チーム天狼院

【失敗から学ぶ】美容院で髪を切られすぎるとどうしてあそこまで落ち込んでしまうのか《川代ノート》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」に参加したスタッフが書いたものです。

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一週間後に、美容院の予約をした。
半年ぶりに髪を切ってもらいに行く。

何故半年も行かなかったのかというのも、理由はある。
ひとつは、今髪を伸ばしているということ。しばらくショートヘアだったのだが、そろそろ飽きてきて、北川景子みたいな綺麗なさらさらのストレートロングにしたいなあと目論んでいるので、美容院に行っても毛先をそろえる程度にしてもらいたいから。

もうひとつは、半年前に美容院で切ってもらって大失敗したからである。二週間くらい本気で凹むくらいに大失敗して、もう半年は髪なんぞ切るもんかと泣きながら(本当に)心に誓ったからである。

半年前、私は本当にお金がなかった。桁違いになかった。

当時一月の就活真っ最中のときで、なかなかバイトする時間もなく、説明会のために交通費だけが消えていくという悲惨な財布事情だったため、美容院に行くお金もなかった。
そのときも髪をのばしていたものの、ぼさぼさになってきたし、毛先を切りそろえるくらいはしないとなあ、ホットペッパーで安いとこ探すかー、なんて思っていた矢先に。

渋谷駅、出口付近にて、声をかけられた。

「あの、カットモデルとか興味ないですか?髪切らせてもらいたいんですが……」

聞くに、表参道の美容院で見習いやってる方で、もう少しでデビューさせてもらえるところだが、その前にカットの練習をさせてもらえる人を探しているという。
もちろん要望は聞くし、好きな髪型にできるし、無料でOK、とのこと。

「いやあ、でも、髪、今のばしてるので、あんまり切りすぎたくはないんですが……」

「大丈夫です。2、3センチ毛先切らせてもらえるだけでもいいので。お願いできませんか」

うーん、見習いさんのカットモデル、というところに抵抗はあったが、表参道か……。いつも行く府中のやっすい美容院とか、ホットペッパーでクーポン使える新宿の美容院とかしか行ったことのなかった私。それよりきっとクオリティもいいよね、と「表参道」のネームバリューに負け、「じゃ、毛先を切るだけなら」ということでOKしてしまった。お金もなかったしちょうどいいや、と。

が、この安請け合いしてしまったことが悲劇のはじまりであった。

日程を決め、別日にその表参道の美容院に行くと、わお、想像通りおしゃれで広い美容院。白いやわらかい雰囲気に、キラキラの照明と観葉植物。府中の美容院とは比べるのもおこがましいレベルである。

店に入るとどうも、とこの前声をかけてきた見習いさんが席まで案内してくれる。時間は夜遅く、店が閉まったあとに見習いさんたちが練習するらしく、私以外にも何人かのカットモデルと思しき人たちが髪を切られていた。

「今日は具体的にはどんな感じにしますか?」と、ヘアカタログを見せられ、どんな髪型にするかを選ぶ私たち。

「こんな感じでどうですかね?」と言われて見せられたのが、丸いフォルムの顎のラインで切りそろえたくらいのボブ。かわいらしい。

正直もともとそのときの髪型から大きく変えるつもりはなかったが、お洒落な雰囲気と雑誌のかわいいモデルさんの写真に調子に乗り、「じゃあ、それでお願いします」とGOサインを出してしまった。

髪を洗い、黙々と髪を切り始める見習いさん。無言で切られるとなんか気まずい。トーク術の方もデビュー前に鍛えてもらった方がいいんじゃ、と内心つっこみを入れつつ、雑誌を読みながら終わるのを待つ。

ちょきちょきちょき……雑誌を三冊読み終えたとき、ようやく、あれ、結構切ってるな、と気付いたが、その時にはもう遅かった。

「じゃ、ひととおり切り終わったんで、流しますねー」

またシャンプー台へ向かう。席を立ち、下を見ると、黒々とした髪の毛の山が!

あれ・・・こんな切ってる?いやいやいや、2、3センチしか切らないって言ったよね?大丈夫か?
不安になってくる私。でも私、髪の毛の量多いし!と無理やり気持ちを落ち着かせる。

が、髪をかわかし、鏡を見ると。

どーん。ちびまる子さながらの見事なおかっぱヘアの女がこちらを見ていた。けっこう短い。

私、真っ青。漫画だったらおでこから下にかけて斜線ひいちゃうような顔。しかも私は就活で黒染めしてたから、それはもうカラスの濡れ羽色ってくらい真っ黒の髪なのだ。丸顔が引き立ち、ちびまる子感があふれでている。まずい。リアルになってしまう。実際わたしチビだし。

「じゃ、細かいところそろえていきますね」

私の気も知らず、また髪を切る見習い。これ以上短くしたくはなかったが、こんなおかっぱはなんとかしてもらいたくて、またそのまま切られ続けた。

……短い。めっちゃ短い!!

どんどん切られていく私の髪。しかし「あの、短くないですか?」とは言えない小心者の私。なんとかまともな髪型になることを祈る。

ふう、と満足げな顔をした見習い、どこかへ消える。すると、ベテラン美容師らしき人が来て、私の髪を触ってチェックする。

ベテラン、厳しい声音で、ここが短いからバランスがー、とか、ここをこういう風にね、とかつっこみを入れる。

言われた通りにまた切り始める見習い。

まだ切るんかい!!!

もはや固まってしまう私。でも怖くて何も言えない。

ベテラン、しばらく見ていたが、そこはだからさ……とかこういうふうに……とか髪を触ってるうちに熱くなってきたようで、「ちょっと俺が切るからね」と言って私の髪を切り始めた。

おい、まだ切るんかい!!!

でもタダだし何も言えない。そうして終わるのを待ったが、結局美容院を出る頃の私はもはやおかっぱも通りこし、ボブでもないただのすっきりショートヘアの女であった。

髪を触っても量が全然ない。軽すぎる。切る前は結べていた髪が全然結べない。雑誌に載っていたかわいいボブとは似ても似つかない仕上がりである。

が、文句を言うのもみっともないと思って、満足してる風を装って帰ってしまった。

「ぎゃ~、さき、髪短か! のばしてたんじゃなかったの?」

帰宅して早々、母につっこまれる。

いや、まあ、ほら、気分転換でさ、安かったし、と言い訳しながらも真っ先に洗面所に向かう。

鏡にはショートカットの女。何度見ても同じである。

見れば見るほど落ち込むし、腹が立ってくる。頑張ってのばしてたのに……結べるくらいになってたのに……とひたすらぐるぐると後悔。

合わせ鏡にして後姿をチェックする。やっぱり短い。どう見ても2、3センチではない。

腹が立って仕方がないので、文句を言ってやろうとメール画面を開いた。
「あの、2、3センチ切るだけって言いましたよね? ただなのでこっちもあまり言えませんけど、これはどう見ても……」
とまで書いたところで消し、いやいや、クレームつける人間にはなりたくない、と気持ちを静めた。ふう、と落ち着いてから
「今日はありがとうございました^^あの、次の参考にしたいので聞きたいんですが、今日って何センチくらい切りましたか?」
とだけ送る。

すぐに返信が来た。相手からは

「今日はありがとうございました(^0^)/サイドは3センチ、バックは5センチくらい切りましたよ~」

やっぱりー!!! と、いうか、その軽い感じはなんだ、5センチも切っといて!! 髪のばしてるって言ったの忘れたか!! 結局私はうまい具合に練習台にされただけか!! あんたに切られた5センチにかけた時間とお金はもう戻ってこないんだよー!!

怒りにわなわな震えたが、クレームはいかん、しかもカットモデルだしと思って、「そうですか……今日、あまり切らないと思ってたので、5センチ切るならそのときは前もって言ってほしかったです><髪型はとってもかわいかったので、それだけ残念でした!」と抑え気味に送った。

「そうですね~すみません! 次から気を付けますんで!m(__)m」とまた軽い返事に、怒りはさらに募るばかり。

それは翌日になっても、一週間たっても変わらなかった。
鏡を見るたびに落ち込んでしまって仕方ない。

ああ、こんなことなら人としてどうとか気にしないで思いっきり文句言ってやればよかった!!! と後悔したが、あとの祭りである。自分の落ち込み具合とうまく折り合いをつけるしかない。

「美容院 髪 切られすぎ」とか「美容師 髪 切りすぎる」とか、Googleで検索して同じような心境の人と気持ちを分かち合った気になったり、髪を早く伸ばすシャンプーを楽天で探したりして、なんとか気持ちを静めるしかなかった。

「髪は女の命」というが、本当なのだろう。

特に髪を伸ばしている女にとっては、うまいこと髪の長さをキープしたまま綺麗に切ってもらうというのは死活問題である。

一ヶ月で髪が伸びる平均の長さは0.5センチから1センチ、早い人でも2センチくらいだという。
ということは、5センチのばすにも約半年はかかるということになる。

5センチを切られてしまうというのは、一生懸命ケアをしてのばして綺麗にたもってくるために使った半年間とそのぶんの労力、金額を無駄にしてしまうことと同じなのだ。自分で気に入っていた状態にまた戻すのに半年かかることを考えると、一度のその美容院での失敗で、また同じエネルギーを注がなければならないことになる。一気には戻すことができないものだからこそ、髪型というのは女にとってかなり重要事項なのだ。

「毛先だけで」とか「のばしてるので」とか言っても、切りすぎてしまう美容師さんは結構いるが、そこのところわかっていただきたい。女が「のばしてる」と言ったときは本当にのばしてるときだし、ぱっと見た印象として「わあ、短くなったな」と思われるようでは落ち込み具合がはんぱじゃないのだ。

髪型が見た目に与える印象はメイク、ファッション以上とも言われる。イメチェンしたければまず髪を変えろとも言う。髪型が気にくわないというのは、すっぴんで外に出るのと同じくらい恥ずかしいし、全然決まらないコーディネートで外に出るくらい気分が乗らないことなのだ。

こう考えると、お客さんのニーズをしっかり把握するというのは本当に大事なことである。
希望をあまり聞いてこないで切り始める美容師さんも結構いるが、本音としては細かすぎるくらい聞いてほしいものだ。こちらから細かく希望を言いすぎると口うるさい客みたいになってやだ、と思ってしまう本音と建前の日本人的価値観もある。客から積極的にああしてくれこうしてくれとは言いづらいものだ。

けれど「客が希望したもの」と大幅にずれたものを提供する、というのは、提供する側としてかなりの落ち度になってしまう。信用を失うだけでなく、その人の心に大きな傷を負わせてしまう可能性もあるのだ。
接客業ならなおさら、しかも天狼院みたいなお客さんとのつながりが強い場所でなら特に、相手が求めているものを伝えやすい環境を作らなければならない。独りよがりで勝手にお客さんの気持ちを理解した気になって満足しないように、本当に気をつけねばいかんなあ、と書店員としても学ぶことが多かったので、まああの経験をしてよかったとは思うけれど。

でも、二度とあんな失敗はしたくない!

あれからようやく半年がすぎ、髪も5センチ以上のびた。今度は本当にのびきった痛んだ毛先をそろえるためだけに行く。今からまた失敗しやしないかという不安半分、気分が変わるかもという期待半分ではあるが、またこの半年間を失ってしまうことになったら……と震える思いである。

もし失敗したおかっぱ頭の川代に会ったら、「悪くないね」と優しい一言をかけていただきたい。
また、ふりだしに戻りませんように!

***

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「世にも恐ろしい女子ヒエラルキー」連載→【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー】まえがき 女は怖い生き物?《川代ノート》

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2021-08-10 | Posted in チーム天狼院, 記事

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