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メディアグランプリ

新しくできたと思った友達に、宗教の勧誘をされた件


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:植松真理子 (ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「あのう……。ちょっとお話いいですか?」
玄関の前を掃いていたら、遠慮がちに声をかけられた。
 
顔をあげると白髪の品の良いご婦人と、若い女の人が2人でたっていた。ご近所さんではない。聞くと、キリスト教系の新興宗教の信者の方だという。2人とも手に、聖書がわりにipadのようなでデバイスコンピュータを持っているのが今風だ。
 ご婦人は、「最近天災が続いているので何か困ったことはありませんか?」と聞いてきた。幸運なことに私も私の身近な人たちにも被害を受けている人はいない、と答えると「それはよかった。では、もしかして、今のように天災が続くのは天罰だと感じるような不安はありますか?」と重ねて聞いた。
ない、と答えると「そうなんです。神様は天罰など与えません」といって、聖書の一説を読み上げ、読み上げが終わると二人はちょっと明るい顔つきになって、
「最後まで聞いてくれてありがとう」
と言って帰っていった。
 
最後まで話を聞いてもらうことが少ないのだろうか、と思うとなんだか胸が痛んだ。それに私は、心穏やかに話を聞けていたわけではなかった。あの2人と、どのように接したらいいのかがわからず、ちょっと固まってしまっていたのだ。
 
そして以前、新しくできたと思った友達から宗教の勧誘をされた時のことを思い出した。
 
その友人Mさんとは、ホームヘルパーの資格講座で知り合った。今は資格の名前が変わって介護福祉士というらしいが、介護の知識や実技を学ぶ講座だ。Mさんとは同じ時期に受講をスタートし、介護実習で派遣された施設も一緒だった。
「あのやり方でよかったのだろうか」「もっとこうしたらどうだったのだろう」といった、講義や実習内容に関する話から、少しずつ個人的な話もするようになった。
「私がホームヘルパー講座を受けたのは、亡くした父への介護を後悔しているから」
そんな打ち明け話もした。Mさんは、「わかるよ。私もそう。肉親の介護を経験した人って後悔の気持ちをもっている人が多いらしいよ」と言ってくれた。誰にも話すことが出来なかった気持ちを受け入れてもらえたようで、涙がでる程うれしかったし、新しい友達ができたと思っていた。
 
だから講座は修了したが、Mさんとは「時々おしゃべりしましょう」とお茶の約束をして別れた。
そして待ち合わせをした喫茶店で、Mさんは自分が信仰している宗教に私を誘ってきた。
Mさんの入っている宗教は、何回かニュースで名前を聞いたことのある新興宗教だった。「メディアの報道の誤解もあると思うけど」といって、Mさんがこの宗教に出会ったことで、どんなに自分が救われたかを熱っぽく語った。そして私にとっても必要だと思う、と勧めてきた。
 
だがこの時の私は、ほとんど聞いていなかった。信仰宗教と聞いただけで気持ちが拒絶してしまっていたのだ。Mさんが私に親切だったのは、宗教の勧誘をするためだったのかもしれない、などとも考えた。
 
「初めから入信しなくてもいい。ハードルはあなたの心ひとつだと思います」
「最初の変化には痛みを伴うものですよ」
「因果応報ってあるんですよ。よい徳を積んでいかないと、あなたやあなたの親しい方が受ける報いを悪いものにしてしまいますよ」
Mさんの話はどんどん熱を帯びていって、私の気持ちはどんどん冷えていった。そして、
「あなたのお父様が苦しんで亡くなられたのも、そのせいかもしれないじゃないですか」
Mさんのこの言葉にはカッとなってしまった。
 
「父が苦しんだのは、私や母が悪いというんですか! そういってくる父方の親せきもいました。そのことで私も母も、とても傷つきました。Mさんもそんなこと言うんですか!」
「そんなつもりじゃなかった。ごめんなさい。因果応報ということの説明をしたかっただけで……」
 
 Mさんは謝ってくれたが私は許さず、このまま喫茶店で別れてから、Mさんとは会っていない。
 
実はあの時の私の怒りは、最初は本物だったが、後半は演技だった。
このまま私が怒っていれば新興宗教との縁が切れる、つきまとわれても困るから、Mさんともこのまま縁をきったほうがいいだろう。そんな計算をした自分がいた。
でも、あの時のMさんの顔を今でもこうして思い出してしまう。Mさんは傷ついた顔をしていた。Mさんの言葉もひどいと思ったが、私もひどい。もっと別のやり方があったはず、これが今でも気にかかっているのだ。
 
 それに、信仰宗教のすべてがいかがわしいものというわけでもないだろうし、Mさんは本心で私を心配してくれていたのかもしれない。でも、こうも思う。そもそも私もMさんも、お互いとの距離の取り方が下手だったのだ。
ヤマアラシは、冬山でお互いの体温で体を温め合おうとして近づきすぎると、お互いの体の針が相手に刺さってしまう。でも離れると寒くなる。ヤマアラシのジレンマといって、人間関係にも適切な距離感が必要だというたとえ話だ。だから何度も試してお互いに適切な距離を探るのだ、という。私はMさんとの間で、それをせず、1回の衝突で関係を断ち切ってしまった。だから今でも解決しない気持ちを抱えているのかもしれない。
Mさん、ごめんなさい。Mさんの勧める宗教には結局入らなかったと思うけど、あなたを傷つけたくはなかった。もっとゆとりをもった対応ができる人間になりたい。今となっては私がそうなることで償うしかない。そう考えて、深く深呼吸をした。

 
 
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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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