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メディアグランプリ

それでも少女が書き続ける理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:はる(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
事の始まりは13歳の時の恋文だった。
同じ陸上部の男の子。初恋の威力は強烈で、ドキドキしすぎて心臓が破裂してしまいそうだった。
そうだ、手紙に書いてしまおう。私はあなたが好きです。毎日が嬉しくて楽しくて苦しくて切ないです。
そんなようなことをルーズリーフに書いてみた。書いてしまうと気持ちが落ち着いて胸の痛みも楽になった。
それ以降、彼と偶然喋れたりして鼓動がおさまらない夜は、決まって恋文を書き綴った。
 
それは結局彼の手に渡ることはなく、机の中に封印された。
心をそのまんま鏡に映したような言葉の山は、手紙にしてはあまりにも一方的で、そして長すぎたのだ。
 
それでも少女は書き続けた。写真に撮れない大切な記憶をどうにか形に残しておきたかった。
この青春はいつか終わりゆくものだと幼いながらに理解していた少女は、修学旅行のスナップ写真で思い出アルバムでも作るかのように、日々の情景や感情の一瞬一瞬をルーズリーフに切り貼りした。
 
*
 
少女はそれ以降、書くことで感情を新陳代謝させるようになった。
嬉しかったこと、悲しかったこと、やり場のない怒りや、余韻が消えない楽しい思い出。エネルギーが満タンになって苦しくなると、文字に起こして発散する。
食事と運動の繰り返しで身体が成長していくように、“感じて書いて内省する” を繰り返すうちに内面も少しずつ成長していった。
 
しかし、これだけ書くことに親しんでいるにも関わらず、少女はその文章を決して公開しなかった。
”出る杭は打たれる。自我を出して調和を乱すとみんなからハブられる。”
クラスという狭い社会で痛いほど学習してきたこと。書くことは自己表現であり、文章は自我そのものであったので、少女はこれを誰かに見せるのはとても危険だと思った。
誰かに聞いてほしいけど話したら嫌われそうなエゴの塊は、自分だけの世界で昇華させ、現実世界の友人知人には死んでも見せなかった。
 
*
 
少女は21歳になった。
三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。三つ子ではなく13歳だったが、8年たっても相変わらず、何かあるとペンとルーズリーフを持ち出して、感情を循環させ思考を深めた。
そんな風に一歩一歩前進してきた彼女であったが、ある時から、このままではもう先に進めないと感じるようになる。
 
就活中だった。彼女は書くことに対して初めて挫折した。
伝えられないのだ、自分のことが。仮に伝わったとしても、理解されず受け入れられない事が当たり前にたくさんあった。性格や価値観について語ったエントリーシートや面接に対する ”不採用” は、ある意味アイデンティティの拒絶であり、自分がからっぽで無価値で世の中に必要とされていない現実を何度も突きつけられた。
 
これまで書くことで前進してきたはずなのに。その力は自分のためにしか使えなくて、いざそれを武器に何かしようとしても、誰の役にも立てないし認められることもない。
彼女は自分自身のすべてに、すっかり自信をなくしていた。
 
だが就活のおかげで、彼女ははっとした。
 
私は拒絶されることを怖がって、いつの間にか誰かと理解し合うことを諦めて生きてきたんだ。そうやって、自尊心を守りながらも自我を肯定するために、書きたいことだけ書いてきた。
つまるところ、山のようなルーズリーフは、自分のことだけ考えてきた私の生き様の象徴だったんだ。
 
なんて臆病で身勝手で幼稚だったんだろう。だからだめなのだ。だから “不採用” なのだ。
彼女は自分の事がすごくずるくて卑怯なやつに思えて、羞恥心でいっぱいになった。
 
彼女は考える。
自分の世界だけで自己表現していれば、確かに低リスクで安全だ。褒められもしないけど拒絶されることもない。誰かに嫌われることも、人様に迷惑をかけることもない。
でも、この先はもう、そういう生き方はしたくないな。
孤立を恐れて殻に閉じこもったが、それは表面的な解決策だ。本当の意味で孤立してしまうのはこういう逃げ腰の生き方なのかもしれない。誰とも繋がれず、誰からも必要とされず、何の役にも立つことが出来ない。傷つくことを恐れていては、結局大事なものは何も得られず、無味で寂しい人生になってしまうんだ。
 
もう大人になる。逃げてきた自分を変えなきゃ。
仕事をしてお金をもらうということは、自分の力を世の中のためにつかって、少しでも役に立つことをしていくということなんだ。
自己満足の一歩先、人のために書けるようにならなきゃ。
 
そんな気持ちが芽生えたころ、彼女は希望の会社から無事内定をもらい、またもとの自由に書ける生活に戻った。
 
*
 
彼女はその後も、相変わらず書くことで体内のエネルギーを循環させている。
しかし同時に、誰かのために文書を作成する機会を積極的に取りに行くようになった。
日々のメッセージのやりとり、飲み会のお知らせ、後輩への就活のアドバイス、インターンの企画書、プレゼンの原稿、卒論。彼女は何を書くときも、自分が書きたいことより相手の役に立つことに焦点を当てるように意識した。
幸い、人のためを思って書いたものが全面的に拒絶されることはなく、彼女は地道に成功体験を積み重ねた。自分の作成した文書が感謝されたり評価されたりすると、役に立てている実感が湧いて本当に嬉しかった。まだ自信はないけれど、言葉を世に送り出す恐怖は不思議となくなっていった。
 
それでももっと頑張りたい、と彼女は思う。
自己満足の一歩先の、人のための一歩先へ進みたい。
今は何もできない私だけど、もしかしたら、書くことを通してなら、誰かの役に立てるようになれるかもしれない。
だったら、ちゃんと書けるようになりたい。せっかく見つけた小さな芽をもう少しだけ育ててみたい。
願はくは、いつか読んでくれる人を、少しでも幸せにできますように。
 
そういうわけで彼女は先月、このライティング・ゼミの門を叩いたのだった。
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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