メディアグランプリ

少年ソフトボールは「夜のジェットコースター」だ


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記事:ひろり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
よくある話だけど、長男が幼稚園を卒園する時に、文集に「ぷろやきゅうのせんしゅになりたい」と書いていた。同じ様に書いている子がいっぱい居たので、
 
「他の子が書いているのを真似したくなったのかな?よしよし可愛いな♪」
 
……と軽く考えていたのだが、本人は本気でプロ野球選手になりたいと思っていたようで、小学校に入ってすぐに低学年向けの野球教室に入部した。そこで投げ方や打ち方などの基本的な事を習っていたのだが、1年ほどして物足りなくなったようで、「ちゃんとしたチームに入りたい」と言い出した。
 
正直小さい子の勢いだけだと思っていたので「マジか……」「やりますか……」と夫婦でびっくりしたり、感心したり。
 
そして、隣家のお父さんから「子供の頃はソフトボールをしていた方が野球の上達は早くなる」とのアドバイスを貰ったこともあり、通っている小学校で練習しているソフトボールのチームに入部することになった。
 
こうして長男は着々と野球少年への階段を登り始めた訳だが、私自身はこれまで野球を始め、球技というものにほとんど縁無く生きてきたため、野球やソフトボールチームの世界がどんなものなのか全く分からない。保護者も含めて新人状態での入部であった。
 
入部直後は「ゴリゴリの体育会系って人ばっかりなのかな?」「いわゆる『ブラック部活』だったらどうしよう……」と心配ばかりしていたのだが、その心配は良い意味で裏切られる事になった。特に子どもたちが試合で頑張っている様子は笑いと感動と悲鳴(特にお母さん達)の連続だった!
 
基本的には同じであっても、ソフトボールは野球と比較すると少しルールが異なる。まずボールの大きさが全然違うし、塁間やマウンドからバッターボックスまでの距離が野球より短い。ピッチャーは下投げじゃないといけないし、試合時間に制限があり、イニングの途中でも時間切れになったら試合が終了してしまうことや、同点のまま最終回になった場合に、「ノーアウト2塁からスタートする」と言ったものもある。
 
一概には言えないかもしれないが、野球よりスピーディーに試合が進む感じだ。
 
チームは同じ小学校に通っている子供達で、男の子も女の子も同じチームで練習する。学年もバラバラだし、経験年数も全員違う。兄弟で入っている子も居る。
 
長男が入ったチームはお世辞にも強いチームとは言えなかった。
本当に小さい頃から野球やソフトをやってきたという子の方は少なく、長男と同じ様に
小学校に入学してしばらくしてから何らかの理由で入部した子供達ばかりだった。
 
例えば、近所にコーチが住んでいて、メンバーが少ないので入ってくれと懇願された、とか、仲の良い友だちが入っていて誘われたので、特に何も考えずに入部したとか、なんかあんまり本人たちの意思とは関係ない理由だったりする。なので、心配していたブラック感はほぼ無く、保護者みんなで暖かく見守っているという雰囲気なので私個人的には大いに助かった。
 
そんな子供達なものだから、試合云々より「この子達はまともにソフトボールできるのか??」という心配の方が先に立つ。トンネル、エラーは当たり前。暴投、連携ミスはお手の物。打席に立ってもバットにかすりもしない。監督は顔を真っ赤にして皆に発破をかけるのだが、当の子供達は何を言われているのかさっぱり分からない様な顔をする。それを見てまた監督が吠える……昔の熱血野球漫画に出てきそうな典型的弱小チームなのだ。
 
それでもいざ試合となると流石に気合が入る。下手っぴな子供達でも彼らなりに懸命に準備して試合に臨む。親もそれを一生懸命に応援する。
 
私にとって野球・ソフトボールと言えばプロ野球で、球場にペナントレースを見に行ったことくらいしか無かったのだが、子供達の試合を見ることで初めて分かったことがある。
 
それは少年ソフトボールはまるで夜のジェットコースターの様だという事。乗ってしまうと先が全く見えない。でも、その不安定さがとても面白いという事だった。
 
例えば、プロ野球の試合でバッターが平凡なショートゴロを打ったとする。
その場合、ショートがボールを取って素早くファーストに送球してアウトを取る。
一連の動きは洗練されていて、無駄がなく、正確だ。
見ている方も単なるショートゴロなら確実にアウトを取ると確信する。アウトを取ることを「当たり前」と感じてしまう。
 
しかし! 少年ソフトボールではそう簡単にはいかない。
 
例えばこんな感じ。
 
ピッチャー投げた! おお、久しぶりにストライクが入った!
第二球投げた! バッター打った! 平凡なショートゴロだ!
これは大丈夫か? と思ったらショートがトンネルした!
「ギャー!!」という守備側のお母さん達の悲鳴がこだまする!
カバーのレフトがボールを追いかけようとするが、なぜかボールを蹴飛ばして益々奥の方に転がしてしまった! お母さんたち今度は笑ってる……
いつの間にか内野も外野もみんなしてボールを追いかける!
誰もベースに居ないから返球されてもアウトにできない!
その間に打者はホームイン!
監督は声も出せずに頭を抱えている……
 
プロの選手が数秒で片付けるショートゴロであってもホームランになってしまうと言う劇的展開。野球・ソフトボールとはこんなに不安定なスポーツだったのか……と驚いた。
 
結局強いチームやプロ野球というのは、このような「不安定要素」を極力排除していって
いつも確実なプレイができる集団ということなんだろうな……と感じたりもする。
 
しかし、この不安定さが逆に面白い。
ただのゴロがホームランになる。凡フライもヒットになりうる。
もちろん、これはうちのチームに限った話ではなく、よそのチームでも当然起こりうる。
ピンチは突然チャンスに変わったりするのだ。しかも唐突に。
更に、突然ファインプレーなんかも飛び出すから、更に油断できない。
お母さんたちも悲鳴を上げすぎて最後はヘロヘロになっている。
 
「試合終了」のコールがかかるまで全く予想がつかないのが少年ソフトボールなのだ。
 
ライトもない真っ暗闇の中でジェットコースターに乗っているかのような感覚。
ジェットコースターの様なスピード感とどっちに曲がるのか分からない不安定さ。
このスリル、ドキドキ感が病みつきになってしまった。
 
悲願の1勝を目指して今日も彼らは練習する。監督の怒鳴り声に負けないように
一生懸命頑張れ!と私も陰ながら応援しつつ、球拾いのお手伝いをするのであった。
 
 
 
 
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2020-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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