神様にお願いしたら、クライアントが増えた?!
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記事:赤木 広紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
「神様にね『お客さんをください』って声に出してお願いすると、お客さんがやって来るんだよ」
今から20年近く前になる。
あれは、勤めていた会社を辞めて、プロコーチとして独立したころのことだ。
あるセミナーで知り合ったセラピストの友人と話をしていた。
友人は僕より早く独立し、自宅でサロンを開業していた。いわばフリーランスの先輩だ。
キッカケかは忘れたが、お客さんをどうやって見つけているのかを尋ねたときに返ってきたのが冒頭のセリフだ。
(いやいや、神様にお願いしてお客さんが増えるなら、誰も苦労しないよ)
正直、内心では、小馬鹿にしながら話半分で聞いていた。
「いや、もう少し、具体的にどんなことをしたか聞きたいんですけど……」
友人は笑いながら、もう一度同じことを言う。
「神様にね『お客さんをください』って声に出してお願いすると、お客さんがやって来るんだよ」
(いやいや、僕だって長年、営業の第一線にいたんだよ。どうすればあと一件、お客さんが取れるかって、毎日毎日ギリギリのところで考えて、動いて、それでもどうにもならないことなんて、それこそ何回どころか、何十回もあったって!)
だんだん、腹が立ってきた。
でも、友人がウソを言っているわけでも冗談を言っているわけでもないのも分かる。
これは議論しても仕方がない。
その場では「そうなんですね」と努めて冷静に大人の対応をした。
神様にお願いしてお客さんがやってくるなら、経費も一銭も掛からないわけだから、物は試しでやってみたらいいのに、やってみようという気にならなかった。
別に聞き流してもよかったけれども、なぜかずっと、その言葉は心の中に引っかかっていた。
それからどれくらい経っただろうか。
あるとき、
(こんなにモヤモヤするぐらいだったら、ダメもとで一度試してみよう。一人のときだったら、誰にも聞かれないし、恥ずかしくないし)
と、意を決して? 言ってみた。
「神様、クライアントを一人ください」
言った後は、なんだか、サンタクロースなんかいないって分かっているのに、真剣にサンタクロースにクリスマスプレゼントをお願いしたような、何とも言えない複雑な気持ちになった。
だが、だが、だが、
数日後、コーチングの申込があった。
本当にクライアントさんがやってきたのだ!
とはいえ、疑い深い性格は、クライアントさんが一人やってきたぐらいでは、そう簡単に信用したりはしない。
(たまたま、だよね)
とはいえ、やっぱりコーチングの申込があると嬉しいのは間違いない。
(せっかくだし、もう一回、試してみようか)
サンタクロースの存在を全然信じていなかったのに、1個もらえるなら、ついでにもう1個プレゼントをもらえるかもという、自分のずうずうしさと厚かましさに苦笑する。
「神様、クライアントをもう一人ください」
そう声に出して言ってみた。
その結果は……
またまた申し込みがあったのだ!
今度も一週間以内に。
今思い出しても、不思議な体験だった。
世間には、「強く信じたら願いは叶う!」という類の本も山ほどあるが、あのときの自分は、むしろその真逆で、神様にお願いしたらクライアントさんがやって来るなんてまったく信じていなかったのに、願いは叶った。
今でも、「あれはきっとたまたまだったんだろう」と思うこともある。
疑い深い性格は、そう簡単に「信じれば願いは叶う」教に改宗したりはしない。
ただ、この体験は僕に大切なことを教えてくれた。
それは「成果に執着せず、ただやってみる」ことだ。
セラピストの友人が、「神様にね『お客さんをください』って声に出してお願いすると、お客さんがやって来るんだよ」と話してくれたとき、なぜ素直にすぐ実行できなかったのか?
今なら、わかる。
ものすごくクライアントが欲しかったのだ。
「クライアントを増やさなければならない!」とガチガチになっていた。
そう、成果に対してものすごい執着があったのだ。
成果に対して強い執着があると、それが叶わなかったときの落ち込みというのは半端ない。
そのガッカリした気持ちを味わいたくないために、やってみようとしなかったのだ。
「神様、クライアントを一人ください」
今思うと、そう言えたときは、最初に友人から教えてもらったときほど成果への執着はなかった。「クライアントが来ても来なくてもどっちでもいいや」そんな気持ちだった。
だから、きっと気軽に試せたんだろう。
「神様にね『お客さんをください』って声に出してお願いすると、お客さんがやって来るんだよ」
友人が言葉で教えてくれたのは、ちょっと怪しげなお客さんの増やし方だった。
でも、今ならわかる。
そう、友人が本当に教えてくれたのは、執着を手放すユニークなやり方だったのだ。
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