メディアグランプリ

車に跳ねられて空中を飛んだ話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:南 章子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「え、私まだ四年生なのに死んじゃうの?!」
 
私は、交通事故に遭った。車に跳ね飛ばされたのだ。
とんでもない事が起きた時は、スローモーションで見えるってこれか!
それをとうとう体験してしまった瞬間だった。
 
まだ四年生。身体が小さかった私は、道路から飛ばされて、その車を空中から見ることになった。車にぶつかった瞬間からすべてがスローモーションで再生されている。
 
空中から自分の家がちらっと見えた。あ、そうだ。これから学校の宿題もしないといけないし、お母さんが仕事から帰る前にお米洗っておかないと。あ、そうそう、洗濯物も取り込まなきゃ!
 
私はなぜそんなことになってしまったのかを考えた……
 
その日はいつもどおり、学校から帰って遊びに出ていた。
うちの両親は厳しかったので、行ってはいけないところはさんざん言われていたし、変なおじさんには近づかない、モノを貰わない。そんなことも理解していた。
ちょうど家の裏には国道を挟んで小さな裏山があった。そこは危ないから行かないようにずっと言われていた場所だ。もちろん、普段は近づくこともなかった。
 
しかし、その日はたまたま、だった。
ふと裏山を見ると、その山肌にパラパラと動くものがあるのを見つけたのである。
「あれ、何だろう」
単なる好奇心だった。ちょっと見に行こう。
私はその場所に行ってみた。
しかし、そのパラパラしたものの正体はどうでもいい週刊誌だった。
「なーんだ、漫画だったら持って帰ったのに」
それだけだった。
 
しかしその瞬間、ふと思いだした。裏山に行っちゃだめだよ!という母の言葉を。
 
約束を破った罪悪感に苛まれた私は、急に焦った。
「やばい!! 見つかったら怒られる」
 
そう思った瞬間、私はいち早くその場を去りたくて、山の斜面を一気に駆け下り、その勢いのまま国道に飛び出してしまったのだ。
キキーーッツ!!!!!
 
大きなブレーキ音とともに私は空中に舞った……。
 
気が付けば、私は救急の治療室にいた。
 
看護師さんが声を掛けてきた。
「痛い所はない? 言ってることはわかる?」
私は、すぐさま
「痛い所はないので、帰らせて欲しい」 と訴えた。
「何言ってるの!! あなた車にはねられたのよ!」
 
普通ならここで、何を思うのだろうか。命乞いをするのだろうか。
でも、そのとき真っ先に思ったのは「母に怒られるから早く帰りたい!!」 だった。
 
当然、私の意向は通らず色々な検査が進んでいった。
そして私の容態は足と背中に打撲がある以外は無傷だった。
 
後から聞かされたのだが、私が本当にラッキーだったようだ。はねられた車は、たまたま飛んできた紙を避けるためブレーキを踏んで減速した瞬間に私が飛び出したので、比較的遅いスピードで当たったのだ。
そして私が飛ばされたお蔭で衝突の衝撃が分散され、着地も背中からだったため、奇跡的に少々の打撲で済んだのだ。
 
自分が大した怪我をしていないとわかればわかるほど、その場から逃げ出したかった。
 
すると、母が職場から急いでやってきた。
「やばい、怒られる!」
 
すると母は治療室に入るなり号泣した。
「よかった、生きててよかった」 私は泣いている母を始めて見た。びっくりした。
 
病院から母への説明が終わり、私には帰宅の許可が出た。
母は私をおんぶしてくれた。小さいころから久しぶりだった。
恥ずかしかったけど、それ以上に、本当に母に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになった。
手を振ってくれるお医者さんや看護師さんの顔もそうなると恥ずかしくて見れなかった。
 
それから帰宅して、布団で休みながら父の帰りを待ち、とにかく父にも母にも謝った。
父はあまりなにも言わず、「ゆっくり寝たらいい」 そういった。
 
さすがにその夜は興奮していたのか、皆が寝静まった後でも眠れず一人で起きていた。
 
今まで新聞やテレビで他人の事故を見ていた時は、何してんの? ありえないよ。ちゃんと左右見て渡ってないの? と半ばバカにしていた。しかしまさか、あんなことがきっかけで自分が車に跳ねられるとは思わなかった。けがをしていないことが奇跡であって、死なないにしても大けがをしていてもおかしくなかったはずだ。
急に怖くなった。涙が出てきた。
「死んでいたらどうなっていたの?」
 
まだ小学生の私にはその大きな疑問には答えがなかった。
でも、涙の原因は分かった。両親に対してだった。悲しませる、何も恩返しができていない、という思いが溢れていた。その夜は両親に対しても周りに対して感謝をした。いっぱい心で謝った。
 
しかし、所詮小学生である。のど元過ぎればなんとやらである。
マヒもなくなり痛みも無くなると、いつもどおり親にも反抗したり、こっそり言いつけを破ることもあった。
 
けれど、心の奥では感謝の気持ちがあって、それはたまにあるイレギュラーの際に発動されていた。
まあ、空を飛ぶくらいの体験はおかげさまでそれ以降なかったものの、何かと両親には支えられてきた。
 
あ、そうか。感謝ってちゃんとしないといけないんだよね。今更ながらこうやって過去を思い出すとよみがえる。
そもそも、空を飛ぶ体験をしてからでなくても両親に感謝をしないといけないのですが。
 
怒らんといてや。いつもありがとう。私は今日も元気です。
今更なんだ? といわれそうだけどね。
 
 
 
 
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2020-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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