「〜しなきゃ」から解放される無二の場所
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:高橋 共子(ライティング・ゼミ日曜コース)
もう、飽き飽きしていた。
もう、疲れ切っていた。
朝、布団の中での「はぁ、体起こさなきゃ」に始まり、
「はぁ、キッチン綺麗にしなきゃ」
「はぁ、植物に水やらなきゃ」
「はぁ、メイクしなきゃ」
「はぁ、マスクしなきゃ」
「はぁ、メール返さなきゃ」
朝目覚めた瞬間から津波のように押し寄せる「〜しなきゃ」だらけの毎日。
別にキッチンが汚いところで自分や家族が死ぬわけではない。
植物に水をやらなかったところで私の人生が破滅するわけでもない。
メイクしなかったところで友人に絶縁されることもないだろうし、メールを返さなかったところで取引先に殺されるわけでもないのだ。
それでも、私は「〜しなきゃ」を選んで生きている。
だけど少し、そんな毎日に疲れてきたのが本音だ。
もういい加減解放されたい。
いや、この先未来永劫、ずっととは言わない。
ほんの1時間でもいい。なんなら、30分でも。
「〜しなきゃ」から解放されて、何も考えずにぼーっとできる、そして時間が来たら自分を目的地に連れて行ってくれる、そんな場所はないだろうか…
あった。
あったんです奥さん。
それが、めちゃめちゃ身近なところで、たった200円にも満たない利用料で使える場所が。
Gotoキャンペーンから除外されようとされまいと、ここなら都民でも大丈夫。
そんな場所があなたの徒歩圏内にあるんですよと言われたら、驚くだろうか。
金融系の営業職についてもうすぐ7年目になる私は、週6以上、日に何度もそいつに乗り移動する生活を6年以上続けてきた。
ところが2020年4月、緊急事態宣言の発令により、150年以上続く我が社の歴史上初、「営業マンの2ヶ月の自宅待機」が課せられる。
前後の自粛期間を含めると、ほぼ3ヶ月そいつに乗らない時間を過ごした。
こんなにも「そいつに乗らない日々」が連続するのは、私の人生において初めてのことだった。
しかし、このコロナがなければ私は気づかなかっただろう。
「電車に乗る時間」が、私を膨大な「〜しなきゃ」から私を解放させれくれる場所だったということに。
電車移動は、すごいのだ。
まず、車のように地図を見る必要も、ハンドルを握る必要もない。
お願いせずともプロの運転手が安全に私を目的地に連れて行ってくれる。
「ちゃんと安全運転しなきゃ」「ちゃんと効率いいルートで行かなきゃ」など運転のプレッシャーからの完全な解放だ。
さらに電車移動は、どれだけぼーっと過ごしても、どれだけ爆睡していても、誰にも何も言われない。一度乗り込んだら、あとは揺れに身を任せて自分の自由時間だ。
家にいるときのような「あぁここホコリたまってる、掃除しなきゃ」もなければ、職場での「あぁ面倒な上司が話しかけてきたよ…ちゃんと報告しなきゃ」もない。電車内で目の前に広がるのは、99%今後の人生において関わることのないであろう無作為に乗り込んだ人たちだ。口を全開にして寝ていたって、恥ずかしいのはせいぜい数十分程度。安心して爆睡できる。
そして電車移動は、永遠ではない。
必ず終着地点がある。
「目的地に着くまでの30分」と自分の中で決めて、好きなことをして自由に過ごせるのだ。必ず終わりが来るのがわかるから、割り切って「何も考えない」を選ぶことができる。
これが家だと、「何も考えずに寝てしまったら寝過ごすかもしれない…はぁ、アラームかけなきゃ」となり、なかなかうまいこと心身を解放することができなかったりする。
コロナ前までは、これらをまったく気にも留めていなかった。
むしろ、電車移動さえなければ早く営業先にたどり着けて1件でも多く訪問できる。
その方が効率がいいのにと思っていたくらいだ。
さらに同じ移動でも電車ではなく車なら好きな音楽を爆音で流せるし、大声で叫んだり営業のロールプレイを一人でしたって誰にも迷惑をかけないのに、と思っていた。
電車移動は、私を「〜しなきゃ」から解放させてくれる時間であり、場所だった。
オンライン商談で1日5件も6件も、移動ありきではなかなか入れられない数の商談数を入れられるようになった昨今。
確かに効率はとても良くなった。
しかし、ずっとひとところにとどまり、次から次へと「〜しなきゃ」がやってくる状況では、どうにも自分を解放できないものだ。
電車移動という、どんなに長くても2時間程度の、終わりある限られた時間。
何も考えずとも目的地に最短距離で連れて行ってくれて、適度に人はいるけれど自分を知る人はそこにいない。
どんなに効率化された世の中になっても、私は手軽に「〜しなきゃ」から解放されてリラックスできるこの空間と場所を、これからもちょっぴりでいいから味わっていく働き方を選びたい。
***
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