fbpx
メディアグランプリ

無理をやめたら、大きく息を吸っていこう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
ハ~ッ
私は水の中を覗き込んで、心の中で大きな溜息をついた。
海の底でユラユラ揺れながら、私が降りてくるのを待っている人たち。
もう、これ以上待たせる訳にはいかない……
覚悟を決めて、少しずつ海の中へ潜っていく。
 
頭まで海の中に入ると、息が苦しくなってきた。
大丈夫。ちゃんとボンベから酸素は送られて来ている。
自分に言い聞かせながら、また少しロープをつたって下に降りる。
ウッ。耳が痛い。
鼻をつまんで、神経質なくらい耳抜きをする。
 
心臓がバクバク音を立てているのがわかる。
緊張で吐きそうになってくる。
水の中の音の世界に包まれる。
コワイ……
恐怖で水面に上がってしまいそうになる自分を、必死で我慢する。
 
もう少し。
もう少し我慢して、とりあえず何とか皆のいるところまで行かなくては。
自分に言い聞かせて、やっと海の底まで辿り着いた。
あ~、どうしてこんなことになってしまったのだろう……
海の中を泳ぎだした皆の後を追いながら、頭の中は後悔の気持ちでいっぱいだった。
 
残業続きの毎日に疲れていたある日、1枚のチラシを見てしまったのだ。
「日常から解き放たれて、魚たちと一緒に海の中の別世界で癒されましょう」
真っ青な海を、魚と一緒に気持ちよさそうに泳ぐ写真。
その瞬間、私の頭の中には魚と一緒に泳ぐ自分の姿が浮かんでしまった。
「泳げない人でも大丈夫」の一言が、自分がカナヅチだという現実も、全然大したことのないように思わせてしまった。
 
最初の後悔は、プールの実技試験でやってきた。
レギュレーターをくわえていれば、水の中でも息はできる。フィンを付けているので、泳げなくても水の中では進むことができる。
そう、確かに泳げない人でもスキューバダイビングをすることができる。
でも、私の場合はそういうことでは無かった。
水に恐怖を感じるのだ。
深いプールを潜って行くにつれて、心臓がバクバクいいだして呼吸が苦しくなる。
マスクに水が入って来る。無我夢中で、習ったばかりのマスククリアをする。
何が何だかわからない。ほぼ、パニック状態だ。
極度の緊張と恐怖の中、プールでの試験を終えた。
今、思い出しても呼吸が荒くなって胸が苦しくなる。
 
もう、無理だ。ここで辞めよう。
そう思いながらも、せっかく申し込んだライセンスの取得を諦められずに、日本海での現地実習に来てしまった。
 
必死で潜った、海の底での実技練習。
「大丈夫。ここは海の中ではない」
自分に暗示をかける。
ゴボッ。マスクに水が入ってくる。暗示はすぐに解けてしまう。
パニックになって水面に上がろうとする私を、先生が押さえつける。
頭の中には「急に浮上すると、肺が膨張して危険」の文字が浮かんでいる。
コワイ! ツライ! 早く終わって~!
水面に出ると急いでレギュレーターを外して、思いっきり息を吸った。
「呼吸ができる! 空気が吸える! あ~、幸せ!」
 
まさに、死ぬ思いで取得したダイビングライセンスのCカード。
Cカード取得での経験は「私にはスキューバダイビングは無理」という事実を教えてくれた。
 
その後も何度か「無理」を確かめるために、勇気を振り絞って試練に挑戦してみた。
日本海、そして屋久島でのダイビング。
 
二回とも覚えているのは「早く終われ」と思っていたこと。
そして「大丈夫、ここは水の中では無い」と、自分に言い聞かせていたこと。
もちろん、魚も景色も一切興味を持てなかったし、覚えていない。
覚えているのは、潜る時の恐怖と地上に戻って来た時の幸福感。
 
海に潜りながら、必死で「ここは海の中では無い」と自分に言い聞かせる。
これって、果たして潜る意味はあるのだろうか?
 
私は、真っ青な海を魚と一緒に気持ちよく泳ぐ人にはなれなかった。
海に潜る楽しさを感じる人にはなれなかった。
でも、別にそれでもいいや。
だって、海に潜っても、全然楽しくなかったから。
 
私には海の中は合っていない。
じゃあ、地上で楽しいことを見つけよう。
だって、普通に空気が吸えるだけで、こんなに幸せなんだから。
息ができる幸せがあれば、どんなことでも楽しく感じる。
あんなにツライと思っていた毎日も、海の中のツラサに比べれば、なんてことはないかもしれない。
 
魚と一緒に泳ぐことを楽しめなかった私は、地上で過ごす楽しさに気づくことができた。
そして、無理なことは、どんなに頑張っても無理なこと。
人には、頑張ってもどうにもならないことがあることに気づくことができた。
 
無理なことは無理。
よし、それなら無理じゃないことで頑張って行こう!
胸いっぱい、お腹いっぱい、身体いっぱい、大きく息を吸っていこう!
そしたら、きっとやりたいことがいっぱい見つかるはずだから。

 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《11/18までの早期特典あり!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事