メディアグランプリ

「モラル・ハラスメント」≠「言葉の暴力」


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記事:S. A.(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
モラル・ハラスメント(moral harassment、以下「モラハラ」)を知っていますか。
こう問われれば、「知っている」と答える人のほうが多いでしょう。
芸能人が離婚や訴訟に踏み切った理由として、マスコミにも度々取り上げられています。
 
ただ、今日は、ある可能性について、少し考えてみていただきたいのです。
「モラハラの真の実態は、自分の想像とは少し違うかもしれない」という可能性についてです。
 
モラハラの例を挙げてくださいと言われたら、あなたはどんなシーンを思い浮かべますか。
 
夫から「お前は人間としての価値もない」と毎日言われる妻
母親から「お前なんて生まれてこなければよかったのに」と毎日言われる子ども
上司から「君には仕事の能力が欠けている」と毎日言われる部下
 
などでしょうか。
 
しかし、ちょっと待ってください。
モラハラは暴言・悪口、つまり、「言葉の暴力」なのでしょうか。
 
ただの暴言・悪口が、社会問題になるでしょうか。
離婚や訴訟や退職の原因になるでしょうか。
うつ病患者や自殺者を生み出すでしょうか。
 
では、そもそも、モラハラとは一体何なのでしょうか。
自分がモラハラの被害者にならないためには、あるいは、加害者にならないためには、何に気をつけたらいいのか、個人として、または、企業人として、気になったことはありませんか。
 
広辞苑のモラル・ハラスメントの項には「暴力は振るわず、言葉や態度で嫌がらせをし、いじめること。精神的暴力。精神的虐待。モラハラ」と書かれています。
モラハラは1991年にフランスのマリー=フランス・イルゴイエンヌという精神科医が初めて提唱した、比較的新しい言葉です。
イルゴイエンヌの母国フランスでは、2002年1月に職場におけるモラハラを禁止する法律が制定されました。更に2004年、モラハラは犯罪となり、実刑懲役と罰金が課せられるようになりました。また、フランスに先立ち、スウェーデンでは1993年に、企業におけるモラハラは犯罪として認められました。
 
なるほど、モラハラは「言葉の暴力」ではなく、「精神的暴力」「精神的虐待」のことなのか、と納得してしまわないでください。
 
では、もしも今日、小さな子どもが以下のセリフを暗記して、私に向かって発したら、どうでしょうか。
 
「おまえはにんげんとしてのかちもない」
「おまえなんてうまれてこなければよかったのに」
「きみにはしごとののうりょくがかけている」
 
私は少し傷つきます。気分は良くありません。
身体的ではない暴力で傷つきましたから、これも「精神的暴力」と言えないこともありません。
でも、このような言葉で私の心を不愉快にさせる行為をモラハラと呼んでいるわけでもないのです。
 
モラハラには、加害者と被害者の間のある関係が大きく関与します。
暴言や無視などの嫌がらせは、あくまでもその手段にすぎません。
 
その関係とは何か。支配関係です。
 
「被害者が支配されているのは当たり前だろう」と笑われるかもしれません。
しかしその支配は実に強力なもので、また、陰険です。
モラハラの被害者は、加害者に洗脳され、完全にコントロールされています。
 
夫から「お前は人間としての価値もない」と毎日言われる妻は、別居や離婚という選択肢は思い浮かばないくらい支配されています。
母親から「お前なんて生まれてこなければよかったのに」と毎日言われる子どもは、他の大人にSOSを出すことなんて思いつかないくらい支配されています。
上司から「君には仕事の能力が欠けている」と毎日言われる部下は、自分には転職など絶対に無理なのだと思い込まされるくらい、支配されています。
 
何故、被害者はそこまで支配されてしまうのか。
何故、加害者はそこまで支配できてしまうのか。
 
モラハラの加害者や被害者の背景や、支配の具体的な進み方については、本日は言及を避けます。
 
私が望むことはただひとつです。
それは、モラハラに対する理解が進み、世の中からモラハラが撲滅されることです。
 
世の中にモラハラが正しく理解されていないため、被害者は被害の実態を他人に話しても、理解してもらうことができず、被害が小さく見積もられることが少なくありません。
また、加害者が被害者を装い、世間を味方につけてしまうこともよくあります。
モラハラとは、「言葉の暴力」でも「精神的暴力」でもなく、恐ろしい「支配」なのだと多くの方に認識してほしいのです。
より多くの人がモラハラを認知することが、被害者をより早く、適切に救い出すことにつながります。
もしあなたの友人や知人が「私のパートナーはモラハラかもしれない」「私は職場でモラハラを受けているかもしれない」と相談してきたとき、「ああ、モラハラね。知っているよ」と知ったかぶりをせず、専門的な相談員のいるDV相談窓口や人権相談窓口へ行くよう促してほしいのです。
相談してきた人に向かって、「世の中にはよくあることだよ。あまり気にしないほうがいいよ」「あなたにも悪いところがあったのではないだろうか」とは決して言ってほしくないのです。
あなたのよく知らない何かが、被害者と加害者の間で起こっていると思ってほしいのです。
 
あるモラハラサバイバーからの、お願いでした。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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