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ぺらぺらの教訓


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田みのり(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
その日の朝もいつも通りに起きた。
天気もよく、愛犬の散歩に行こうと準備をしていた。
犬は私が起きても布団にもぐりこんでいて起きて来ない。
飼い主より先に起きて起こしてくれる、なんてことはない。
猫も定位置で気持ち良さそうに寝ていた。
いつも通りの朝だった。
 
顔を洗い、トイレへ行った。
パジャマのズボンとパンツを下ろし、便器に座ろうとした瞬間。
「えっ!」
ドーンと便器に勢いよく座ってしまった。
何がなんだかわからないが、とにかく右の腰の辺りに激痛が走っている。
痛いだけではなく、とにかく動けない。
腕を上げようとしても、座り直そうとしても、とにかく痛い。
これは、世にいうぎっくり腰というやつだろうか……。
「痛いよう、どうしよう、うわー……」
と一人で喋り続けていた。
気持ちは焦るが、トイレからいっこうに動けない。
でもその一方で、トイレに座ったときでよかったな、トイレに行く前だったら用を足せずにもっと困っていただろうな、などと冷静に考えてもいた。
 
どれくらいそのまま座っていただろうか。
いやいや、このまま便器にずっと座っているわけにはいかない。
まずは、トイレを出るためにトイレットペーパーを手に取りたい。
しかし、すぐそこのペーパーホルダーまで手が伸ばせない。
なんとかペーパーを取り、拭いて、立ち上がったものの、今度はパンツを上げられない。
そこで動きが止まってしまい、下半身丸出しで立ち尽くし、壁に掴まっていた。
犬がさすがに飼い主がどこかへ行ってしまったと思ったのか、起きて来てトイレのドアを外側からカリカリしていた。
まぁ、ひとりだし、いいか。
お尻が半分出ているような状態でトイレを出た。
 
一歩がとにかくたいへんだった。
よたよたとリビングへ戻って時計を見ると、トイレに30分ほどいたようだ。
30分で動けるようになったのであれば、それほどひどいぎっくり腰ではないだろう。
 
私は2年前まで10年間特養の介護士をしていた。
介護士は腰を痛めている人が多く、同僚がぎっくり腰になってしまい、動けずトイレも行けず大人用のオムツを使った、という話しも聞いたことがある。
10年間介護士をしていたときでも腰痛になったことなんてなかった。
ハードな夜勤明けはさすがに腰が痛いなぁとは思ったが、すぐに回復していた。
それなのに、それなのに、今介護業務をしているわけでもないのに、重いものを持ったわけでもないのに、腰がとにかく痛い。
座ることもできず、立っていても辛く、この先どうすればいいのだろう……。
 
会社に休みの連絡を入れた。
幸い会議や外回りもない日で、今日は休んでもなんとかなる。
でも、明日は行かないわけにはいかない。明日は重要な案件がある。
 
会社へ行かず、かと言って何ができるわけでもなく、痛みと戦っていた。
犬は散歩に連れて行ってくれないのね、とトイレでおしっこをした。
猫はごはんを催促してくる。
そうだ、とにかくこのコたちにごはんをあげて、トイレをきれいにしてあげないと……。
いつもはごはんの用意もトイレの掃除も数分とかからずできることを、10分以上かけてやった。
 
ああ、どうしよう、どうしよう、健康ってありがたい……。
自分自身はともかく、このコたちに迷惑をかけるわけにはいかない……。
 
昼頃には痛みはあるものの、だいぶ動けるようになった。
整形外科の午後の診察で見てもらうことにした。
 
整形外科は歩いて20分弱、自転車だったら10分もかからないのだが、とても徒歩も自転車も無理だと思い、遠回りだが電車を使った。
歩幅がいつもの半分以下でしか歩けない。
情けない思いでのろのろと歩いてなんとかたどり着いた。
 
診察室に呼ばれ、問診を受け、体を見てもらい、レントゲンを撮ってもらった。
先生はレントゲン画像の骨や筋肉をペンでピシピシしながら、
「腰の骨がずいぶんそっちゃってるねぇ。腹筋もね、全然ないの、ぺらぺら。筋肉がね、ここ、ここの骨を覆うくらい普通はあるの。でもね、吉田さんの筋肉は全然骨を覆うほどないんだよ。そりゃあね、腰も痛くなるよ」
腹筋があまりにもないために、腰を支えられず腰痛になっていると。
コルセットと湿布をして、痛み止めを飲んで様子を見るように、5日後にまた見せにくるように言われた。
 
腹筋がぺらぺら。
目がテン……。
介護業務をしていたときだってなんともなかったのに、犬の散歩で毎日1時間は歩いているのに、職場が駅から距離があり通勤でも結構歩いているのに。
しかし、それ以外は運動という運動はしていなかったし、最近はストレッチもしていなかった。
年齢を重ね、運動をしないと衰えていくばかりなんだ。
今回の腰痛を経験してやっとわかった。
 
次の日は無事出勤でき、痛みはあるものの普通に生活できた。
1週間ほどですっかり良くなり、理学療法士から運動指導を受けた。
正しい姿勢や、ストレッチ、簡単で地味な体操を教わり、これを毎日やるように言われた。
運動の習慣がまったくないんですね、と言われ、毎日犬の散歩はしていますと返答したら、失笑された。
犬の散歩は運動には入らないらしい。
 
今は毎日がんばって教わった体操をお風呂上がりや寝る前にやっている。
そして正しい姿勢も意識するようになった。
しかし、その正しい姿勢というのが難しい。
お腹に力を入れて引き上げ、骨盤を立てようと意識し、そうしたらお腹を突き出してしまい、いやいやとまたお腹に力を入れて、あれ、猫背になっていると背筋を伸ばし……と、通勤中のホームや電車の中でお腹やお尻をさわりながら怪しい動きをしている。
ぐっ、ひょこひょこ、もぞもぞ、すっ、あれ、ぐっ……。
 
いつか正しい姿勢が身に付き、腹筋も「ぺらぺら」から卒業し、とにかく腰痛にはもう二度となりたくない。
軽く済んだ腰痛からの教訓として、正しい姿勢を目指し、ストレッチと体操をがんばっていこうと思う。
 
かつての私のように、運動習慣はないけれど体に根拠のない自信を持っている方、また犬を飼っていて犬の散歩が十分な運動になっていると信じている方、お気をつけくださいませ。
 
 
 
 
***

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2021-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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