拝啓、天国のおばちゃん
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:市原冴也香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「拝啓、おばちゃん。天国で元気にしていますか?」
もし天国に手紙をかけるなら、どうしても書きたい相手がいる。
それは伯母だ。
「おばちゃんが亡くなったって連絡があった。三宿病院にいるから来れたら来て」
仕事中に母から突然のL I N Eが来たのは今から3年半前、冬のど真ん中の寒い日だった。
「ウソでしょ? 2週間前に会ったばっかりだよ!」
頭の芯が驚きでジンと痺れ、もどかしいほどスマートフォンを持つ手が震えてうまく返信ができなかった。
そんな自分を鼓舞しながらタクシーで病院に向かった。
到着した時にはすでに父と母、そして姉と弟が暗い顔をしてそこにいた。
「ねえどういうこと? 本当なの? 何があったの?」
矢継ぎ早に質問する私に答えたのは父だった。
「今朝ヘルパーさんが家に行ったらインターホンに出なくて、鍵を預けていた上の階の人が開けたら倒れてたらしい。救急車を呼んだけど間に合わなかったそうだ」
父の話を聞いてもどこか信用できなかった。眠っているように横たわっている伯母の顔を見たら今にも起きそうだったからだ。
けれども声をかけても起き上がってこなくて、じわじわと現実感が増していくのと同時に体の芯が冷えていった。
嗚咽が止まらなかった。
伯母は東京駅の企業で働くOLで、新卒から定年までずっと同じ会社で働いていた。にこやかでよくしゃべり、友人が多かった。
そして八重洲の地下街に行くと色々なお店の人から話しかけられる。
「こんにちは! 今日は娘さんと一緒ですか?」
「妹の娘なの。姪なのよ」
「姪御さんですか。仲良さそうでいいですね!」
楽しそうに返事をしている叔母を見ると、なんだか私も嬉しくなった。
子供の頃は伯母の会社の行事に姉弟と共に参加し、ディズニーランドやサマーランドに連れていってもらった。
大人になってからは職場が近いこともあり、伯母とはよく食事に行った。
「二人だけでずるい!」
母が文句を言う程、よく会っていたのだ。
しかし、定年退職をした伯母は程なくして体に不調が現れて、少しずつ体が言うことをきかなくなっていった。
病院では「パーキンソン病」の疑いだと言われ、直す手立ては見つからなかった。
これからもっと一緒に出かけられると思っていた母は、わかりやすいほどに落ち込んでいた。
いつものように正月に来れないほど体がますます動かなくなっていく様子を見て、どうにかしたいと思い悩み家にあった「自分を愛して」というスピリチュアル的な本を手に取ってみた。
藁にもすがる思いで、伯母の体が自由に動けるように戻って欲しいと願っていたから。
その本は、心と感情のレベルでその病気が何を伝えているのかというもので、私は「パーキンソン」の欄を開いた。
その本を見て、慌てて井の頭線に乗り伯母の家に向かった。
前から物が多かった伯母の家は、さらに増えて家が狭く感じた。ゴオオとヒーターの音が響く室内で話し始めた。
「おばちゃん、ちょっと変なこと言うね。パーキンソンって、自分のことを許し、愛して欲しいっていう病気なんだって。
だから、おばちゃんの中にいるちっちゃいおばちゃんのことを、愛してあげてね」
そう話した私の顔を伯母が見た。
「そうなんだ。さやちゃん。ありがとう」
しばらく話をしてからその日は伯母の家を出た。
しかし、何か言い忘れている気がしていた。
でも、何を言い忘れたかわからない。こんなことを言いに来たんだっけ? と、忘れ物をした感覚を覚えた。
伯母が亡くなってから3年が経った時に、ふと伯母の会社で働いていた、私もお世話になった方に手紙を書いた。
子供の頃にお世話になったにも関わらず、伯母の葬儀でゆっくりと話すことができなかったことを後悔していたから。
「今でも毎年、命日には仲の良い人たちで集まっています」
返事を聞いて伯母がたくさんの人に今でも愛されていることを知った。亡くなって3年経っても伯母は私を含めたくさんの人たちの心にいるのだ。
伯母の笑顔が蘇ってきた。
たくさんの思い出が蘇ってきた。
母にも言えない話を、伯母には相談してきたことを思い出した。
もっともっと会っていろんな話をしたかった。
「ああ、おばちゃんに会いたいなあ!!」
そうしみじみと思った時に、伯母の家に駆けつけた日のことを思い出したのだ。
「おばちゃん、自分のことを愛してね」
これを言いたかったんじゃない!
私が言いたかったことは他にあったじゃないか!
もし今、天国に手紙を書けるなら伯母に伝えたいことがある。
「拝啓、おばちゃん。天国で元気にしていますか?
おばちゃんに慌てて会いにいった日のことを覚えていますか?
ごめんなさい。私はひとつ伝え忘れていました。
おばちゃん、いつまでもいつまでも大好きだよ。
そして、今まで本当にありがとう」
***
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