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どうやって自転車に乗れるようになったのか


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記事:澤田敏仁(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
どうやって自転車にのれるようになったのか、案外覚えていないものだ。
 
僕には三人の娘がいるが、中でも三女は相当プライドが高い。
3歳になったばかりのころ、ショッピングセンターのアンパンマンショーに連れていったら、「子ども扱いしないでよ!」と怒ったり、近所の同級生とそのママに食事に連れて行ってもらったら上握り寿司定食を頼んだりといった、子ども扱いされることを嫌がることはまだいい方で、人生ゲームで負けそうになると泣いたり、トランプで勝てないとキレ気味になったりする。
 
そんなだからか、ちょっと苦手なことはなんだかんだと避けて通るクセがある。
自転車もそうだ。
三輪車が小さくなったころに補助輪付きの自転車を買った。
だが、補助輪付きではスピードがでないのと、近所の友達がどんどん補助輪を外していくので、だんだん自転車に乗らなくなってしまった。
 
思い切って補助輪を外してみたら、もちろん乗れないので、もっと乗らなくなってしまった。
「自転車練習しよっか」と妻に言われても、「乗れなくてもいい!」と一蹴してしまった。
 
そんなこんなで3年以上が過ぎたが、とうとう小学生になっってしまった。いつまでも妻の自転車の後ろには乗せてもらうわけにはいかないし、友達と遊びに行くときに一人だけ走っていくわけにもいかない。
とはいっても三女はプライドが邪魔をしてやる気を見せない。
 
業を煮やした妻から僕に特訓するように指令が出た。
「乗れるようにすること」ミッションはそれだけだ。
 
先ず、長女と次女はどうやって乗れたか思い返してみた。
長女は4歳になるころ、補助輪を外して友達と遊んでいるうちに乗れるようになっていたし、次女はその長女を見て、自分も乗れると確信を持ったのか、3歳になったばかりで勝手に練習して、いつの間にか乗れるようになっていた。これでは参考にならない!
 
次に僕がどうやって乗れたかをを思い返した。30年以上前のことだったが、人生で大きな出来事だったのか結構鮮明に覚えていた。
そういえば僕も補助輪をつけたままずっと自転車に乗っていた。
僕の転機は同い年のいとこが先に自転車に乗れるようになったことだった。
女の子に先を越されたことで焦って、自分で補助輪を外し、こけそうになりながら家の近くをとにかく走りまくったら、いつの間にか乗れるようになっていた。
やはり乗りたい気持ちは大事だろう。
 
「自転車乗れるようになりたい?」三女にきいてみた。
「うん」
「じゃあ、お父さんと練習しよっか」
ということで、日曜日の朝から一緒に特訓することになった。
 
家の周りでは思い切って練習できないので、車で近くの緑地公園に行くことにした。
この公園には1周1.5キロの舗装道路があり、自転車の練習にはもってこいの環境だ。
また、家に歩いて帰るには遠いので、簡単にやめられない。
 
「こけそうになったら足をついてもいいから、乗ってみようか」と自転車に乗せてみた。
怖いので、常に両足を交互につけてパタパタ歩くのでペンギンのようだ。
「その乗り方は乗りやすい?」
「うーん、疲れる!」
「そうでしょ。じゃあ、片足ずつ、足でポーンポーンと蹴ってみようか。ペダルに足のせないでいいから」といって、スケートのように交互に足で地面を蹴っていくことを教えた。
自分が小さいころ、風を切って走るのが楽しかったことを思い出した。
ポーン、ポーンとしばらくやっていると、三女が笑顔になった。
やっぱり風を切るのが気持ちいいようだ。
 
ポーン、ポーンが板についてきたので、「次はポーンと蹴ったらペダルに足をのせてみよう」
と僕は言った。
足がつかないと倒れてしまうんじゃないか、自転車に乗れるまではそんなことを考えてしまいがちだ。
三女は恐る恐るペダルに足をのせた。
こけた!
「大丈夫?」
「うん……」ちょっとひきつっていたが、まだやる気は失っていないようだ。
「もう一回やってみよう。お父さんが後ろを支えておくから」
もう一回チャレンジした。
僕は後ろの荷台部分を持って一緒に走った。
グラグラするが、何とか10メートル進めた。
「よし、もう一回!」
「うん!」
15メートル、20メートルとグラグラしながらも徐々に距離は伸びてきた。
 
「すごい、すごい。もう一回やってみよう」
僕が荷台を持ってスタートした。
僕は途中でそっと手を離した。
手を放しても、こけずに進んでいたが、支えがないことに気づいた瞬間にこけてしまった。
 
僕は三女のもとに走っていき「手を放しても乗れてたよ、あとは一人で乗れるよ」といった。
三女は起き上がりながら微笑んだ。
 
それから三女は何度もこけたり、林に突っ込みながら練習を重ねた。
その姿を見ていると、よちよち歩きを始めた頃がよみがえってきた。
あの頃、何回転んでも歩くのを止めなかったな。
そして転んでも、転んでも笑顔だった。
歩けるのがうれしかったんだな。
そんなことを思い出していた。
 
そして、夕方には公園の1.5キロの舗装道路をこけずに一周することができた。
まだまだ公道を走るには危なっかしいが、三女は笑っていた。
その笑顔はよちよち歩きを始めた頃と同じだった。
 
 
 
 
***

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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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