「本当の自分」は、嘘をつく。~ブレない自分を育てていくには~
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:東 みわこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「結果ってさあ、君が出すもんじゃないんだよ」
健康相談したときにとても親身だったのがきっかけで、交流するうちにいつの間にか色々な悩み相談に応えてくださっている医師のこの言葉が、ある意味今の私の「支え」になっている。
文字通り、私の真ん中を通る柱だ。
ローカル系文芸賞に毎年応募していた私は、ついに第一位を獲得したのだが、その後が続かなかった。
羽があっても飛べない鳥のような状態が数年続いた。
モノカキでうだつが上がらないと、つい他の「できること」にハマって心を満たそうとする。
手作り雑貨と称する色々なモノ創りを始めると、これはこれで「注文が来て」しまい、イベント出店すればそれなりに売れていく。
そのとき私はつくづく感じた。
「そうか、私は小説書くより、モノ創りのほうが合っているんだ」
それは、私にとって「本当の私」を見つけたような、そんな気持ちだった。
実際、60歳を前に亡くなった母の手芸技術を受け継いでいきたい思いもあった。
せっかちな性分だから、文芸賞に応募して結果が分かるまで長い時間待つより、アクセサリー制作や布小物を作るほうが「短期間でカタチが見えて」楽しかった。いや、「楽ちん」だった。
つまり「自分でイメージしたもの=自分で結果を出すもの」という感覚が身についた。
お客様の反応が嬉しかった。
「あなたの作品、素敵ね。これ欲しいから、買うわ」
ダイレクトな反応。現場で起こる反響。
そして「楽しい」と「創造性を楽ちんにしたい」が安易に結びついたとき、なにが起きるのか?
「本当の自分」が嘘をつき始めるのである。
創造性というのは、難しい感覚ではない。ドバイの富豪にも、営業マンにも、フリーターにも、主婦にも、生まれたばかりの赤ちゃんにも、誰にでも備わっている。
すべての人間に訪れる「死」と同じだ。
言ってしまえば、「逃れられない」。
創造性をどうやって人生に活かすかが個人に委ねられているだけである。
私は必死になってモノ創りをした。
だって「本当の自分」が言っているんだもの。
「アタシは雑貨作りで細々と生きていくのが合っている。バイトしながら……」
小説を書いても得られなかった「喜び」。
目の前に並べた作品が売れていくことの「喜び」。
この中毒性はなんだろう。
気がついたら、材料費を回収できない状態でも「ひとりでも買ってくれる人がいるなら」というだけで出店し、家に帰れば不良在庫が鎮座している。「本当の自分」が囁くままに、その生活を続けた。
かと言って、毎月出店するような気力もなかった。
すべてが中途半端なのに、モノさえ作れば、クリエイティビティに浸っていれば「人と違う感性」なんて簡単に感じられた。
やがて、そういうのは単なる「承認欲求を満たしたかったから」と理解するまで、さらに長い期間を必要とした。
あのときの、「本当の私」って一体なんだったのだろう。
私の心の声だと思ったのに。
心が求めている「本当にやりたいことをやって」いたはずだったのに。
そのことを医師である彼に話すと、「結果は君が出すものじゃない」という、ショッキングな言葉が返ってきて、私は頬をつねられたような気持ちになったのだった。
「結果ってさ、世の中が出すんだ。結果を出そうなんて思っているうちは、結果なんて出ないね」
続く言葉に、私は太刀打ちできなかった。
「本当のあなたの声を聞いて、好きなことをしよう」「自分探しに出かけよう」こんなフレーズがネット上に溢れかえるようになってどれくらい経ったか分からない。
「本当の私」なんて、平気で私に嘘をつく。
モノ創りで得られる承認欲求と自己満足の世界から離れ、もう一度モノカキの世界に戻ったとき、奇妙な安堵を感じた。
もう一度、野放しにしていた「本当の私」ってやつと、向き合う時間がやってきたからだ。
嘘つき野郎、と罵ることは簡単だ。
だけどどうしてそいつは私に嘘をついたのか? それを知る必要があった。
承認欲求を満たしたいとか以上になにか大きな原因があると思った。
向き合って。
苦しいけども向き合って。
見えたことがひとつだけある。
私に嘘をついた「本当の私」は、かなりコドモだった。
ゆえに私が特別視していた「クリエイティビティ」すらも、コドモであった。
母親の気を引くために、痛くもないのに幼い子どもが「痛いよ、ママ、痛いよ」って泣くのと同じだったのだ。
うまくいかないから、ダダをこねて道に寝転んで手足をジタバタさせる。
「仕方ない子ねぇ」
そう言われて、ママに抱っこされるのを待っている。
優しい人がいる世界で優しくされたいだけの「本当の私」が晒された。
結果を出す世の中に挑むことが本当に怖かった。
「本当の自分」が今の自分よりなにもかも知っていて、分かっていて、未来の自己実現した姿だなんて思うからブレてしまう。
なにをどうやって表現していいか分からずに泣いて気を引こうとしているチビッコな姿が真実だと、私は思う。
その子を育てること。オトコもオンナも、年齢も関係ない。
世の中に百回挑んで百回門前払いされて、それでも泣かない子に育てる。
なにかの代替で満足するような子にしないこと。
そして、挑んだ果てに諦めることを選んだのなら祝ってやるのだ。
背が大きく伸びた「本当の私」には、もう違う景色が見えているはずだから。
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