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会えなくても会わなくても、幻ではない。あなたは確かにそこにいる。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:南 章子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「いいやん。よかったやん! でも大丈夫か(笑) 事故るなよ」
 
どんくさい私がやりそうな事をを予測して、いつも的確なアドバイスをくれるオジサマ。
私が困ったときはいつも返事をくれて私を導いてくれる神様みたいな存在だ。
とはいえ、二人の関係は誰にも言えない。
 
そのオジサマと私は会ったことはないのだ。
 
もう、20年以上前になる。
私は、PCで友達を作ることにハマっていて、そこで仲良くなったオジサマがいた。
私より、7歳年上のユウさん。
当時の私は、引っ越しして間もない土地で馴染めず、車もなくて、ほとんどを家で過ごしていたので、結構な頻度でPCを覗いて掲示板に書き込みをしていた。
 
「買い物に行くにもどの店がよいかわからないし、おすすめのお店を教えてください」
 
そこに、返事をくれたのがユウさんだっだ。
「△△交差点の脇にある〇〇スーパーは、いつも水曜日に卵が10円になります。それから、□□ドラッグはトイレットペーパーが安いです。でも早く(7時)に閉まるので、いっぱいう〇ちしたい時はご注意を」
「情報ありがとうございます。助かります。明日水曜日なので早速行ってみます。う〇ち、大丈夫です(笑)」
そしていろんな話をするようになり、情報交換の場は掲示板からメールに変わっていった。
いつもユウさんはいろんな事を私に教えてくれた。ユウさんとものメールはもう、無くてはならないものになっていった。そんなある日、突然聞いてみた。
 
「そもそも、なんで私の書き込みに返事をしてくれたんですか?」
「あ、ペンネームがね、僕の息子と同じだったんだ」
「あら、そうなんですね。息子さんっておいくつですか?」
「うん。もう、18になるかな」
「へー! そんな大きな息子さんがいらっしゃるんだ!」
「うん。元気にしてるといいな」
「え?」
 
それはユウさんが18歳でデキ婚をして、そこから間もなくして離婚をし、それから一度も子どもさんに会わせてもらえない話だった。
たまたま見た掲示板の私のハンドルネーム、「マキ」が息子さんの名前だった。
なんとユウさんは、私が男だと思って声を掛けてきたのだ。
「でもマキちゃんとのやり取りが面白いから、ずっと話をさせてもらってるんだよ」
そんなことを言っていた。優しい人だった。
「息子のマキと離れてしまったこと。自分が悪いと思っている。でもせめてもの償いとして、プラスアルファでお金はずっと送っているんだ。だから仕事めちゃくちゃがんばってるよ」
そんな話の時は、メール越しでもユウさんが寂しく思っていることが痛いほど伝わった。
 
そんなある日、ユウさんが珍しく朝早い時間にメールをくれていた。
「ねえ! 聞いて! マキとね、あ、息子とね、会えるんだ!」
 
「よかったですね!! 楽しんできてくださいね」
 
そして、それから息子のマキさんに会ったこと、まさかのユウさんとマキさんの趣味(ギター)が同じで、遺伝子を感じた話、何より顔が似ていてお互いにすぐに打ち解けて本当に楽しかった事、そしてこれからは、そんな息子のマキさんと会えるようになった事、そんな報告を受けた。
 
私もそのころに、自分専用の車を買ってもらい嬉しくてユウさんに報告すると、
「いいやん。よかったやん! でも大丈夫か(笑) 事故るなよ。〇〇スーパーに行く時は奥の駐車場が空いてるし停めやすいよ」
そんな風にいつものように嬉しいアドバイスをくれていた。
 
私は、いろいろ出かけられるようになり、いつの間にか近所に友達もできて、PCに向かう時間も減っていった。
「便りがないのは良い便り」
そう思って、今、目の前にいる友達とのランチを楽しむ事が増えていった。
 
ふとある日、久しぶりにユウさんに相談したいことができた。
というか、車の運転に慣れたころ、ユウさんにお礼を言いに行こうと思ったのだ。
久しぶりにPCを立ち上げてみると、ユウさんから3日前に1通きていた。
 
「こんばんは。今月は息子に会うのをやめたんだ。ちょっと具合が悪くてね。早くよくならないとね」
 
あら、いつも元気で明るいユウさんが、風邪でも引いたのかな、じゃあ会いに行くのはちょっと待ったほうがいいよね。私はそう思い、メールをした。
「うっそー、残念ですね。でもすぐ良くなりますよ! お大事になさってくださいね。治ったら、ユウさんおすすめチーズケーキを事務所に持っていきますから」
 
「うふふ、ビックリするだろうな」そう思って、ニヤニヤしながら送信ボタンを押してPCをシャットダウンした。
 
けれど、次の日も、その次の日も、何度読み込んでもメールの着信はなかった。
「おーい、生きてるかい?」
「ちょっと~、ちゃんと返事してよー(笑)」
何度かメールをしたけれど、全く返信がなかった。
 
そして、一週間ほどたったある日、メールが入っていた。
「なんだあ、もう、何してたのよー」
そう思いながらメールを開くと……
 
「はじめまして。マキさん。僕は、祐二(ユウ)の息子の真樹です。生前は父がお世話になりました。
遺品整理をしているときに、仕事以外のメールを見つけました。失礼ながら読ませていただきました。いつも父と楽しそうにお話してくださっていたんですね。感謝します。このメールはもう無効になります。ありがとうございました」
 
意味が解らなかった……
 
「えっと……冗談……ではないですよね……」
そう一言送ると、返信がすぐに来た。
「いきなり、申し訳ありません。マキさんはお葬式の時にいらっしゃっていなかったようですね。父は、一週間前に、自宅で亡くなりました。咽頭ガンでした。誰にも知らせず、一人で闘い一人で亡くなりました。僕が病気を知らなかったこと、いくら悔やんでも悔やみきれません。会う約束をしていたのに会えなかった次の日の事でした。父はひとり暮らしでしたので、母に許可をもらい僕が片づけをしています」
「あ、あの……お焼香だけでも……」
「ありがとうございます。でも、こういう事情ですので、父の仕事関係の方も含めお断りをしています。
父の遺骨は、ふるさとの沖縄のお墓に納骨します。本当にお世話になりました。これをもってメールのやりとりも終わります。父の最期のメールはあなたでした」
 
そして、
そのあと何度もメールを送っても、未着で返ってきて二度と届くことはなかった。
 
誰にも言えなかったユウさんとのメールだけの関係は、突然終わった。
 
会ったことはなかったから、ユウさんが本当に存在したのかはわからない……
でもそこに、ちゃんとした心が通っていたのは幻ではない。
信頼関係を築き、私の人生を左右するほどの影響を与え、たくさんのことを教えてくれた。
むしろ……会えないからこそ、本当の思いやりを伝え、相手を信じ、尊敬できたのだろうか……
 
誰でもが、気軽にインターネットで交流ができる今、もっと人を大切にする気持ちを忘れないで欲しい。会えないから何を言ってもいいのとは違う。
ちゃんと近くで繋がっているのだから。
 
でもほんとは、「ありがとう」を直接伝えたかった。
メールアドレスに“you”と入っていた、あのアドレスを今も覚えている。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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