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コミュニケーション能力で人を選んでよかったんだろうか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:新野佳世(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
コミュニケーション能力、と聞くと複雑な気持ちがよぎるのは、
苦い経験があるから、だ。
社会でとても必要な能力、なのは分かる。
でも、私たちはあの面接で、コミュニケーション能力はあるけど
間違った人材を選定したのではないか、と時々小さな後悔が頭にちらつく。
 
私たちは、もう一人の方を選ぶべきではなかったか。
 
 
 
馬場くんに出会ったのは、国際交流事業参加者の面接を手伝った時だ。
それは、不器用で、目立たない男の子だった。
彼の作文は、忘れられないものだった。
「自分を変えたいんです」
 
それは若い世代が、海外で素晴らしい経験ができるプログラムだった。
馬場君は、その選考の面接に現れた。
 
馬場君は黒縁の眼鏡をかけ、ちょっとぽっちゃり、暗い色のTシャツを着て、
猫背でボソボソをしゃべる。
 
一言で言うと、もっさりとした、素朴な青年だった。
彼の志望動機の作文も、目立った実績を見ることができなかった。
「僕は今までに何も達成したことがなく、バイトも続かず、自信もありません」
 
器用な子ではないが、笑顔が優しい。
 
 
でも、最後の一文は、違うように感じた。
強さや、彼の思いが乗っていた。
原稿用紙に鉛筆で書かれた、まだ幼さが残る字だが、
私は確かに、彼の強い意思を感じていた。
 
「僕は、このプロジェクトで、自分を変えたいんです」
 
 
私は心が動いた。
口数も少なく、友達も少数に見える馬場くん。
器用そうには見えないけど、こんな子も必要ではないだろうか。
こんな思いを、汲んであげられないだろうか。
 
 
最終面接は、馬場くんと、もう一人の男子の一騎打ちになった。
柳瀬くんは、馬場君と正反対のタイプだ。
日本トップ大学の学生で、あかぬけていて、自信があった。
きっと友達も多く、彼女もいるし、いいバイトも紹介してもらい、いい仕事も
就けるだろう。
 
作文のデキも素晴らしい。
レポートも書き慣れているんだろう。
出題者の意図を読み、非常にソツがない。
大人は、これを書いたら満足するだろう、というポイントをついていた。
 
彼なら、テスト対策も、就活も、合コンも、見事にうまくやるだろう。
それはそれは、スマートな作文だった。
 
 
 
結局、馬場くんは選ばれず、スマートな柳瀬君が選ばれた。
確かに、当然のように見える。
私たちは、いい人を推薦する役割があるのだから。
そのための面接なのだから。
 
 
でも、私は、疑問を感じ始めていた。
この子を選んでよかったのだろうか。
スマートでソツがなく、器用に生きているように見える柳瀬君を
待合室で見かけた時、だった。
 
俳優の舞台裏を見るようだった。
大きなあくびをし、手足を投げ出し、当然のようにふんぞり返る柳瀬くん。
面接後にリラックスしたこともあるだろう。
でも、この事業を完全になめているのが伝わってきた。
 
少なくとも。
彼は本気でやりたかったことではなく、
なんとなくやってみたかったこと、であるように感じた。
 
少なくとも。
彼は、このチャンスに感謝などしていないように見えた。
当たり前、なのだから。
目の前に並べてあるたくさんの種類のお菓子を
ちょっとつまみ食いしただけ、のように。
 
彼のゲームの一つ、だったのかもしれない。
大人の意図汲むのは、彼には造作ないことなのだから。
彼のコミュニケーション能力を持ってしてなら、こんな面接
あっという間にクリアできる。
 
でも、私は、器用な学生が合格したことに、
この当然のような結果を疑いだした。
 
コミュニケーション能力、という言葉が使われ出してから、
みんなが好き勝手に解釈しているように感じる。
みんな何をもって、
「コミュニケーション能力」と言っているのだろう。
それは単に、大人の都合がいい子どもを選ぶ基準になっていないか。
 
 
帰り際の馬場君は、背中が小さく見えた。
馬場君に、これから何かチャンスはくるだろうか・
 
「僕は変わりたいんです」
この文章は光って見えた。
私には、力がこもっていることを感じ取れた。
 
柳瀬くんなら、他にもいいチャンスをつかめる。
彼なら、これからもまだまだ、あちらからチャンスはやってきて
すんなりといい会社に就職するだろう。
 
馬場くんにとっては、小説「蜘蛛の糸」のように、
やっと違う世界へ行くことができるパスポートだったかもしれない。
私たちは、ちゃんと彼のポテンシャルを見抜くことができただろうか。
思いを汲むことができただろうか。
 
彼が合格したら、彼が本当に変わったら、
みんなが大きな影響を受けたんじゃないだろうか。
少なくとも、私はそれを見たくなった。
 
 
短期間の結果を求めるなら、柳瀬君。
長期間の伸びしろに期待するなら、馬場君。
 
 
あの時、どうして、言わなかったんだろう。
「ここは馬場君を推してみませんか。
彼は、このプログラムで大化けするかもしれませんよ。
確かに時間がかかるかもしれません。
でも、人を育成するには、時間が必要なんですよ。
彼のこの文章を信じてみませんか」
 
 
私も、予定調和に組み込まれていて、反対意見を言うことを
やめてしまった。
後悔している。
当然のように、コミュニケーション能力という基準で、人を測っていた。
でも、それは単に、器用なソツのない学生を選んだだけ、ではないか。
 
馬場君はどうしているだろう。
彼は、自分を変えるチャンスは、掴んだだろうか。

 
 
***

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2018-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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