもあった。
 
一方で「信じた私が一番バカだった」と自分を責め続けた。
金銭に関係なく、「信じる」ということに必要以上に恐れと嫌悪を抱くようになった。
それが言動に現れていたのだろう(少し鬱っぽくなっていたのも事実)。
人を信じない私から、多くの人が離れていった。
 
何も知らない両親の顔を見るたび心が痛む。
巣立って行く未熟な我が子をこんな日から守るために伝えてくれたはずなのに。
両親を裏切ってしまったようで、これまた自分を責めた。
私の心はぐじゃぐじゃになってしまっていた。
 
そして決めた。
絶対に人と金銭の貸し借りはしない。
どんなに仲良しでも、お世話になった人でも、どんな理由があっても。
 
時が経ち、いつしか返済がないことも気にならなくなっていった。
「最初からAにあげるつもりで渡していたらよかったのかも」と思える余裕も出てきた。
両親にもすべてを話し、「人生の高い授業料だった」と笑いあうまでになった。
 
さらに何年か過ぎて、Bから連絡があった。
「Aにお金貸してるの?」と。
なんで知ってるの?
そのことは誰にも話していないのに。
 
話を聞くと、AがBに
「今更連絡とりにくい。○○ちゃんから何も聞いてない?怒ってないかな?」と連絡してきたらしい。
 
「『私に探りいれてくるようなことせずに今すぐ○○ちゃんに連絡しろ!全額返せ!』と怒っといたから」と言うのが何ともBらしいのだが、その瞬間すべてがふっきれた。
長年のどに刺さっていた小骨が取れたような、そんな気持ち。
 
Aも忘れていたわけでも、悪意があったわけでもなかったんだ。
きっとAにもそれなりの事情があって、彼女ものどに小骨がささったまま、何年も過ごしてきたんだろうな……
そして、彼女とご両親への感謝の気持ちが失われたわけでもないことにも気付いた。
 
Bにこれまでのいきさつを話し、
「『住所も電話番号も口座番号も変わっていない。そして私は怒ってもいない』って伝えて」
そういって電話を切った。
 
その後の判断はAにゆだねて今に至る。
 
そんな私が今、自分への戒めとしてもう一度ここに記す。
「どんなに親しくなっても、お金の貸し借りはしてはいけない」
 
 
 
 
***
 
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2021-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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