100%当たる占い師の話
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記事：Yuki（ライティング・ゼミ集中コース）
「私ね、3ヶ月以内にパートナー候補と出会うんだって！」
50歳を少し超えた私の友人は、自他共に認める占い好きだ。
彼女が足繁く通っている占い師は、マンションの一室でひっそりと鑑定し、紹介制でしか予約が取れないのだという。そして占いの料金は1時間で2万円。決して安くはないはずだ。
だが、予約は半年待ち、毎月1日にスタートする予約は数時間で完売するという人気ぶりだという。
彼女は「結婚したいの」が口癖だ。若い頃はモテたらしく、時間の経過を認識していないのか、今の婚活市場における自分の立ち位置にも、婚活の為の努力の必要性にも、全くと言っていいほど目を向けず、ひたすら「次の出会い」に期待している。
そして、彼女は3ヶ月に一度、チケットぴあのように予約をとり、「未来予想」のお言葉をもらう為に足繁く通っているのだ。
「だって、ものすごく当たるのよ。100%当たるんだから！」
「どういうこと？」
私は、まだ見ぬ出会いに高揚している彼女に聞いてみた。
「3年前に転職したじゃない？ あれもね、転職するなら5月に転職活動すれば条件が良い会社に移れるって言われていたのよ」
「引っ越しだって、そう。2月に西に引っ越すのがベストって言われたから、不動産屋さんに連絡してみたら、条件にぴったりの物件に出会えたのよ」
なるほど。
転職に有利と言われた時期に転職に成功し、引越しすると良いと言われた時期に最高のマンションが見つかった。
だから、今回も当たるに違いない、と言うことらしい。
私は、彼女の言葉を聞くたびに、占いとは「ガソリン」だ、と思う。
炎にガソリンを入れるだけで一瞬にして勢いが何倍にもなるように、「占い」というガソリンを「思い込み」という炎に投入するだけで、あっという間にフラーシボ効果が発令する。
そして、モチベーションが最高潮まで高まり、実際に成果を引き寄せるのではないか、と。
冷静に考えれば、同じ誕生日の日が同じ運命を辿るわけがない。
同じ字画の人が同じような人生を生きているわけがない。
タロットや易だって、「偶然」の重なりじゃないか。
だが、「自分の未来にこんなことが起こる可能性がある」と思うだけで、なんだか本当にそれが起こる気がしてくるから、人の脳は不思議である。
そして、「その為に、こういう行動をしよう」という思考になる。
その結果「それらしきこと」があった時、「やっぱり当たった！ 」となるのだ。
更に、「その人が持つ関心事に対して、脳は情報を集めるのに鋭敏になる」というＲＡＳ効果も働いて、「当たった」を後押ししているのだろう。
冷静に考えれば、3ヶ月という時間の中で新しい人との出会いが全くゼロな人は居ないだろう。
コンビニに行けば新しい店員さんが働いているし、通勤すれば知らない誰かが隣に立っている。
つまり、誰もが「パートナー候補」なのである。
こうなると、占いが本当に当たるかどうかは別の問題だ。
その結果をどのように解釈し受け止めるかが大きな要素となっているのだ。
例えば、大好きなパートナーから突然「離婚したい」と言われたとする。
その事だけを見れば、世界で一番不幸なのは自分だと言いたいくらいの出来事かもしれない。
そして、占い師に鑑定してもらったとする。
「別れた方が良いわ。1年以内にもっと素敵な人との出会いがあるから大丈夫」と言われたなら、気持ちが離れた相手に「離婚したくない」とゴネるより、さっぱりと離婚した後の方が幸せになるような気がしないだろうか。
こう考えると、占いとは、決して悪いものではない。
人は大きな決断をする時や、転機を迎えると、何かに背中を押してもらいたくなる時がある。
その時、視点を「今」から「未来」に移してくれるのが占いというものであり、時として絶望の淵から救ってくれることもある。行き場のない怒りを乗り越えるきっかけになることもあるだろう。
そして何より、アドレナリンと行動力を生み出してくれるのだ。
そう、占いは信じる／信じない、当たる／当たらないではなく、「心に火をつけるガソリン」なのだ。
そして「病は気から」ということわざがあるように、人間の思い込みの力は、私たちの想像以上なのだ。
そんなことを、目の前の彼女に言ってしまえば、「ふんっ」と鼻で一括されそうである。
私は、「良い人だと良いね。出会ったら紹介してね」と切り返した。
友人は、3ヶ月後に出会う「パートナー候補」のことで頭がいっぱいだ。
「ネイルに行かなくちゃ。新しい洋服も買い足そうかな。髪の毛もカットしてイメチェンしようかしら」と、ワクワクしている。
その彼女を見て、私は思った。
占い師が100%当たるのではない。あなたの行動力が100点満点なのだ、と。
＊＊＊
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