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貴族的生活のすすめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下梨花子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「どうしたの? 何かあった?」
 
帰宅するなり深い溜め息をついてテーブルについた私に、母が尋ねた。
 
「かぼちゃプリン、今日売り切れだった……」
「なんだそんなこと? 仕事帰りなんて閉店ギリギリなんだから仕方ないでしょ。」
「そんなこと、じゃないよ! 仕事帰りの楽しみだったのに……」
 
生活をしていると、小さながっかりに出会うことがあります。よくあります。
楽しみにしていたおやつが売り切れていた、ホームに走り込んだ瞬間に電車のドアが閉まった、カラオケに行ったら自分の歌いたい曲が全然入っていなかった、などです。
これらは特に人生を狂わすような悲劇ではなく、誰かの悪意による嫌がらせでもありません。でもなんとなく気持ちがしょんぼりとして、ため息をついてふてくされたくなったりします。また、誰も悪くないからこそ我慢してやり過ごすほかなく、やり切れない気持ちになったりもします。おそらくどなたにも経験があることではないでしょうか。
私はどちらかというと通常運転のテンションが低いタイプ。そのためこういった小さながっかりに弱く、すぐにご機嫌斜め状態になってしまいます。しかしそんな状態でいては疲れてしまうし、なんとなく次なるがっかりを呼び寄せたりしてしまいそうな気がして、対処法を考えてみました。
 
その対処法とは、貴族になることです。
 
本当に貴族になり、財産に物を言わせて様々ながっかりを解消できればそれに越したことはないのですが、残念ながらその方法はまだ見つけていません。ひとまず手軽なのは、心の中に貴族の自分およびその使用人たちを住まわせることです。
 
例えばスーパーに行って、目当ての品物が売り切れていたとします。庶民の私はひとりでがっかりとして終わりですが、貴族の私は違います。
 
貴族の私「あら、かぼちゃプリンがないわ。品切れかしら? 」
使用人の私「なんと! マツシタ様がご所望の品を切らすとは無礼な! マツシタ様、申し訳ございません。店の者にはよく言って聞かせますゆえ……」
貴族の私「そう目くじらを立てずともよろしい。店の者にも事情があるのだろうから、また明日にでも訪れることとしましょう」
使用人の私「は! かしこまりました」
 
といった具合に、脳内で会話が繰り広げられるのです。
非常にばかばかしく感じられると思いますが、この会話を思い描くと驚くほど気持ちが落ち着きます。
 
ポイントは、自分の気持を貴族と使用人の2人に分割して考えることです。
貴族の私は貴族らしく、たっぷりの財産と育ちの良さから生まれる余裕にあふれています。そのため、たいていのことは広い心で受け入れることができます。
一方で使用人の私は、ご主人様に失礼があっては大変といつでも気を配り、周りを厳しく監督しています。そのため周囲に対してもシビアに発言・対応します。
何か期待はずれのことがあったとき、まず使用人の私が厳しく発見し、盛大に腹を立てたり憤ったりします。一通り腹を立てているところに貴族の私が現れ、使用人の私を高貴になだめます。使用人の私は基本的にご主人さまのために腹を立てているので、ご主人さまからそう言われると納得せざるを得ません。
 
自分の中に何か感情が生まれたとき、その自分を客観的に見るとコントロールが効きやすくなります。自分の中に貴族と使用人を住まわせて、出来事や感情をまるで「その人に対して起きていること」「その人の気持ち」であるかのように考えれば、自分はその場面を客観的に見られるようになるのです。
しかもキャラクターを2人に分けることで、憤ることと納得することの2つをセルフで行うことができます。がっかりから回復までが自動的にセットになるのでとても楽な気持ちになります。
また、貴族というキャラクターの現実味のなさも、がっかり軽減に一役買います。なんとなく自分の実生活から離れたところの出来事のように感じ、より客観的に眺められるようになるのです。そして「我慢している」ではなく「許してあげている」という上から目線を勝手に設定することで、なんとなく心に余裕が生まれます。
 
この貴族と使用人は、嬉しいことをさらに盛り上げることもできます。例えば、後日スーパーに行って探していた商品を見つけたとすると、
 
使用人の私「先日は大変失礼致しました。マツシタ様のために、ご所望のかぼちゃプリンをご用意させていただきました。」
貴族の私「まあ! よく覚えていましたね。礼を言いますよ」
使用人の私「は! もったいなきお言葉! 従業員にも申し伝えます」
といった会話が生まれます。
とにかく出会った良いことは、全て貴族の私のために、庶民たちが一生懸命準備してくれたことだという画期的な解釈です。実際にこのような思考であればなかなか近寄りがたい人物ですが、これは私の心の中の貴族のお話ですので誰に気兼ねすることもありません。
 
心の中に貴族と使用人を住まわせると、今より少し高貴で心穏やかな生活が待っているかも知れません。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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