メディアグランプリ

手放す勇気


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松田智香(ライティング・ゼミ特講)
 
 

独身女子、もうすぐ33歳。
特に仕事に打ち込んでいる訳でもない。
付き合って2年が経とうとする3歳年下の彼とは仲良くやってはいたが、結婚の話題になると
「あと5年くらいは結婚って、ピンとこない。
相手がお前かどうかも今は約束できない」
オブラードに包まない、こんなにも泣ける言葉をガツンと浴びせてくる。
私、5年後、38歳ですけど?暗算できます?
ジャイアンのように身勝手で、3歳児さながら自分の感情に素直。ただ、天真爛漫なこの甘えん坊のクソガキが見せる屈託のない笑顔に、私はとことん弱かった。
 
キャリアもない、やりたいこともない、
友達のように子供や家族がいるわけでもない。
その上彼と別れたら、私に何が残るのだろう。
何にもない自分になるのが、怖かった
 
でも
あと1か月もすればクリスマスという冬の頃、私はこのジャイアンと、決別した。
 
いつか切り出さなきゃ、私はどこかでずっと最後のトリガーを探していた。
「必死だね」
今年のクリスマスプレゼントは婚約指輪かな?笑いながら冗談めかして、何とか放った私の一言に、彼がこころなく返した一言。読みかけの漫画から目を離すこともなく。
 
何かが、プツっと、切れるのが分かった。
 
「今までお世話になりましたっ!!」
一緒に寝ていたベッドの上で、ぴょんと飛び起き正座して泣き笑いの顔で深々と頭を下げた。もうこの時間電車は走っていない、私は即座に電話でタクシーを呼び、部屋にあった荷物を全て持って飛び出した。
 
この瞬間を逃してはならない。
こうでもしなきゃ、別れられない。
今しかもう飛べない……。
 
まるでスカイダイビングで高度3,000mから地上に直下するように。風がごうごうと吹き、周りの音はほとんど聞こえない。セスナから爆発的な勢いで、前後不覚のまま現実を振り切って、無重力に飛び込む。
 
1人乗ったタクシーの中で、とめどなく流れる涙とは裏腹に、不思議なほどの高揚感があった。
スポーツをした後みたいに、息が上がっていた。
 
ただ、荒療治のあとの後遺症ももちろん訪れた。
さみしい、会いたい、辛い。私って一体何者?
職場にもひどい顔をして行っていたのだと思う。時々恋バナをしていた取引先のおばちゃんにも「何かあった? 大丈夫?」と心配された。
 
休日、大学時代の友達に、励ましてもらう。
「やっとあのダメ彼氏と別れたの?
偉かったじゃん。絶対連絡取っちゃダメよ。
大丈夫、時間が解決するから。今は耐えて」
「えーっ!? 何経験したらそんな悟りの境地みたいな励まし方できるの? 分かった、頑張る、ありがとー(泣)」
「どうしてもさみしくなったら、血迷わず、私たちのグループラインに連絡するんよ! 分かった?」
何という面倒見の良さ。実は私たちの共通点は、ダメンズ好き。でも先輩方は一足先にちゃんと足を洗っていた。
「同じ轍を踏んで欲しくないんよ」
こういう男は、復縁してもいいことがないらしい。そりゃそうだよね。厳しい言葉は愛情の裏返しだ。凝縮された先人の教えに励まされ、私はとりあえず今のところ血迷わずにすんでいる。たぶん、この子達がいたから、私は別れを切り出すことができた。こうやって受け止めてくれると思ったから。
 
何とか踏み出した大きな一歩を、無駄にしたくない。友達同士の間でこの負けん気のことを
「恋の貧乏性」と呼んでいる。タダでは転びたくない。失恋からでさえ、何かを掴みとってやる。
 
私は今、一人になって、このつたなく、どうしようもない文章を書いている。これまで見て見ぬふりしてた「やってみたかったこと」に一つ一つトライしている。自分の心と向き合うのは、気恥ずかしくてくすぐったいが、やってみている。「恋の貧乏性」精神を惜しげもなく披露している。ここ最近のそんな毎日は、妙に楽しい。
 
気付いたら2月の誕生日を迎え、33歳になっていた。何もない自分のままだったが、これから作ればいいや、に開き直った。
吹っ切れるって、このことだと思う。
私は、何を恐れていたんだろう。
飛んでみたら、一瞬だった。
一番外側にあった古い角質も
全て一緒に捨て去った気分。
そして足元には着地する柔らかな地面があった。それは私が今まで踏みしめてきた大地。ずっと変わらずそこにあった。私が見ていなかっただけ、見えていなかっただけ。
何もない自分は言い過ぎた。自転車の車輪のハブのように、私の周りを囲んでくれる友達が、家族が、同僚がいる。
その大切さに、ようやく目を向けられるようになった。
 
取引先のあのおばちゃんに言われた
「最近、キレイになったね。もう、心配ないね」
 
独身女子の皆様、手放す快感も、悪くないよ
今まで見えなかったものが、見えるようになるから。

 
 
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2019-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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