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夢の話

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:武田初実(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
私には将来の夢がある。
28歳で「将来の夢」だなんて笑われるかもしれない。だって世間では「夢」を見るのが許されるのは子ども時代だけで、大人になって長年の夢を叶えた後は、がむしゃらに働いて社会に貢献しなければならないと考えられているから。だから、テレビや雑誌でも小さな子どもの「将来の夢」を調べることはあっても、大人の「夢」なんて誰も尋ねないでしょう? 大人が夢を語るのはフィクションの世界だけで、現実でそんなことをした日には「いい歳して」と煙たがられるか、お酒の席で馬鹿にされるのが関の山だと私もずっと信じてきた。
 
それでも今、私には将来の夢がある。私と同じように数々の夢を諦め続けてきた大人たちに、子どもの頃に抱いた夢を何一つ叶えられなかった私が、おそらく最後にして最小の夢を持てるようになった話を伝えたいと思う。
 
思えば私は幼いころから「夢」の多い子どもだった。最初に抱いた夢は「お花屋さん」だったと思う。花が大好きで、いつも庭に四季折々の花を咲かせていた祖母の影響を受けていた。
その次は「小説家」で、
さらにその次は「弁護士」。
私の「夢」はその時々の成長段階によって、身近にいた大人や読んでいた小説、楽しみにしていたテレビドラマの影響を受けながら、コロコロと移り変わった。
 
そんな私が「教師」という職業に出会ったのは高校3年生の時である。
ある日のホームルームで、
「今から進路調査を行います」という担任の先生の声とともに配られたのは、テレビや漫画なんかでよく見る、第一志望から第三志望まで記入欄が設けられた小さな紙で、それまで漠然としか自分の将来について考えてこなかった私はテレビドラマや漫画の主人公と同じように頭を抱えた。
世の中に数多く存在し、大学によっても異なる学部の中から自分に合った一つを探すのは至難の業のように思われた。そして結局、迷った末に自分にもできそうな学問の中から一番大人ウケがよさそうな「教育学部」を選んだ。消去法ではあったが、選んだ瞬間からなぜだか分からないが、まるで自分がずっと前から一途に「教師」だけを目指してきたかのように錯覚していた。
第一志望だった国立大学には残念ながら不合格だったが、滑り止めで受けた私立大学に合格した時にはそれなりに達成感もあった。
そうして無事大学生になった私が最も衝撃を受けたのは、同じく教育学部に所属していた友人たちの多くが、「教育」に関係のある出自を持っていたことだ。私の周りにいた人たちはみんな両親のどちらかが教師だった。中には親だけでなく祖父母や兄弟までみんな教師をやっている「教育エリート」も存在して、両親どころか親戚の誰も教育関係の仕事に携わっていない私は引け目を感じることもあったが、彼らは例外なく親切で、誠実で、決して私を仲間外れにすることはなかった。彼らのおかげで私も「みんなと同じで教師を目指していいんだ!」と自信を持って言うことができた。
大学生としての私の毎日は、大学の授業に学習塾でのアルバイト、学校や児童養護施設でのボランティアと、まさに「教育漬け」の日々で、忙しくはあったが確かな手ごたえのようなものもあった。
何より、教えることが好きだと心から感じることができた。
難問にぶつかり、悩みながらも懸命に答えを出そうとする子どもの姿。悩んで悩んでようやくその問題が解けた時の目の輝き。私の話を聞いている間の真剣な顔つき。それらすべてが私を「教師」という仕事に惹きつけた。
そんな日々を過ごしているうちに、私は自分が近い将来、教師として多くの子どもたちを教える人間になると信じて疑わなくなった。
 
最初に「あれ、おかしいな」と感じたのは教育実習の時だった。母校の中学で実習を行った私は周りの実習生が1、2年生を担当する中、一人だけ3年生のクラスを割り当てられた。そのクラスはお世辞にもお行儀の良い生徒が集まっているとは言えず、授業中に立ち歩く子を注意したり、「先生、今日のパンンツの色は?」などと授業とは全く関係のない野次を飛ばされることもしばしばだった。それでも、慣れてしまえば生徒たちはやはり可愛く、徐々に私に対して心を開いてくれる様子に日々手応えを感じることもできた。
ただ、どうしても慣れることができなかったのは実習中のハードな生活の方だった。朝は6時に登校し、先生方が集まる前に校内を掃除して回り、日中は授業や見学で休む暇もなく動き回る。放課後になれば担当していた水泳部で生徒と一緒にヘトヘトになるまで泳ぎ、それらが全て終わった後でようやく次の日の準備を始め、夜11時頃まで学校に残って指導案を練る。単純に要領が悪かっただけかもしれないし、八方美人でみんなに対していい顔をした結果こうなったのかもしれないけれど、当時は一人でも多くの人に「教師になれるよ」と認めてもらいたくて必死だった。
そんな生活が一週間、二週間と続き、三週間目が始まろうとする月曜日の朝、私の中の何かが切れた。学校へ向かおうとするがどうしても足が動かないのだ。それまで自分の心と身体の声に蓋をしてがむしゃらに動き続けてきたが、私の精神も身体ももうとっくに限界を迎えていた。
それからの記憶は曖昧にしか残っていないが、何とか実習は最後までやり遂げることができた。
しかし、実習が終わった後も私の中には「向いていないのではないか」という思いが強く残った。たった三週間でこんなに心も身体もボロボロになるまで蝕まれてしまうなんて。私はそんな思いをしてまで教師になりたいと願っていたのだろうか、と自問自答する日々が続いた。
そして、その年の教員採用試験で一つ目の質問から頭が真っ白になり、答えに詰まった私は、あっけなく「教師」になる夢を諦めた。
けれども今、私はまた教育の仕事に携わっている。高校生の時に思い描いた「教師」ではないが、東京の片隅にある進学塾で子どもたちと悩んだり、迷ったりしながら毎日を過ごしている。今の職場には教育実習の時に味わった目の回るような忙しさも、それを乗り越えた時に得られる突き抜けるような充実感もないけれど、子どもに勉強を教える喜びは確かにある。このささやかな喜びを一生涯味わっていきたい、というのが今の私の夢だ。
 
大人になってからの夢は、それまで叶えられなかった数々の夢の残骸だと私は思う。それはそれまでの自分の肯定する材料にはなり得ないかもしれないが、挫折を明るく笑い飛ばし、後ろ向きになりがちな自分に少しでも前を向かせる起爆剤にはなり得るものだ。
 
 
 
 
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2021-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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