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メディアグランプリ

非日常な日常を生きる助産師が初めて出産に立ち会うパパに伝えたいこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:原田沙織(ライティングゼミ日曜講座)
 
 
「ふぅ、ふぅ……」
目の前の女性が、深呼吸をする。
「うおおおー」
獣のように、ほえる。
 
今日初めて出会った人が、全力で自分の手を握ってくる。
恋人ですらこんなに情熱的に抱きしめることはないだろうというくらい、きつく抱きしめられる。
 
何も悪いことをしていないのに、八つ当たりのように怒られることもある。
逆に、涙目で懇願されることもある。
 
それが私の日常だ。
私の職業は助産師である。
ほとんどの人間が一生に、数えるほどしか経験することがないであろう出産に、毎日毎日向き合っている。
 
以前コウノトリという漫画が流行りドラマ化されたが、毎日があんな生活だ。
もっと言えば、あのドラマが所詮つくりもので、ぬるいと思えるくらいには毎日いろいろなヒューマンドラマがある。
 
周りで出産をした人がいると「助産師さんを尊敬する」「すごい」
そんな声をかけてくれる人が必ず存在する。本当にありがたいし、嬉しいことだ。
だが、それは助産師にとってお産という非日常が日常的であり、普通なら驚き慄いてしまう事象を予測し、冷静でいられるからだと思う。
 
それは、俳優が仕事で俳優と会うことにいちいち騒がないことや、都会で仕事をしているサラリーマンが街で外国人を見かけても驚かないことに似ている。
 
今日は、そんな日常を生きている私が、立会い出産を考えているパパにどうしても知っておいて欲しいことを伝えたい。
 
お産というのは赤ちゃんがお母さんのおなかから出るという大仕事だ。
おなかから外界への出口は10cm。そこまで出口が開くと、赤ちゃんの頭がなんとか通れ、外界に出てくることができる。
 
つまり、普段は硬く口をきゅっと閉めており姿すら見せない子宮口が10cmの出口をつくるまで、赤ちゃんは外に頭すら出すことができないのだ。
 
お母さんの体は、陣痛に耐え、重力がかかることで少しずつ少しずつ、赤ちゃんの出口をつくる。ただし、10cm開くことがゴールではない。出口が開くと、赤ちゃんが出てくるという更なる大仕事が待っている。
初めてのお産では12時間かかるとは言われているものの、個人的な感覚で言えば丸一日かかるくらいが普通である。
 
そんなお産について、私が男性に知っておいて欲しいのは「女性はお産の時、野生動物に戻る」ということだ。
 
陣痛開始すぐは女性との意思疎通が可能だ。ちょっと辛そうな女性の姿に胸がしめつけられるかもしれないが、「あれやって」「これやって」という言葉が女性から出ると、手伝うことができる。男性が一番いきいきしているのはこの時間だ。
 
時間が過ぎると、だんだん女性は声が出はじめる。深呼吸に混じり、軽く声にならない声が出はじめる。文字にすると「あー」とか「うー」とかだ。
今まで言われたことのない「おしりをテニスボールで押して」なんてキーワードを言われるかもしれない。
男性は、「ああ、辛そうだなあ」と思うだろう。だが、まだ普段の女性の性格は残っている。機嫌が悪い時のパートナーの姿だ。時折、理性があり何かをすると「ありがとう」と言ってもらえ、気持ちが温まることもある。
 
問題はその後だ。さらに時間が過ぎると、男性は女性の野生の姿を目にするだろう。女性は陣痛がくるたびに声が枯れんばかりに全力で叫び、のたうちまわるだろう。もうここまでくると、女性は理性なんてかけらくらいしか残っていない。
男性は普段は見たことのない姿に少なからずショックを受けるはずだ。もし、野生の女性を見るのが嫌だ、と感じる男性がいたら立ち会いはおススメしない。
この間、手を握ろうとやさしく差し出した手を、「私にさわらないで!」とぴしゃりと跳ね除けられた男性の悲しそうな顔を私はまだ忘れられずにいる。
立ち会いをするなら、彼女の全てを受け入れる、仏のような気持ちで隣にいてほしい。
なにせ、女性は痛すぎて何をしているか自分でもよく分からないのだ。
 
だが、叫ぶ頃になると陣痛も後半戦である。そこを夫婦で乗り越えると、新しい家族の誕生だ。わが子に会うと、今まで味わったことのない感情が胸にあふれてくるに違いない。
 
だから、改めてお伝えしたい。
「女性はお産の時、野生動物に戻る。だから、驚かずに仏のような広い心で接して欲しい。一緒に乗り越えたときの感動は、何にも変えがたい」
 
それと同時にもうひとつ、お伝えしたいことがある。
「非日常が日常化するのは、助産師だけで沢山だ」
 
これは、意外と重要なのだ。
人は柔軟に環境に適応してしまう。さっきまで非日常だと思っていた事象も気づけば日常になっていくのだ。
お産は順調にいくとだいたいこの3段階を踏むことが多いが、中にはどこかで躓く人もいる。そうなると次の段階にいくまでに男性が環境に慣れてしまうのだ。何より、長時間になるとサポートする側も疲れてくる。
 
ひどい場合だと、女性のための布団を奪って男性が布団の中央で大の字になって眠っている、なんてことも決して珍しくなかったりする。
 
だが、ここでもう一度あの言葉を思い出して欲しい。
「女性はお産の時、野生動物に戻る」
 
野生動物に戻った女性の体からは、お産を進める「オキシトシン」というホルモンが活発に出る。実はこのホルモン、一部の学者からは記憶と関係しているといわれているのだ。オキシトシンが大量に出るほど、脳に記憶が残りやすいそうだ。
 
つまりだ。お産中に女性にとって快なことをすれば、女性はそれが普段以上に記憶に残る。逆に不快なことをすると、普段以上に記憶に残るのだ。
 
出産から何年たっても「出産の時はこうしてくれなかった」といわれるのはそんな理由からである。
 
家族の愛情形成はお産がはじまる前からスタートしている。
立会い予定の男性には、ぜひそれを念頭において、女性の野生を包み込んで全てを認め、愛していただきたいものである。
 
そして、そんな非日常にうろたえつつも前進しようとする、パパ、ママ、そしてその間に生まれる赤ちゃん全員を、袖からそっと包み込めるような助産師になるのが、私の夢である。
 
 
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2019-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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