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ガンになった友人が教えてくれたこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:寺島 まきこ (ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「娘です。今LINE気づきました、すみません! 母は10月6日に亡くなりました」
 
まだ36歳。4人の子を持つ母でもある同級生がガンで亡くなった。
 
彼女との出会いは高校1年生の4月。
エスカレーター式の女子校で、中学から入学していたお嬢様育ちの彼女と、高校から入学した庶民の私は同じクラスになった。
 
彼女はお嬢様育ちなのにも関わらず、庶民の高校入学組とも気さくに話をする、誰とでも仲良くなれる性格だった。
 
授業中に机の下でトランプをして楽しんだり、漫画の回し読みや手紙交換など小さな不良行為も一緒にした。
 
ある冬の晴れた日に仲良し5人組で、太陽の光が反射する雪の上で写真を撮った。顔を押し付けて顔の型取りをしたのだ。子どものように無邪気に遊んだ、たくさんの思い出は今でも鮮明に覚えている。
 
大学に入ってからは専攻が違い、タイミングが合いにくくなったが、お互いの恋の話をよく話していた。そんなある日、彼女は子どもを授かり結婚することになった。
 
それ以来、生活パターンが変わり、彼女が遠方に行ってしまったことで話をする事は減った。いつの間にか7年が経った。私も結婚したと報告したきっかけで、久しぶりにお茶をした。
その時に初めて、最初に授かった彼女の娘さんとも会えた。
 
彼女は約4年おきに子どもを1人ずつ授かっていて、私が子どもを授かった時にはすでに3人のママだった。
何でも知っている彼女は、育児の先生にもなってくれた。
 
彼女の4人目の赤ちゃんがまだ1歳の時、いつもとは違い学校のある時間帯に遊ぶ約束をした。
それなのに子どもを全員連れて彼女はきた。
違和感を感じながらもそこには触れず、みんなでランチをし、いつもと同じように親同士は話をし始めた。
 
子供達が少し離れたところで遊んでいると
「実はね、話したいことがあるんだ」少し低い声でゆっくり言った。
 
「どうしたの? 何かあった?」私の問いかけに
彼女は一呼吸置いた後、わかりやすい作り笑いをした。
そして
「がんになっちゃった。乳がんだって。リンパにも転移しちゃった!」
 
彼女は一生懸命笑っているのに、突然の告白に私は何も言えず、文字通り頭が真っ白になった。
 
そして間を置いてやっと出た言葉が
「大丈夫だよ! 最近は治る人も多いみたいじゃない! きっと大丈夫だよ」
私はこの言葉を誰に向けて言ったのだろう。
もしかしたら私自身に言ったのかもしれない。かなり動揺していた。
 
その日の帰り道、大事な友人を失いたくない!
その思いだけが頭にあり、子どもの声さえもほとんど聞こえなかった。
 
その後も時間を見つけては「どうしたらガンが治るのか」そんな検索ばかりしていた。
食事療法、温熱療法、さまざまな方法があることを知った。そして回復した情報もたくさん見つけた。
 
「もしよかったら見てね!」
とそれらの情報を彼女に送ることもあった。
 
彼女からの返信からは、放射線治療が始まって体調が不安定なこと、髪が抜け始めたこと、食欲が落ちてきたこと、咳がひどくて横になって眠れないことなど、どんどん悪化している様子が伝わってきた。
 
照り返しの暑さが徐々に厳しくなってきた夏のある日、彼女の家の近くまで高校の友人と一緒に行くことになった。もちろん彼女に会うためだ。
 
彼女は酸素ボンベを引いて、おしゃれな白い服を着て、汗をかきながらとぼとぼゆっくり歩いてきた。
「ごめんね、遅れて。遅れちゃったけど、すごく楽しみにして来たんだ!」息があがりながらも、彼女は言った。
彼女の呼吸が落ち着くまで待った後、私たちは彼女の体調の変化に気づかないふりをして、日常の会話をした。
 
手抜きの料理のこと、子どもの遊び場の話、高校の懐かしい話など、まるで高校に戻ったようなあっという間の時間だった。
 
帰り際に彼女は明るく、思い出したように
「あのね、腎臓にも転移しちゃったんだ」
暗い笑顔で言った。
 
その言葉にもうだめかもしれないと頭によぎった。
 
以前、薬剤師をしていた母の友人から
「肝腎という言葉があるでしょ? 肝臓と腎臓がだめになったら人はもう終わりなのよ」と聞いたことがあったからだ。
 
それ以後、悪い予感がしながらも時々彼女に連絡をしていた。
「元気? 体調大丈夫?」と。
 
そしてある日を境にラインが既読にならなくなった。
もういないのかもしれない。
でも、もしかしたら忙しいだけかもしれない。いや、忙しいだけに決まってる!
そう思いたかった。
 
10ヶ月後、娘さんから返信が届いた。
 
「母は亡くなりました」の文面に
なんとも言えない気の抜けたような感覚だった。頭ではわかっていた気がする。多分ずっと。でも心がついていけなかった。
 
彼女は突然ガンになり、身体中に転移して、痛みに耐えながら1年程でなくなった。
当たり前の時間は突然終わる。何歳であっても命が残り何年もあるとは限らない。
そんな当たり前を目の当たりにした。
 
私は、まだまだ元気だ。
しかし後何日、何時間、命が残っているかはわからない。
 
コロナで不自由や新しいストレスのある毎日ではある。
しかし、生きているだけでもありがたい。コロナだからこの一年でオンラインの使い方にも慣れた。コロナだけど、できることもたくさんあるだろう。
 
残りの命ある時間を少しでも楽しくいられる工夫を考え、最後の瞬間に
「楽しかった!」
と言える人生を目指して作っていきたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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