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去り際の美しい人

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あおい 真雪(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
世の中には、見事なまでに去り際が美しい人がいる。
それはもう鮮やかで圧巻だ。 “美”としか言いようがない。
 
例えば、職場の飲み会で「さあ、これから二次会だ!」っていう時に、
「じゃあ、私はここで失礼します。お疲れ様さまです!」と言って、後ろも振り返らずに帰る人がいる。引き際がうまいというか、きれいさっぱり帰ってゆく。
そういう人はさよならの挨拶をした後にはもう次のことを考えているのだ。
自分の趣味のことだったり、翌日の予定のことだったり。
皆と別れた後は、他のことに頭をシフトさせているのだ。次に起こることや自分の趣味の世界などに。それは、「ワープしている」と言っても過言ではないかもしれない。
 
私はそういう人が羨ましい。
私はそういう時、帰りたくても帰れない。
皆より先に帰ったら、「私が帰った後に何か面白いことが起こるんじゃないか」とか、「今後の職場の人間関係に支障をきたすのではないか」とか考えてしまったりする。そして、あまり気の進まない二次会三次会にまで顔を出す羽目になる。翌日は二日酔いで起きたい時間に起きられず、一日中頭が痛かったりして、勿体ない一日を過ごすことになる。
そして、「あー、行かなきゃ良かった。」と飲み会に参加したこと自体を後悔したりする。
 
去り際の美しい人は、去り方が見事だ。
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるが、この言葉の意味は「立ち去る者は、見苦しくないようにきれいに始末をしていくべきという戒め」の意味と、「引き際は美しくあるべきだ」という意味がある。
 
会社の同僚で、「立つ鳥跡を濁さず」の言葉通りの人がいた。
その去り方は素晴らしく、清々しいくらいだった。
美に値すると思ったほどだ(ちなみに彼女は容姿も美しかった)
 
その人は女性で、とある夏の人事異動で私の課に異動してきた。彼女とは何年か前の研修で一緒の班になったことがあり、「顔を合わせれば会釈をする」程度の間柄であった。
うちの課は30人ほどで構成されており、いくつかの担当に分かれている。担当ごとに違う仕事をしているため、私と彼女の間に仕事上の接点はなかった。
異動してきて4ヶ月になろうとしていたが、彼女が課に溶け込んでいる感じはなかった。彼女は容姿も美しく、服装も髪の毛も指先のネイルも、いつも綺麗に整えられていた。また、彼女には係長という役職がついており、いわゆる出来る女であった。
仕事のやり方も独特で、今までのやり方を変えようとしている感じが見て取れた。
周りの皆にとっては何となく近づきがたい存在だった。
 
4ヶ月が過ぎたある日、彼女が会社を退職することを知らされた。
うちの会社では通常、退職が確定してから1~2ヶ月又は年度末までは出勤したりするのだが、彼女の場合は違った。退職を申し出てから1週間しか出勤しないというのだ。その後は有給休暇を消化するので、在籍期間は数か月先まであるのだが。
 
驚いた。勤続20年以上で、役職がついているその地位を捨てるなんて。
昔ながらの考え方の50代60代の男性が多いこの会社で、20年勤めあげて役職を貰うまでになるには、かなり大変だったと思う。そんな歴史を捨ててスパッと会社を辞めるのだ。
私には衝撃的だった。
私は彼女に興味を持ち、彼女の話が聞いてみたいと思った。彼女に声をかけ、翌日二人でお別れ会ならぬ食事会をすることになった。
 
彼女に会社を辞める理由を聞いた。
会社を辞めるのは、仕事が嫌なわけでも同僚が嫌なわけでもない、自分がやりたいことをやるためとのことだった。会社に属したままでやりたいことをやるのは制約があると感じたからだそうだ。
「私、人生を切り開くことにしたの!ここの会社には感謝しているけど、これからのことを考えると、今からとてもワクワクしているの!」
 
辞めると決めた瞬間、もう彼女は次のステップに進んでいた。ワープしていたのだ。
 
「人生を切り開く」すごい言葉だなと思った。
私は今の仕事は嫌いじゃない。仕事を覚えたての頃、どんどん新しいことができるようになり、成長する自分を感じて楽しくて仕方がなかった。その成長ぶりは周りに褒められたし認めてもらえていた。でも、今はもうワクワクしないのだ。後輩の指導に手を抜くわけでもないし、皆がより快適により効率的に仕事をすることができるよう、いろんなことを改善したりもしている。でも、何かがくすぶっていた。
私は最近、人生の方向転換をしたいと思い、悩んでいた。でも、もう40歳だし今から人生の方向転換をするのは無理だ、手遅れだと自分で諦めていた。
 
でも彼女は違った。
40代半ばにして新しい世界に飛び込むことを決めたのだ。
20年以上務めた超安定した会社を飛び出し、新しいことを始めようとしているのだ。
彼女はもう未来を見ている。
 
食事を終え、彼女を見送った。
後ろを振り返ることもなく、見事な去り方だった。
鮮やかだった。
彼女を見送った後、吹き抜ける秋の風がとても清々しかった。
 
 
 
 
***

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2021-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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