人は何歳になっても変わることができる。
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記事:若林 徳子(ライティング・ゼミ日曜コース)
人は何歳になっても変わることができる。
安いCMのキャッチコピーみたいだが、それは本当だと思う。
現に、40代で私が変わる瞬間を経験したのだから。
私が、犬と初めて一緒に暮らした経験があるのが、小学校後半から中学校の頃である。
実家の裏の駐車場に捨てられていた野良犬を迎入れたのだ。
名前はポチと命名。よくある名前だ。
かなり大きくなっていたのは覚えているが、細かくは覚えていない。
と言うのも興味がなかったからだ。
写真を見て、そうそう、こんな感じだったと思い出す程度。
犬が嫌いなわけでもなく、とはいえ、特に率先して面倒見るわけでもなく、今では考えられないが、1日つながれていてもなんとも思わない。
野良犬だったポチだが、私たちに危害を加えるわけでもなく、近くを通ると尻尾を振り、なでるとすり寄ってくる。
「ポチ」と呼ぶと、遊んでくれるのかと期待に胸を膨らませ、キラキラした目で私に尻尾を振ってきた。
まあ……かわいい。
犬を飼うことに興味がなかったわけだから、感情としてはその程度だ。
ポチが犬生を全うしたときも、そう悲しくもなかったし、どのように看取ったのかも忘れてしまった。
次に、犬と暮らすことになったのが、結婚して10年ほどたった頃。
主人の実家では、ずっと犬を飼っていて、お産をさせた経験もあることから
「子供がいなくても、犬が家にいると家庭内が明るくなる。」とずっと勧められていた。
まあ、子供がいなくても十二分に明るく楽しく自由に暮らしていたのだが、ある日出会ってしまったのだ、ホームセンターで。
ふらっと、犬を飼うつもりではなく、忘れてしまったが何か買い物に行った時、ホームセンターに併設されているペットショップで手のひらほどの小さいチワワを見た瞬間、かわいい! 連れて帰りたい! という衝動に駆られた。
犬を飼うこととはどういうことかわからず、まさに衝動買いだ。
命を衝動買いするって、今考えると恐ろしいことではあるが、当時の私は全て思い通りにことを運びたかったのである。
幸い、主人が犬を飼うこと、犬と遊ぶことに慣れていたのが救いだった。
かわいいチワワの赤ちゃんを手に入れ少しの母性を感じていたが、我が家に来てたった1週間でなくなってしまった。母体の中で伝染病にかかっていたのだ。
集中治療室にいれ、手厚く手当てしてもらったが、99%の死亡率、助かることなく天に昇った。
その時は、悲しくて悲しくて、葬儀の時は泣き崩れていたのを今でもよく覚えている。
それからすぐに、ペットショップから声をかけていただき、表現は悪いが「代犬」と言うことで、私の人生を大きく変える犬との出会いとなった。
咲太郎と名付けたチワワの男の子。
14年と3ヶ月一緒に生活を共にすることになる。
もちろん、衝動買いから始まった犬との生活故
咲太郎とどう関わっていいのか
咲太郎がどう感じているのか
咲太郎はどうして欲しいのか
全然わからず、6年間ほどは「一緒に住んでいる」程度だった。
こんな私にも、咲太郎は私に寄り添い、私の機嫌が悪そうだと様子をうかがい、本当に子犬らしい生活をさせてあげられなかったことは、いつまでも私の心にしこりを残している。
いつまでも子犬でいるわけではなく、7歳を過ぎた頃から少しずつ投薬が必要になり、12歳になってすぐ入院をしなければいけないほど大きく体調を崩した。
老化で心臓の循環が悪くなったことによる腎不全である。
昨日までモリモリ食べて、遊んで、お散歩にも行き、普通に過ごしていたのに、急にぐったり下痢と嘔吐、もちろん食欲もない。
今でも鮮明に覚えている。
1週間ほど病院に預けることになったのだが、状況が全然好転せず、私は心配で押しつぶされそうになっていた。
その時、気づかされた。
咲太郎は私の大黒柱なのだと言うことを。
大黒柱というのは一家の支えという意味で使われ、特に経済的な支えという意味で使われることが多いようだが
咲太郎の場合は、私や主人にとって精神的支えだったのだ。
とにかく不安で心配で、何をやっても楽しめない。
周りには
「私がやって上げられることはないから、獣医さんに任せている。」と
言っていたものの、心配で心ここにあらず。
大切なものは、失ってから気づくというが
まさに、このとき、咲太郎が体調を崩してから、私のことを咲太郎がどんなに支えてくれていたのか、生きている以上必ず終末がくるのだと、気づかされたのである。
このことがあってから、咲太郎の毎日の体調の善し悪しで一喜一憂し、本当に本当に咲太郎のことを大事にした。
それと同時に、感謝も。
最初の犬、ポチの時から考えると、ものすごい変わり様だ。
たった1週間、入院しただけでこの状態なのだから、咲太郎が天に召されたときのことは、お察しいただきたい。
私は、今まで自分にしか興味がない人間だと思っていた。子供にも興味がなく、逆に自分を妨げるものは、たとえ人間の赤ん坊でも疎ましく思う。かなり冷たい人間なのだと。それでもいいと思っていた。
だが、咲太郎との生活が私を変えたのである。
今では、保護犬のボランティアにまで参加するほどだ。
自分でも信じられない。
人は何歳になっても変わることができる。
変わると言っても表面的なことではない、人となりまでも変わるれるのだ。
そう気づかせてくれた、小さな命は今でも私にとっての大黒柱である。
***
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