メディアグランプリ

あるテーマパークの終わりが教えてくれた、感動を生むシンプルすぎる法則


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小原正裕(ライティング・ゼミ日曜コース)

2019年2月17日。
あるテーマパークが6年の営業を終え、フィナーレを迎えた。
東京は池袋、サンシャインシティにある「J-WORLD TOKYO」である。
「週刊少年ジャンプ」の世界観を再現した屋内テーマパークで、 アトラクションやフードコートなどを通じて、すべてがジャンプ作品の世界を体験できるように作られている。
近所に住んでいるので、開園直後に何度か訪れたことはあったが、正直そこまで強い思い入れはなかった。
だから、閉園当日に訪れたのも本当に偶然。その日の予定が直前にキャンセルになり、丸一日暇になってしまったからだった。「今日で終わりだし、他にすることもないし。最後に行っておくか」くらいの、軽い気持ちだった。

アニメオタクの人たちがほとんどなのかと思って行ったら、着いて早々びっくりすることになった。
超満員のお客さんの構成は、本当にバラバラ。
一目でアニメ好きと分かるコスプレをした人やジャンプ世代の子供はもちろんのこと、比較的年配の方や、外国から来た人達も多くいた。
老若男女はもちろんのこと、国際色も豊かな人たちがジャンプの世界を楽しんでいる光景は新鮮で、それでいて非常にワクワクするものだった。
驚いたのは、それだけではない。
テーマパークの中では、お客さんとスタッフさんが仲良く会話を交わす場面や、一緒に撮影をする場面が、たくさん見られたのだ。
お客さん同士だったら、もしかしたらあるかもしれない。でも、お客さんとスタッフさんがそこまで仲良くしているというのは、あんまり無いように思う。

そんなこんなで一通り見て回るうちに閉園時間が近づいてきて、外に出るよう促される。
20時から入り口前で、スタッフさんからのお別れの挨拶があるためだ。
僕は比較的早く外に出たはずが、その時点でも相当な数のお客さんが、J-WORLDの最後の瞬間に立ち会うためにすでに待機していた。
ところが、20時を過ぎても、なかなか始まらない。
5分過ぎても10分過ぎても、J-WORLDから出てくるお客さんが止まらないのだ。
ここでまた驚いた。
出入り口で、お客さんとスタッフさんが泣きながら抱き合っているのだ。
それも、一組や二組ではない。涙を流し始めるお客さんもいた。
そうこうする内に、お客さんの数はどんどん膨れ上がっていく。
20時15分を過ぎて支配人さんの挨拶が始まった時には、J-WORLD前の広場を埋め尽くさんとするばかりだった。
泣き笑いのような表情を浮かべるスタッフさん、すすり泣きをしながら拍手を送るお客さん。
J-WORLD前の広場は、確かに強い一体感に包まれていた。

閉園の挨拶も終わり、J-WORLDが6年の歴史に幕を下ろした。
会場を後にした帰り道、不思議な気分に駆られていた。
僕は、ジャンプ作品のファンだ。
ONE PIECEやNARUTO、銀魂に黒子のバスケ。
同世代の多くがそうだったように、多くのジャンプ作品を食い入るように読んで、心を動かされてきた。
でも、「熱狂的なファン」というほどではない。最近は、漫画自体あまり読まなくなっていた。
そんな僕をさえ、一体感と感動の中にあっという間に引き込んでしまったのは、なぜだったのか。
大きいとは言え、ショッピングモールの中にある屋内のテーマパークである。
もちろんそれなりの広さはあるが、ディズニーやUSJみたいないわゆる「屋外テーマパーク」と比べれば見劣りしてしまう。
たぶん、感動の理由は、施設などのハード面ではないんだろう。
考えを巡らせるうちに、一つの理由に行き着いた。

お客さんと一緒になって、スタッフ自身が楽しんでいたから。

この6年間で何回か行った時のことを思い返すと、スタッフさんたちの楽しそうな様子が印象的だった。
案内をするスタッフさん、アトラクションの説明をするスタッフさん…
一人一人の姿勢は「仕事」という感じではなく、その世界を心から楽しんでいるように見えた。
世界観にスタッフさん自身が入り込み、お客さんと同じ目線でワクワクしている。
そんな人たちに囲まれていればお客さんもジャンプの世界にスッと入り込めるし、自然とテンションも上がる。
それでいてもちろん、お客さんたちが最大限楽しめるように、細かいところまで気を配ってくれている。
居心地の良さを作ってくれているのと同時に、ジャンプの世界を一緒に楽しんでいるのだ。
これは、広い敷地や大掛かりなアトラクションがなくてもできることだと思う。もしかしたら、ディズニーで感じられるワクワク感や居心地の良さの理由も、スタッフさんがその世界を楽しんでいることにあるのかもしれない。

あの場所であの瞬間を共有できた、J-WORLDとスタッフさん、そしてお客さん。
いつぶりか分からないほどの感動と、シンプルだけどとっても大きな気づきをくれた人たちに、感謝の気持ちでいっぱいだ。

何かが終わる時には、寂しさや悲しさはつきものだと思う。
でも、悲しんでもらえるということは、それだけ愛されていたということ。
終わりを迎える時に初めて、どれだけ愛されていたかが分かるのかもしれない。
小説家を目指している僕も、いつかはそれほど愛される作品を創り上げてみたい。
芽生えたそんな気持ちを大切に、夢に向かって一歩ずつ前に進んでいきたい。

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2019-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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